表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.4『VS魔女』編
93/105

物語No.87『勇者は思い出す』

 ーーあなたは勇者になりなさい。


 幼い頃、誰もが言った。

 生まれたばかりで言葉が分かり、二本足で立て、魔法を使える私に。


 期待の押しつけ、というと語弊が生じるかもしれない。

 だが、語弊が語弊でなくなるほどの、文字通りの意味以上のものを私は受けてきた。

 生まれた瞬間から、誰もが私に期待した。


「あなたは世界一の勇者になるのよ」

「あなた様の降臨を長らくお待ちしておりました」

「どうか、我々を率いてください」


 幼い私に誰もが平伏した。

 なぜだろうか。

 まだ幼いながらも、なぜか私は知っていた。


 世界には避けることのできない分岐点がある。

 一つは世界の始まり。一つは世界の終わり。

 どうやら私は世界の始まりそのものだったらしい。

 私が生まれた意味は、世界の始まりだった。


 私の誕生と同時、世界に始まりの樹が生まれた。

 聞くところによると、それ以前に終わりの樹が存在していたらしい。だが私の登場とともに枯れ、始まりの樹が世界の中心になったという。

 始まりと終わり。

 世界は囚われている。誰もが始まりと終わりを有している。


 それでも、誰かが言った。

 私に終わりはないのだと。私は始まりそのものなのだから、と。


 それから私は導かれるようにある大樹の中へ入った。それは異世界にも現実世界にも存在する樹。

 湖の中心に生え、最上部が見えないほど大きく高い。いや、木葉そのものが空なのかもしれない。

 その樹の中で、私はある剣と出逢った。

 樹の中に生えるように存在する、神聖なオーラを漂わせている剣。


 剣を手に取った瞬間、私は理解した。

 私は生まれた瞬間から、この剣を取ることが定められていたのだと。


 私には関係ないことだ。私は私であり続ければ、それでいい。


 はずだった。

 だが私はまるで神が作ったように完璧だった。神そのものとは呼べないものの、この世界で私にできないことはほんの一握りしかなかった。

 あらゆる武術、あらゆる魔法、あらゆる知恵を身につけた。

 どれほど難易度が高い業があっても、一目見れば習得できる。一目見ずとも、説明さえあれば事足りた。

 まるで、神が初期設定に含んでいたかのように。


 それでも私にできないことがある。

 私は生まれながらに完璧だったから失敗をしない。敗北を知らなかった。

 最初は私は永遠に勝利し続けるのだと、そう過信していた。世界のすべてが私よりも弱いようにしか見えなかった。

 だがいつからか、私は脅えた。

 誰かに負けたわけでも、ましてや死ぬような思いをしたわけでもなかった。

 私は負けることを恐れてしまった。勝ち続けるあまり、終わりが見えなくなった。

 もし私が負ければ、もし私より強い者がこの世界にいるとすれば。考えるだけで私の心が恐怖に支配された。


「さすがは最強の勇者様だ」


 やめてください。


「次の遠征もどうせモンスターを圧倒するんだろ」


 やめてください。


「あなたが負ける? そんなことありえませんね。だとすれば、この世界に悲劇が訪れるでしょうから」


 もうやめてよ。


 私はただ逃げたかった。

 私はただ戦いたくなかった。

 私はもう剣を振るいたくなかった。


 最強無敗の勇者様。

 すべてをあなたに託します。



 一度期待をしてくれた相手から見離されたくなかったから。

 皆が私に抱く憧憬を壊したくなかったから。


 だから私に目覚めた潜在能力は、


初剣(ういじん)


 たった一度で相手を殺す凶器の刃。

 潜在能力『初見殺し』はあらゆる敵を一撃で葬る。

 潜在能力を初めて使う相手であるならば、私の刃は一撃で相手を絶命させる。

 私の潜在能力は容赦を知らない。加減を知らない。

 敗北を知りたくないから、私は最強になった。


 だが今、私を慕っていた仲間が次々と死んでいく。

 私は最強のはずなのに圧されていた。

 十人がかりでも劣勢が続いていた。

 魔女の魔法に翻弄され、敗北を知りそうになっている。


 否定しなければいけない。

 敗北を知りそうに……なんて、嘘だ。

 私は負けたんだ。

 仲間を殺された時点で私の敗北は決まっている。

 仲間を護り、敵を討つ。そんな最強が私だったはずなのに。


 負けた。

 私は負けたんだ。


 自分には嘘をつくな。

 自分の現状を受け入れろ。

 私は敗者だ。

 それを心に刻み込め。



 私は身体を奮い起こす。

 二度と負けないように。

 二度と仲間を失わないように。



「私はここで魔女(お前)を討つ!」





 そして勇者が目覚める日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