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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.4『VS魔女』編
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物語No.85『残酷な世界に立ち向かうための勇気』

 魔女により、仲間を次々と失った勇者。

 残るはペインとオシリスだが、オシリスは精神崩壊を起こし、戦える状況ではない。


「私の魔法は絶望を呼ぶ」


 世界が一瞬で絶望に落とされた。


「私の魔法は希望を断つ」


 魔女を討つ、その希望は泡沫とともに消えていった。


「私の魔法は終焉を告げる」


 世界が終わる日。

 魔女は全力を解放した。


「やはり終焉は派手にいこうかしら。その方があなたたちも嬉しいわよね」


 魔女の微笑みを浮かべる。

 目はアーチを作り、口は三日月を作る。


「私は負けない。どれだけあなたが強くても、私は屈しない」


「早く死になさい」


 魔女は勇者の真正面に転移する。そして左手に溜めた黒い稲妻で勇者の心臓を貫ける。


「当たれば即死、『致命的な流電デッドリー・エレクトロ』」


 はずもなく、攻撃が行われる直前、勇者は魔女を真正面から斬り裂いた。


「また分身か」


 だが真っ二つになった魔女は血を流さず霧散した。


「やはりあなたを相手にすると厄介だわ」


 魔女と勇者は互いに決め手に欠いていた。

 あと一歩まで追い詰めることができても、互いの力量が拮抗している限り決着がつかない。


「仕方ないわ。私も犠牲を覚悟であなたを殺す」


「ペイン、私の側から離れるな」


「分かった……」


 ペインは心の底でため息をついた。

 勇者の足を引っ張っている。魔女の前で、回復力は意味を為さなかった。

 たった一撃で他者を殺すことができる魔女。最も欲せられるのは蘇生魔法。


 無数の分身が勇者を囲むように出現。

 勇者は瞳に魔力を集中させ、魔女の本体を探る。だが分身にも攻撃力が存在している。

 すべての分身が『致命的な流電』の魔法を使用し、襲いかかる。勇者は疾風のごとく、時に雷鳴のごとく勢いで分身を斬り伏せる。

 魔女の攻撃は時折ペインを狙う。ペインは反応できず、勇者が斬る。


 勇者の負担は大きすぎる。魔女という敵に対し、少しの油断もできない中、ペインを庇いながらの戦闘。

 明らかに不利。このままでは勇者は負ける。


「ペイン、私の体力を回復させろ」


「わ、分かった」


 ついサポートを忘れていた。

 勇者の体力を回復させる。


 勇者の動きは一段と加速し、魔女の分身が次々と瞬殺されていく。


「いつまで続けるつもりだ」


「あなたが力尽きるまで」


 このまま魔女の猛攻が続けば、勇者は直に体力が枯渇する。だがそれは魔女にとっても良いことはない。

 ライが来る可能性を踏まえると、一秒でも早く勇者を討たなければいけない。


 魔女はライの潜在能力について幾つか考察していた。

 それはライの潜在能力に生じている制限。

 もしライがこの世界に戻ってきた場合、それはインターバルの消失を意味する。

 嘘を真実に変える、そこにインターバルがなくなれば最悪の攻撃があられのように吹き荒れる。魔女であろうとそれは恐れる。

 だがそれでも残ってしまう制限の一つとして考えられるのが、死者の復活が不可能ということ。

 あくまでも推測であり、憶測。だが事実であった場合、勇者を殺すことで得られる有利(アドバンテージ)が大きい。


 魔女はなんとしても勇者を殺したかった。

 故に、ある程度の負傷は厭わない。


 勇者の剣は暦の槍と同様、再生が不可能。攻撃を負うことは避けたかった。

 だが、勇者を殺すためには代償が必要だ。


「『致命的な流電デッドリー・エレクトロ』」


 魔女は右手に漆黒の稲妻を纏い、勇者の懐へ忍び込む。

 勇者は間合いの三十六センチ以内に入る前にすべての分身を斬っている。だが攻撃がペインに向いた時だけは別。

 この数十秒、分身を勇者と戦わせて気付いたこと。


「終焉のために死になさい」


 瞬間移動により、ペインのすぐ側まで迫った魔女。瞬間移動により近づかれ、勇者の動きは僅かに遅れる。

 勇者は他の分身に構わず本体である魔女を狙う。そこが唯一の狙い目。

 ペイン越しに刃を振るうには動作が必ずコンマ三秒遅れる。その上狙える軌道は限られている。自身の左右にも分身がいるため、同時に仕留めようと横薙ぎに攻撃が行われるはず。勇者は横薙ぎに攻撃をする際、六割が右から左に行われる。

 あからさまに狙わせれば自分の動きが読まれる可能性もある。だから魔女は二択にかけた。


「お前が本体だな」


「だったら殺してみろ」


 魔女はかけた。

 死を覚悟して、終焉のために右手を振るう。


 勇者は剣を横薙ぎに振るった。

 右から左に、剣が振るわれた。

 それを見た魔女の口は三日月のようにつり上がる。


 魔女は左腕を犠牲にし、剣を受け止めた。同時に、魔女の右手は勇者の心臓に届く隙が生まれた。

 一瞬の出来事。

 魔女はその数瞬のためだけに動いていた。魔女の右手はペインの脇下を通り、勇者に届く。


「がっ……」


 右手は届いた。

 確かに、心臓を黒い稲妻が貫いた。


 血が、心臓から溢れ出した。それは確かなる死だった。

 心臓を続いて流れた電気は全身に巡り、絶命する。

 それが『致命的な流電』という魔法。




 だから、ペインは身を挺して勇者を庇った。

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