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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.3『嘘の矛盾(ライオーバーパラドックス)』編
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物語No.63『二人の潜在能力』

 五月四十二日。

 ギルド本部四階、ここには高価であるが宿泊施設も存在し、十人程度で泊まることができる大部屋に多くの少年少女が散らばっていた。


 目を覚ました暦は、部屋のあられもない光景を見て、すぐに目を逸らした。

 すぐに部屋を退散し、洗面所に向かう。

 暦が洗面所に入った時、既に明かりがついており、タオルで顔を拭いている勇者に微笑し驚く。


「暦だね。君は三世や愛六たちの面倒を見てくれているんだってね」


「そうかな。とはいえ、ボクでは力不足な点はあるからね。第十区画で魔女から救ってくれたことは今でも感謝している」


「彼らを死なせるわけにはいかなかっただけだよ。彼らは勇者になると宣言したわけだし、あの時の判断は今に紡がれた」


 勇者は顔から垂れる水滴をタオルで拭い、肌の艶を触れて確認する。


「ところで暦、私のすっぴんは可愛いだろ」


「……っ?」


 まるで時間が止まったように、暦は沈黙した。



 ♤



 十時。

 空が明るく大地を照らし、多くの冒険者がダンジョン領域へ赴く頃。

 三世を始め、愛六、琉球、稲荷、三浦、しいな、銀冰が目を覚ました。


「お前ら、緊張感がないな」


 暦の第一声に、三世らがドミノ倒し式に首を傾げる。


「十八日後に魔女との戦いが始まる。時が来るまでに、ボクたちは強くならなければいけない」


 全員が魔女との戦いを思い出す。

 この場にいる者は皆魔女と一戦を交え、死地に誘われた。

 魔女の強さを知り、同時に絶望した。


 五月を越え、六月へ進むためにも、魔女を倒せるほどの力をつける必要がある。


「そこでまず、三浦、二階堂の覚醒したばかりの潜在能力を暴く」


「そんなことができるんですか?」


 しいなは不思議に思っていたが、三浦はそれができる人物を一人知っている。


「これからネタバレ屋に向かう。三浦と二階堂はついてきてくれ」


「ネタバレ屋?」




 暦に連れられ、三浦としいなはネタバレ屋へと向かっていた。

 道中、暦の背後でしいなは隣を歩く三浦に尋ねる。


「ネタバレ屋ってどんな人なの? 全く聞いたことないけど」


「あの人はなんでも知っているんだよ」


「私たちが来ることも分かっているわけ?」


「そうだよ。私の心だって読まれたんだよ。まあ、恥ずかしかったけど……」


 徐々に真っ赤に染まっていく顔を手で隠し、それでも嬉しそうに口を緩める三浦の横顔を見て、しいなはある疑念が再発する。

 昨晩のことも思い出し、尋ねるべきか思案する。だが意を決し、それを口にする。


「三浦ちゃんってさ、好きな人いるの?」


 しいなはどんな反応をするか目を見張った。

 三浦は肩を魚籠つかせ、手足を震わし、明らかな動揺を見せる。


 図星だと確信したしいなは、もう一歩踏み込んだ質問をする。


「その相手ってさ、クラスメートだったりする?」


「いやいやいやいやそんなことないって第一私はクラスの男子に話せる人なんていないし私が話せる男子なんて男子なんて……」


 終始間を作らず、これまで見せたことのない流暢さで話す。

 明らかな動揺パート2を見て、既に言い逃れできないほどの確信を得た。


 しいなは既に分かっていた。

 三浦の好きな人が誰であるのかを。

 その人物の第一印象は影が薄い、第二に人付き合いが少ない、第三に暗い。

 しいなは今までそう思っていた。だが異世界で彼に出会って、彼に対する様々な印象が変わっていった。

 魔女と一戦を繰り広げる度胸を持ち合わせ、琉球や愛六に信頼されている人格者。


 彼は本当はどんな人物なのか、しいなは気になり始めていた。


「私、三浦ちゃんの恋は全力で応援するよ。何かあったら私に任せてね」


「うん。でも、しいなの恋も私は応援してるからね」


「私は恋はしないかな。私を惚れさせる男なんて、この世には一人たりともいないからね」


 しいなは断言する。

 しいなは三浦の恋の応援に尽力することを決めた。


