物語No.78『私を真実にして』
少女の視線の先に立つ三人。
手に感じた温もりは既に消えているーーはずなのに、身体のどこかに温もりはあった。
「私は……」
少女は歩き始めた。
他人を信用しないと誓った。他人は大嫌いだった。
しかし少女には理由ができた。
「勝手に誓うよ、東雲。私はーー」
一歩を踏み出した少女。
しかし少女の額に石が投げられる。
額から流れる血が瞳を伝い、頬を流れる。
「お前がこれをやったのか」
傷を負った生徒が瓦礫を踏み越えて現れた。
「マジでお前何なんだよ。調子乗るなよ」
また一人、生徒が怒りを込めて現れる。
「おーい。一人で勝手に転んだ野郎があそこにいるぞ」
次々と生徒が瓦礫を超えて現れてくる。次第に生徒は数を増やし、少女の四方を囲んでいる。
生徒は皆少女に石を投げる。
「謝れよ」
「謝るのは得意だろ」
「謝ることもできないの」
皆が一同に言う。
それは少女の過去である。
それは少女のトラウマである。
少女の心に深くこべりついた恐怖の感情。簡単に消えるものではない。
だから少女は長い間苦しみ続けた。
周りを正しく認識できないほど追い詰められた。
あの日の災いが再現されるように、生徒は少女を虐げる。
だが少女は俯かなかった。
あの日、他人を見れないようになった。他人に恐怖を刻まれた。
怖いはずだ。乗り越えた。
逃げたいはずだ。噛み殺した。
今の少女には言葉があった。
「私は嘘に支配されない。嘘は私が支配するんだ」
少女は分かっていた。
ここが自分の嘘で出来上がった世界だということを。
自ずと、罵声を浴びせていた生徒は次々と消えていった。
少女は過去を越えた。
「嘘は真実へ」
だから少女は嘘の世界で過去を越えた。
嘘か真実か、少女にとってはどうでもよかった。
少女は再度、三世、愛六、琉球の三人に目を向ける。
「ここで問題。これまで言った私の言葉の中に嘘がある。それを真実に変えたら、私はお前らの仲間になろう」