物語No.81『勇者VS魔女』
世界が終わる日。
魔女の魔法により、世界は混沌に満ちる。
ギルド街外縁に布陣する第三師団。
真実の右は降り注ぐ雷を一つ一つ撃ち落とすも、あまりの威力と数に圧され、全身に傷を負い続けていた。
魔法警察本部に待ち構えていたイグナイト警部は炎を無効化するも、降り注ぐのは炎だけではない。
雷や氷、木や石が降り注ぐ中を無事でいられるはずがなかった。
全身を血に染める。
各地で負傷する冒険者。
だが今は傍観し、防御に徹することしかできない。
なぜなら魔女は、もう惜しまない。
これまで自身の力を過信し、油断し、軽率な判断をしてきたからこそ魔女を討ち取る機会があった。
だが今は違う。
何度も失敗を重ね、左目を失ったことで彼女は変わった。
浅はかな行動はしない。どれほど弱い相手であろうと、全力で葬る。
彼女は世界に死をもたらした。
すべての者が一瞬で恐怖に染まる。
戦意喪失する者、背を向けて逃げ出す者、現実逃避する者など、戦いにもなっていない状況だ。
だがしかし、恐怖に染まらぬ者がいた。
「勇者様、魔女は初っ端から全力で来るようですよ」
「構わん。私もそのつもりだ」
完全武装で地獄絵図に立つ者たち。
勇者パーティー。
「オシリス。ペインはちゃんと護れよ」
「任せてください。私の盾は美しい女性すべてを護りますから」
「うざっ」
「きもっ」
勇者とペイン二人から鋭い視線が向けられる。
オシリスは前髪を揺らし、目を背けるように空を見た。
「そ、それより、現在も私の魔法で防いでいますが、このまま攻めない状況が続くときついです」
オシリスは右手に構える、先端が鍵状に曲がった杖を振るい、周囲に攻撃を防ぐシールドを張っている。
雷や火炎がシールドに阻まれる。
「攻勢に出る」
自分の身長ほどある剣を軽々と抜き、魔女にメンチを切る。
「全員、魔女を討つぞ」
パーティー全体の支援魔法を担うユノにより、全員に飛行魔法が付与される。
空を飛び、魔女に向かう。
先頭を駆ける勇者は剣を構え、魔女が放つ魔法を次々と切断していく。
魔女は魔法で距離を取ろうとするも、勇者の剣により悉く斬られる。
とうとう刃が届く距離まで接近する。
「初剣」
勇者の刃が届くーー寸前、
「魔物召喚、廻逆龍」
魔女は瞬間移動して刃をかわし、勇者のすぐ側にモンスターを出現させる。
全身純白の体を持ち、巨大な翼と尻尾を振るい、十メートルを越える巨体で勇者に突進した。勇者は即座に剣を振り下ろすも、わずかに速さで負け、数十メートル後方に吹き飛ばされた。
即座に回復魔法がユノからかけられる。
「少なくとも、星六級のモンスターとは比ではない」
勇者の予想は当たっていた。
攻撃力も、素早さも、防御力も、すべてをとって隙のないモンスター。
「こいつの階級は星九下位。精鋭の冒険者五万が集まろうと苦戦する。それほどの魔物だよ」
たとえ勇者パーティーであろうと苦戦は免れない。
星九を越えるモンスターは確認されているだけでも三体。そのすべてが未だ倒されていない。
現在目の前にいるモンスター、廻逆龍は、先代勇者パーティーを全滅させるほどの強さを持っている。
「勇者様」
「ミロ」
「みろろん」
パーティー全員の不安を背中で感じる。
だが依然、勇者の刃に迷いはなかった。
「私の潜在能力を知っているか?」
魔女は視認する。
「ちっ。本当、面倒だな。お前は」
勇者は龍に向かって一直線に進む。
「お前の潜在能力があろうと、この龍はあらゆる攻撃を逆転させる。攻撃を与えることは誰にもできない」
「哀れだ。だから私を討てると思っているだなんて」
「廻逆龍、勇者を確実に消せ」
「無駄だ。先代は討てても現代は討てない。それが、時代の進化だよ」
廻逆龍は勇者に真っ向から挑む。
翼を広げ、勇者に向かって滑空する。対して勇者も剣一本で迎え撃つ。
「私は最強。そんな、ページがめくれる音がしている」
剣を強く握り締める。
そして加速。
「初見殺しの必殺技ーー『初剣』」
勇者の最初の一撃は、あらゆる敵を一撃で葬る。
それが勇者の潜在能力『初見殺し』。
龍の体は真っ二つに裂かれた。
真っ白な血を雨のように街に降らせる。
「私の刃はあらゆる理を断ち切る。潜在能力に気を取られ、それを忘れちゃダメじゃない」
「ムカつくな」
「邪魔物も葬ったところだし、さっさと決着つけようか」