物語No.79『答え合わせ』/閑話『嘘の矛盾』
少女から与えられた問題。
三人はそれぞれ答えを持っていた。
まずは琉球。
「お前は誰かに止めてほしかった。ヒーローを求めていた」
少女はヒーローを求めていないと言った。
「だが、この世界には道があったんだ。故意に道を残していたか、または潜在能力による制限がかかったか。潜在能力の制限は過去が原因だ。おそらく、昔からヒーローを求めていた」
琉球は自分なりの考察を話していく。
少女は表情は変えず、黙々と聞き続ける。
「つまり、お前がヒーローを求めていた事実は変わらない」
だから、少女の嘘は見破られた。
三人を招き入れるような世界になっていたのか、それとも現実世界へ向かおうとした者がこの世界へ来るようになっていたのか。
いずれにせよ、琉球はその結論を出した。
少女は沈黙を続ける。
少女が何を思っているのか、三人には分からない。
続いて愛六が話し始める。
「あんたには友達はいる」
少女は、母との約束ーー正直に生きなさい、が原因で友達ができなかったと言った。
「友達ができなかったのは正直に生きたからじゃない。正直にいることはマイナスなんかじゃない。あんたは正直の意味を間違えただけだ」
母が言ったあの言葉。
あの日の少女には分からなかった母からの贈り物。
「正直に生きるってことはね、嘘をつかないってことじゃないの。自分の気持ちに正直に生きるってことなの」
それが、母から与えられた言葉の真実。
幼い自分には理解できなかった言葉。その頃の先入観が続き、今でもあの日と同じように解釈していた。
だがそれは第三者によって崩される。
少女は沈黙のまま。
最後、三世が話す。
「最後に、これだけは言っておかなくちゃな。君は、母が嫌いなわけじゃない。母を嫌うことで自己防衛を無意識にしていた。自分が一人である原因を何かに移したかった」
少女は言った。
母が嫌いだ、大嫌いだと。
「母が大好きだから、約束を守りたかったから、君の潜在能力は真実そのものなんだよ」
潜在能力の意味。
それは時に胸に秘めていた本音を浮かび上がらせる。
いつしか自分でも忘れていたような思いが少女の心に映し出される。
三人の話が終わった。
少女は微笑む。
「大正解だよ。それらは真実に他ならない」
少女は向き合った。
過去と、自分そのものと。
結果、少女は覚醒した。
「私は嘘つきだ。だが、私は正直者だ」
少女は目覚めた。
鳥籠が崩れるように、嘘によって産み出された歪な世界が壊れていく。
空が、物体が、すべてが光の粒子となって消えていく。
壊れる世界を眺め、少女は前を向いた。
「なあお前ら、これから私のことは百と呼べ」
少女ーー百は自分を取り戻す。
嘘で塗り固めた自分の殻を破った。
既に待機時間は失われた。
「これから五月六十日へ向かう。魔女による崩壊を食い止める」
百は誰よりも魔女の計画を知っている。
だからこそ、百にしかできないことがある。
「私の嘘は真実だ。魔女など怖くも痒くもないよ」
百は不敵に微笑む。
その自信に、三世、愛六、琉球は期待していた。
与えられた任務は見事遂行した。これより戦いの渦中ーー五月六十日に移動する。
世界の命運が決まるその日へ。
やがて世界が完全に崩壊する、その間際。
「一応魔女にお金は貰っている。お金に見合った働きはしないとだけど」
不寝の声。
不寝は三浦を睡眠魔法で眠らせ、まるで人質のように抱き抱えている。
「ライ、お前は過去を越えてしまった。だから私も魔女の指示通り動かないといけないけど」
「私の真実にできないことはーー」
「ある。たとえ過去を越えようと、人という限界がある。ギルド第三師団師団長の真実を消せなかったように、お前はまだ矛盾を抱えている」
「それでも、私は負けないの」
百は叫ぶ。
「三浦は私のすぐそばにいる」
その言葉が真実になった。
不寝が抱えていたはずの三浦は瞬間移動のように少女の側に移動した。
「いい潜在能力だけど。一応お金に見合った働きをした。だから、私はもう寝るの」
不寝は自身の両手を手錠で縛る。
「降伏。私、また牢屋で寝るから」
眠そうな声で不寝は答えた。
続けて、不寝はこの場にいる者のたった一人を睨み、
「あとこれは寝言だけど」
氷を落とすような発言をした。
「ーー魔女はあなたたちの中にいる」