物語No.66『脱走未遂』
三浦友達は連行された。
朝起きてすぐにそれを知った三世は、勇者に理由を問い詰めた。
「三浦が接続者であると知られた結果だ」
「どうして……どうして知られたんですか」
「分からない。いやーー」
勇者は口を閉じた。
その先の台詞を言うべきかどうか、勇者は迷ったからだ。
「この中の誰かが三浦が接続者であると暴露した。その結果が今だ」
「ーーはっ!?」
三世は固まる。
信じられる数少ない仲間の中に裏切り者がいるとは思っていなかったからだ。
「どうして……裏切りなんて」
「分からない。私は今から犯人を探し、追求するつもりだ」
勇者は三世の顔を見る。
ひどく悲しい表情で、現実を受け入れがたく思っている。
「魔女の可能性は?」
「ギルド本部の外装はあらゆる魔法を弾き返す。常にギルド本部内に在中していた我々に魔法は使えない」
可能性は潰される。
三世にはかつらむきにされた事実が提示されるだけ。
「君の気持ちはよく分かる。だが、立ち止まるなよ」
勇者は三世の肩を叩き、去っていく。
三世の目は空虚に落ちたまま、まるで崖の下に座り込むように、絶望に押し潰されていた。
「どうして……どうして……」
三世は糸を失った人形になった。
操り人形は糸を失った。
♤
閉ざされた檻。
一枚の壁を挟み、三浦はライに話しかけていた。
「第十区画であなたたちと戦った時、私は眠っていた。だけど不思議と意識はあって、あの時の出来事は聞こえていた。魔女が苦戦し、追い込まれ、一人で逃げざるを得ない状況になった時、あなたは言ったんだ」
ライの瞳は揺れ動く。
まるで言うなと暗示するように。
「ーー私のことは気にするな。私は一人で大丈夫だ」
ここで初めてライの体が動いた。
繋がっていた両手の指先が離れ、足が動き出す。三浦がいる部屋の壁へと歩き出し、その壁を背に座り直す。
「…………」
相変わらずライは沈黙し続けている。
返答がないまま、三浦は話し続ける。
「私はあなたの気持ちを知っている。あの発言は、見捨てられるのが恐いから、あくまでも自分の意思としたかったじゃら出た言葉だ」
「…………」
「つまりあなたは、一人だった」
その言葉は、この空間に氷を落とした。
冷気が広がる空間に、キィーンと残響のような音が響く。
音が消え行く去り際、
「私の過去、聞いてくれる?」
ライはおもむろに呟いた。
「ああ」
三浦は一瞬眉を上げるが、日常に戻るように返答した。
ライの頬は上がっている。
檻に閉じ込められてから、少女は常に下を向いていた。
三浦が向き合ってから、少女は後ろを見ていた。
「ねえ、あなたの名前は?」
「私は……フレンド」
三浦は一瞬戸惑った。
「ねえフレンド、私と一緒に逃げようよ。こんな退屈な世界から」
三浦は少し考えた。
接続者であることが露見した今、生きる場所はあるだろうか。
だから三浦は答えた。
「……ああ。それも悪くないな」
逃げることを望んだ。
苦しみからは逃げる。
「私も連れていってくれない?」
二人の会話に割り込み、三浦の隣の牢屋に閉じ込められていた女性は尋ねる。
「あなたは?」
三浦は問う。
「私は不寝。ここにいたらあくびが出るよ。だから私も連れてって」
目を擦り、天井を見上げる。
だが返答がないのを不快に思った。
「ライ、私はお前の協力者だろ」
眠そうな声で、脅すように不寝は言った。
「……分かった」
了承を得て、不寝は不適に微笑む。
三浦は二人の関係が分からず、ただしどろもどろになっていた。
「じゃあ行こう。ここからの脱走を」
ライは叫ぶ。
監視役を務めるイグナイトは、ライの行動を止めることはしない。
やがてライは嘘をついた。
「ーー私とフレンド、不寝は現実学園にいる」
嘘は現実に。
そして世界は歪曲する。