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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.3『嘘の矛盾(ライオーバーパラドックス)』編
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物語No.68『六月一日(仮)』

 六月一日。

 現実学園高等部一年一組の教室。


「出席確認を終える。三浦は欠席か」


 担任の点呼が終わる。

 三世、愛六、琉球は一同に三浦の席を見る。しかしそこに三浦はいない。


 放課後になると三人は集まる。

 一日中探したが、三浦やライは見つからなかった。


「このまま学校に来ないって可能性もあるんじゃない?」


「現実学園に移動したのは事実だ。もしここにいたとしても現実学園は広すぎる。高等部棟にいないのも考慮して、学園中を探すべきだ」


「そうね。今のところ分かっているのはこの学園に来たことだけだもんね」


 現実学園は小学校、中学校、高校、大学までの一貫校。

 生徒数は一万を越え、敷地面積は一日や二日では回りきれないほどの大きさを有する。


 これほどの広さで一人の人間を見つけることは至難である。


「俺はいろんな人に聞いて回る」


「私も部活仲間とかクラスメートに聞いてみるよ」


 三世の表情は一瞬で曇った。

 二人の視線が自分に向くのを感じ、三世は即興で答える。


「え……っと、僕も聞いてくる」


「誰によ」


「きょ、教頭」


「迷惑よッ!?」


 三世の嘘は通用しなかった。


「別にあんたは聞き込みしなくて良いわよ。あんたはいつも違うやり方で問題を解決してくれる。感謝してるんだから」


「えっ……、っと…………」


「べ、別になんでもないわよ。とにかく、あんたも頑張りなさいよ」


 愛六は顔をそらし、怒った口調で追及を凌ぐ。

 三世は愛六から掛けられた言葉を理解するのに時間がかかった。ようやくその言葉が褒め言葉だと分かり、三世は顔を紅潮させ、あられもない声を上げる。


「ちょっと何よ」


「な、なんでもない」


 三世はチラチラと愛六を見る。愛六はそっぽ向きつつも、チラチラと三世を見る。

 お互いに視線を向けるタイミングが合い、目が合い続ける。


 琉球は二人の視線の銃撃戦を遠巻きに見て、微笑んでいた。

 今まで仲が悪く、ギクシャクしていた二人だが、ある程度互いの心に踏み込むことができている。


「琉球、笑ってないで聞き込み行くわよ」


 愛六は飛び交う視線を受けながら琉球のもとへ向かい、腕を掴んで進行方向に引っ張った。


「あんたも頑張りなさいよ」


 去り際、愛六は三世に向かって叫んだ。

 三世は腕をまくり、気合い十分にどこかへ駆け出していく。



 ♤



 走り出したはいいものの、どこへ向かおうか。風を受ける最中に思った。

 一旦止まろう。

 僕は足を止め、ベンチに腰掛ける。


 ここは初等部、中等部に関わらず学園全体で共有のスペース。ショッピングモールが建ち、多くの飲食店や雑貨屋が並んでいる。


 その端っこ。

 飼育小屋。


「なかなか立派な飼育小屋だ。それに動物の種類も豊富なんだな」


 飼育小屋に飼育された動物を見ながら感想をこぼす。

 飼育小屋に沿って歩いていると、一人の少女に道を阻まれた。

 水のような麗らかな髪を揺らし、龍のような円らな瞳で呆然と見つめ、両手に刀を構えるように人参を構えている。


「ノメ、東雲(しののめ)ノメ」


「……ん?」


「暇なら手伝え」


「……ひ、暇じゃないんだけど」


「言い訳無用。ノメ、分かる」


「わ、分かったよ」


 断ることができず、渋々東雲さんの仕事を手伝うことになった。

 最初は雑用を任され、ひたすら働かさせられる。水をバケツ一杯に汲んで運びを繰り返し、餌が入ったバケツを運びを繰り返し、全身に汗を流す。一時間働いても尚仕事がありあまり、終わる気配がない。

 さすがに限界が来ている。

 いくらモンスターと戦ってきたとはいえ、体力は未だ発展途中。休む間もなく一時間雑用を任されれば疲労で限界が来る。


「少し休みたいんですが」


 東雲さんはちらりと視線を向ける。

 汗だくの僕を見て何を思うだろうか。


「一分だけ休むノメ」


「あ、ありがとうござ……って一分ッ!?」


 瀕死状態でHPを一割回復するポーションを渡されるほどに絶望的。

 だが休める内は休んでおこう。

 飼育小屋の中で兎に人参を食べさせる東雲さんの横に座る。東雲さんは終始顔色を変えず、兎に餌を上げている。


「東雲さんって動物好きなんですか?」


「どちらでもない。係りだからやっているノメ」


 口調は常に冷静で、気持ちに抑揚が感じられない。平静を装い、心中が読めない。


 少し気まずい。

 だが話題を探し、勇気を出してもう一度話しかける。


「他の飼育委員の方はどうしているんですか?」


「今朝登校したら、動物たちが何匹かいなくなってるノメ。他の人たちは動物探しに尽力しているノメ」


 動物が逃げた……?

 僕はライの仕業ではないかと疑っていた。


 もしライが犯人だとすれば逃がした理由は何だろうか。一緒に逃げた三浦や不寝の可能性もあるが、だとすれば目的は。

 やはりライはこの学園にいるか……かもしれない。


 僕の僅かな変化を東雲さんは見逃さなかった。


「お前、何か知っているノメ」


「いえいえ、何も知りません」


 東雲さんはじっと僕の瞳を凝視する。

 そして一言。


「お前、嘘ついたノメ」


 東雲さんは殺気を纏う。

 表情に変化はないものの、背後に龍か何かを感じるような恐ろしさがあった。


「……って、龍!?」


 東雲さんの背後には確かに龍が見えた。

 青い鱗に身を包み、恐ろしい眼光を向けてくる龍が。

 体長は一部しか見えないものの、僕の身長を越えることは確かであり、大きく開かれた口は人一人を容易く丸飲みできるだろう。


「お前、見えるノメ」


「……いやいやいや、見えるわけ」


「接続者。お前、()()()()()()()()()()()()犯人なノメ」


「動物をモンスターに!?」


 まさかそんなことができるとは。

 新たな情報を知り、何かヒントが得られたのではないかと胸を踊らせる。だがその胸は今バラバラに噛み砕かれそうになっている。


「青龍、こいつを噛み殺すノメ」


「まままま待ってください。僕は無関係です」


 必死に弁明をするも、龍は聞く耳を持たない。

 声が届くよりも先に、龍の牙は無慈悲に向けられた。牙が僕の体を抉る。


 寸前、一人の少女が颯爽と現れた。

 僕の体を後ろから抱き抱え、壁を蹴って東雲さんの背後に移動した。


 僕はその動きを知っている。華麗で鮮やかなステップ、素早い身のこなし。

 僕はその仕草を知っている。悶々とした際に眉根をなぞる癖。


「大丈夫だった?」


 茶髪を揺らし、その人物はヒーローの如く現れた。


「三浦ぁ!?」


 歓喜の声を漏らし、三浦の登場に嬉し涙を浮かべる。


「さあ悪党。私の友達を傷つけようとしたんだ。その罰を受けてもらおうか」


 勇ましく、三浦は短剣を構えて宣言した。

 腕に抱えられる中、下から見上げる三浦の横顔は何よりも凛々しく映った。

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