「さて、魔女との戦いも終わらせて、ラブコメでも始めよう」


「うん。できるといいね」


「できるさ。だって恋する乙女はヒロインだ。ヒロインのもとに死なんてものが舞い降りることはないんだよ」


 それに私も護るからね、としいなは腰に提げた折り畳み傘の形状をした銃に手をかざした。


 先頭を歩く暦は、二人の会話を盗み聞きしていた。

 二人の関係が修復されることはないと思っていた。だが今、友達として会話をしている二人を見て、自分は間違っていたと理解する。


「ボクでは想像もつかなかった。だが、三世は分かっていたんだね。これまでとはまるで別人だな」


 暦は三世に感心していた。

 今の彼ならば、魔女に打ち勝つこともあり得ない話ではない。

 暦は風向きが変わりつつあることを感じていた。


 考え事に集中していた思考を逸らし、今歩いている場所を目で捉える。

 気付けばネタバレ屋の前についていた。


「到着した。入るよ」


 貧相な雰囲気を漂わせる小さな建物に萎縮し、しいなは入ることを躊躇う。

 警戒するしいなの手を掴み、三浦は暦の後を続く。


「来ると思ってたよ」


 第一声。ネタバレ屋は言った。

 ちょうどしいなが入った直後だったため、しいなは話の途中だったのではないかと思っていた。


 腰かけ、机に肘をつくネタバレ屋は来客二人をじろりと凝視する。


「説明はなしで構わないかな」


 暦はここへ来た目的説明を省き、全てネタバレ屋に委ねる。

 塩対応にもネタバレ屋は困ることはない。ただそっと口を開く。


「君たち二人の潜在能力が何か、私は既に知っている」


 しいなはネタバレ屋が発した言葉に仰天する。

 誰も目的は説明していない、はずだが、ネタバレ屋は知っていたのだ。

 しいなは三浦の返答を仰ぐが、三浦は一切の動揺を見せない。ネタバレ屋には慣れている。


「早速だが本題に入ろう。まず言っておくと、二人に発現した潜在能力は魔女戦で大きな役目を果たすだろう」


 ネタバレ屋が最初に告げた言葉。

 それは三浦としいなの聞く耳を活性化させた。


「三浦友達。君の潜在能力は他人を自分の側に移動させることができる。ただし、発動条件は相手が友達であること。また、有効範囲は視界に捉えた人物のみ」


 三浦はネタバレ屋から告げられた説明を一語一句聞き逃すことなく、覚えた。


 次にネタバレ屋の視線はしいなに向けられる。


「二階堂しいな。君の潜在能力は魔法の無効化だ。自身へ向けられた魔法を無効化することができる。しかしその潜在能力の使用にはインターバルがあり、一度魔法を無効化するごとに十分間は潜在能力の発動ができなくなる」


 しいなもネタバレ屋の説明を聞き漏らすことなく、自分の脳みそに叩き込む。


「潜在能力は使い方次第だ。この先、多くの脅威が君らの前に立ち塞がる。それでも過去を越え、脅威を乗り越えた先に上の世界が待っているよ」


 ネタバレ屋は二人の背中を押す。


「話は以上だ」


 ネタバレ屋は、仕事を終えたとばかりに背もたれに寄りかかり、軋む天井を仰ぎ見る。


「二人は先にギルド本部へ戻ってくれ。ボクはまだ話が残っている」


 暦が異質な視線をネタバレ屋に送るのを不思議に思いつつ、三浦としいなはネタバレ屋を去っていく。

 二人きりになったネタバレ屋で、暦は問う。


「二人の潜在能力が魔女戦において大きな役目を果たすと言ったが、あれはなんだ?」


「なんだ、とは?」


「未来を教える気はないんじゃなかったのか」


「私は優しいんだ。いつまでも君を不憫な目に遭わせておくのも心が痛むんだ。だから最小限の助言をしたまでさ」


 ネタバレ屋は頭の後ろで手を組み、顔を後ろに倒したまま暦には一切視線は送らない。


「暦は何度も仲間が死ぬところを見てきた。魔女により、殺され、いたぶられ、消された。だが今回は違う。暦もそう思っているだろ」


 暦は感じていた。

 三世という存在が、今回において大きな活躍を果たした。魔女を出し抜き、目を奪う好機を作った。

 これまで一度も槍を直撃させることはできなかった。だが今回は違う。


「暦、この憂鬱はもしかしたら終わるかもしれない」


 ネタバレ屋がそっと投げ掛けた言葉に、暦は表情を一切崩さなかった。だがネタバレ屋には本心が分かっていた。


「六月一日にまた会おう。その時彼らが生きていたらの話だが」

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