物語No.65『そして彼女の孤独が始まる』
空が闇に覆われた頃、勇者は部屋を抜け出し、ギルド本部の外に出る。
向かった場所は魔法警察本部。
入り口前で警備をしていた二人の男は、勇者の顔を見るなりすぐに扉を開け、勇者を本部内へ通す。
しばらく廊下を歩くと、立ち止まり、壁に瞳を向ける。この行為が引き金となり、壁はわずかな振動を立てて動き、隠し通路が現れた。
「勇者様よ、お待ちしていましたぜ」
魔法警察警部イグナイト。
肩に垂れる緑の髪を揺らし、勇者にお辞儀をする。顔を上げ、真っ赤な瞳で勇者を見る。
「ライの様子は?」
「あいつだったら大人しくしてんぜ。ずっと陰気臭くて気持ち悪い」
口調はヤンチャで、恐いもの知らずな振る舞い。
勇者は特に指摘することはない。
下へ続く階段を進む。
進んでいるのか戻っているのか分からなくなる不思議な階段。螺旋状なのか真っ直ぐなのか分からない、ボーッとする感覚に陥る階段。
勇者は黙々とイグナイトの後を追う。
歩き続け、たどり着いた先には十数個の牢屋が設置されている。
その一つに少女はいた。
「…………」
あらゆる魔法的効果を消失させる特別な空間。外部からの魔法干渉はできず、内部からは当然不可能である。
檻の中、少女は隅に体育座りしていた。
「あいつ、常にこんな感じなんっすよ。マジ萎える」
「そうか。だがその言葉遣いはライの前ではやめておけ。潜在能力を使うかもしれない」
イグナイトは聞き流し、質問する。
「ってか、こんなちんけな牢屋より難攻不落の大監獄があっただろ。どうしてあのライという少女をこの牢獄程度で済ませているんだ?」
「もしライが潜在能力を使い、あの監獄にいる凶悪な犯罪者が逃げれば世界は混沌に落ちる。それに、ライは敵と決まったわけではない」
「なぜ断言できる」
「そんな、ページがめくれる音がした」
「どうせオレらには分かんないけどな。まあ勇者様が言うならそうなんだろうよ。で、オレらはいつまで看守を務めなきゃいけないんだ」
イグナイトは退屈していた。
いつまでも魔法も使えず、窮屈なこの場所から解放されたいと願っている。
「あと数日で何かが起こる。そんな、ページがめくれる音がした」
「未来予知ってわけか。まあ、期待してるぜ」
「ああ、そうだな」
勇者は予感していた。
何か最悪な事態が起こるのではないか、そんな予感が。
♤
翌朝。
勇者は一番に起き、異変を察知した。
ギルド本部が騒がしい。泊まっていた部屋を出て、外の様子を確認する。
丁度、勇者のもとへギルド第三師団副師団長の真実の右が駆けつける。
「何があった?」
「これより、接続者狩りである三浦友達の拘束を行います」
「ーーっ!?」
勇者は愕然とし、真実の右が言った言葉を脳内で反芻する。
何度繰り返しても、なぜその答えに至るのか理解できない。昨夜は常時警戒していたが、魔女の姿は確認されなかった。
ギルド本部でも厳重な警備体制が敷かれ、魔女がつけ入る隙はない。
ではなぜ。
「その情報をリークしたのは誰だ?」
「匿名です。しかし、信用はできる人物からの情報です」
真実の右の発言から、勇者はどのような人物が情報を流したのかを考察する。
真実の右が信用できる人物、もしくは情報を流した者が三浦と関係性のある人物か。
勇者は黙々と思考し、ある結論に至る。
勇者は振り返り、泊まっていた部屋を見る。
暦、三世、愛六、琉球、三浦、しいな、稲荷、銀冰が眠る部屋。
まず、三浦が接続者狩りであると知っていなければならない。その条件を満たす者はこの部屋にしかいない。
つまり、情報を流した人物はこの部屋にいる。
ギルド第三師団によって三浦が連行される様子を傍観しながら、勇者は結論に至った。
泣き叫ぶ三浦が連行されていくのを、勇者はただ眺めていた。
「あの中に……裏切り者がいるというのか!?」