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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.3『嘘の矛盾(ライオーバーパラドックス)』編
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物語No.73『教室の隅で涙は落ちる』

 まるで強大な力を顕示するような翼を広げ、疾風の如く突撃が向かう。進行方向にいるのは三世、愛六、琉球の三人。


「轢き殺せ」


 ライの叫びとともに、リザード・ドラゴンは三人へ激突する。三人がいた場所を竜は通過したが、悲鳴は聞こえない。

 ライは竜の背に乗っていたが、なぜか後ろから気配を感じた。


「まさか……」


 恐る恐る振り返ると、三人が竜の背中に乗っていた。


「かわしたっていうのか」


「二度目な上に、俺たちはあの頃よりも強くなってんだ」


「ふっざけるな。お前らごときにこの竜を倒せるわけない。こいつの自慢は鱗の強度。お前ら程度じゃ越えられないに決まっているだろ」


 リザード・ドラゴンの鱗は硬い。普通の剣では傷一つ負わせることはできない。だが、


「三世、火をくれ」


「『火鳥(ファイアーバード)』」


 三世はポケットから火鳥と書かれたチケットを取り出し、琉球に向けて発動する。

 チケットが燃えるとともに火炎が鳥の形状をして放たれる。火炎は琉球に激突した。


「仲間割れかよ」


「違う。僕らはその壁を越えてきた。だから割れないんだよ」


 三世の真っ直ぐな視線にライは困惑する。

 これまで臆病風に吹かれるままに逃げてきた少年。だが今は勇猛果敢に戦場に立っている。

 この数ヵ月が彼をどれほど成長させたというのだろうか。


「『火付与ファイアーエンチャント』」


 火炎の中から声がする。

 ライの視線は忙しく移動する。


 先ほど放たれた爆炎はある一点に集められた。それとともに火炎に隠れていた少年の姿が見える。

 琉球、彼は火傷も負わず、無傷で現れた。彼が持つ剣には熱波を放つほど密集した火炎を纏う剣が握られている。


「鱗がどれほど硬くても、鉄をも溶かす火炎で鱗を溶かせばいい」


「それほどの高熱ならお前の剣もとっくに溶けているだろ」


「だから短期決戦だ」


 琉球は竜の左翼へ剣を振り下ろす。

 赤い軌道が円を描き、たちまち翼は斬り落とされた。

 竜は浮遊するバランスと力を失い、地面に体を叩きつけた。ライは竜の背に必死にしがみつく中、琉球は一人竜の背から飛び降り、首に目掛けて突っ走る。


「リザード・ドラゴン。左後ろから来てる」


 竜は言葉が理解できるのか、それとも本能的に気配を察知したのか、琉球が向かってくる方向に視線を向ける。

 威圧する眼光が向けられ、琉球の動きがわずかに硬直する。

 恐怖はあった。敵はモンスター。牙も爪も殺傷能力は十分にある。その爪は校舎を粉砕し、巨体は大地に亀裂を入れる。

 一度攻撃を受けるだけで行動不能に追いやられる。余裕綽々と討てる相手ではない。


 だが今は、負けられない。

 魔女による脅威を打ち払うためにライの潜在能力が必要。そのためライを取り戻す。

 話し合う場を作るために、まずはモンスターを倒さなければいけない。


 竜は左前足を大きく振り上げる。

 琉球は迷わず竜の首に駆けようとするが、竜が足を振り上げた際大地に走った震動が、琉球の体勢を崩す。

 横転する琉球。そこへ容赦なく強者の一撃が炸裂する。まるで地雷が起動したような激しい衝撃波。爆発でも起こったような砂ぼこりが立ち込める。


「琉球ッ!?」


 愛六は驚愕し、その場所をただ見ていた。

 ライも琉球は死んだと確信し、一瞬の硬直を終え、大きく口角を持ち上げた。


「まずは一人終わったな。嘘みたいだろ。こんなこと。だけどこれが現実なんだ」


 大地を粉砕する余韻に混ざり、ライの声が響く。


「やっぱり最初はまぐれの勝利だったみたいだな。お前らじゃ到底竜は倒せない」


 俯き、絶望している愛六の表情を拝むライ。


「残念だったね。結局、あんたの仲間は弱かっただけの話だけど」


 愛六のもとへ歩きながら、ライは気分よく流暢に話す。

 絶望する表情がはっきり見たかったライは、しゃがみこんで愛六の顔を見た。

 そこで見えた愛六の表情は、


「ーーなんちゃって」


 舌を出し、まるで仲間の死など考えていない能天気なアホの顔をしていた。


 ライは三世がいないことに気付く。すぐに周囲を見渡す。

 気付くのが遅かった。


 竜の背を駆け、一直線に首を目指す琉球。


「そういうことか」


 竜の足下には、ギリギリで踏みつけを回避した三世が砂と血まみれになって転がっていた。直撃は免れたものの、激しい風圧で裂傷は負っている。


交代(バトンタッチ)


「くそっ。なんて最悪な能力、だがエンリから貰った魔法道具でッ!?」


 小さな布の袋から魔法道具を取り出そうとしたライの腕を掴み、動きを封じる愛六。ライは愛六の筋力に敵わず、身動きを完全に封じられた。


「そこで見ていろ。竜が倒れる瞬間を」


「やめろ。琉球うううううううううう」


 少女の叫び声が轟く中、琉球は竜の首までたどり着いていた。竜は首もとに立つ気配に気付くも、既にその時刃は振り下ろされていた。

 激しく燃える剣の一振り。

 真っ赤な円を描いた焔剣は竜の首をゆっくりと溶かしていく。暴れる竜だが、首にしがみついて離れない琉球の手は止まらない。

 やがて剣は一周する。それとともに、竜の首は重く大地に転がった。


「……なんで、あれほどのモンスターが!?」


 分からない。分からない。

 ライは唖然とした様子で落ちる首を見た。


 竜は討たれた。

 琉球は剣が既に原型を失いかけていることに気付く。このまま潜在能力を解除すれば火炎の行方は検討がつかない。

 琉球は燃える剣を竜の胴体に突き刺す。


「潜在能力、解除」


 剣に纏われていた火炎が一気に解放され、竜の胴体から溢れ出す。


「愛六、ライとともに避難を」


「任せて」


 ライとともに竜の背から飛び降りようとする愛六。ライの腕を引っ張るが、一向に動こうとしない。


「このままじゃ火炎と一緒に弾け飛ぶよ」


「それでもいい。復讐が終わった今、私に生きる理由はないよ」


「生きる理由なんて、生きていればいつか見つかる」


「いつかなんて私は待てない。いつかを待つくらいなら、私は今ここで死ぬ」


 ライは愛六の腕を振り払い、竜の胴体にしがみつく。愛六はすぐさま駆け寄る。だが火炎が胴体から噴き出し、愛六は地に転がった。


「このままじゃ……」


 愛六はライへ手を伸ばす。だが、その手はあまりにも遠すぎた。

 竜の胴体は爆散し、炎と肉塊とともにライも弾き飛んだ。だが、死ぬには威力が足りなかった。

 ライは数十メートル離れた崩壊した校舎に吹き飛ぶ。


 宙を舞い、転がった先は六年九組の教室。

 原型はとどめていないものの、少女にはすぐに分かった。


「…………」


 教室の隅に涙が落ちる。

 ポツリと、寂しげな音を纏いながら。


そして少女は過去を思い出す。

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