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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.4『VS魔女』編
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物語No.86『魔女は死んだ』

 魔女の右手が触れたのは勇者ではなかった。

 魔女の思惑を悟ったペインが身を挺して勇者を庇った。

 結果、ペインは絶命した。

 命が途切れ、飛行魔法が消失したペインは雨に打たれながら地に落ちる。


「ちっ。せっかく左腕を代償にしたが、仕留めきれなかったか」


 魔女の左腕は斬り飛ばされた。

 代わりに勇者を殺せれば良かったが、結果は功を奏さなかった。

 勇者の剣は暦の槍と同様の効果を有していた。故に魔女の左腕は治らない。


「左腕が惜しいか」


「左目に左腕。次はどこを奪うつもりだ」


「命だ」


 勇者は魔女と対峙していた中で、表情はひどく曇っていた。

 視線は落ちていったペインを追いかけるように。


「仲間の命が惜しかったか?」


「ああ。あいつは……戦闘キャラじゃなかったからな。だから驚いたんだ。自分の命を犠牲にしてまで、私を庇うなんて」


 ペインと長い付き合いの勇者だから分かることがある。


「あいつは私に命を繋いだ」


「どうせお前もすぐに死ぬ」


「いいや、私は死なないさ」


「過剰な自信だな」


「当たり前でしょ。私は勇者、すべての冒険者の期待を背負っている。だからここであなたを討つの」


 勇者の脳裏には、散っていた者たちの表情が浮かぶ。

 皆、最後まで生きようと抗った。


「期待を背負うだけ、私は強くなる」


「嗤える」


「笑えばいいさ。その間、お前は私を捉えられない」


 勇者は笑った。

 まるで自分が最強と、信じて疑わない。

 魔女はその自信を虚勢と捉えた。


 次の瞬間、それが本物であると分かる。

 瞬く間の一撃。瞬間移動さえ間に合わない刹那の出来事。

 その時、勇者は魔女を斬った。右肩から左腰にかけて鮮血が迸る。


「見えなかった」


 勇者の速度は常軌を逸していた。ただでさえ異次元な身体能力や戦闘の才を有している。

 魔女との戦いの中で、勇者は進化した。


「だったら見えなくなればいい」


 魔女は不可視化の魔法により、勇者の追跡を逃れようとした。だが魔女は目に魔力を集め、魔力の動きが見えるよう集中する。


「見える」


 魔女から出る糸のように細い魔力を辿って居場所を見た。


「魔法が雑になってるぞ」


 今まで僅かでも漏らすことのなかった魔法の痕跡。精巧な魔法が崩れ始めていた。

 勇者の攻撃が魔女に再び血の雨を降らせる。

 魔女の仕掛けた賭けの失敗。それは魔女を刻々と劣勢に追い込む。


 血を流しすぎた。

 意識が朦朧とし始めている。


「ああ、まずい」


 魔女は千鳥足で右往左往している。


「このままじゃ、死ぬ」


 魔女は死の直前にいた。

 天秤が地にすれすれになるほど、死へ傾いている。

 勇者は最後まで油断はしない。首を跳ねるため、剣を横一閃に振るう。

 魔女は瞬間移動でかわすが、勇者に移動先を読まれていた。同じく瞬間移動した勇者の刃が脳天に届く。


「終わりだ。魔女」


「フフッ」


 魔女は笑っていた。

 勇者が見せた隙。それは魔女の首もとに刃が僅かに触れた瞬間だった。

 魔女は小さく呟いた。


「この魔法を使うのは嫌なのよね」


 勇者は魔法を使わせまいと、最大限の力で魔女の首を跳ねた。刃は弧を描き、刃は確かに魔女の首を斬り落とした。

 血が噴き出し、絶命する。

 その考えが間違いだった。


 魔女の首が跳ねたと同時、勇者の首に血の線が走る。首を一周する謎の線。

 勇者が首の血に驚く束の間、魔女の首は時間が戻るかのように宙を舞い、胴体と繋がった。


「何を……何をしたッ!?」

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