序幕『ライの独白』
ーー独房にいた少女は、自由を求めてはいなかった。
私は母が嫌いだ。
母はいつも私に優しく、叱る時も愛情を持って接してくれた。
母の温もりに包まれているだけで、私の心は満たされていた。
誰のもとにも変化は訪れる。
小学校に入学する。
私にとって、それは人生のターニングポイントだった。
初めは楽しかった。
誰もが初対面の世界で、一人一人が距離の詰め方に戸惑う世界で、私はこのままでいいと思っていた。
誰かと誰かが仲良くなって、いつの間にかグループができて、誰かが排除されるよりはマシだと、今考えれば思ってしまう。
数ヵ月が経ち、気付いた。
私の居場所はここにはないと。
私は誰とも馴染めなかった。
私は誰にも歩み寄れなかった。
自分をさらけ出すことに臆病になって、いつも私は猫を被った。
その結果が孤独だった。
私の表情は日に日に暗くなった。
そんな私を見て、いつもそばにいた母が察しないはずがない。
母は何も言わず、私を抱き締めてくれた。それがどれだけ嬉しかったか、どれだけ救われたか、他の誰にも分からない。
それだけで私は救われた。
だから、本当はそれだけで十分だった。
しかし母は私に言った。
「ーーあなたは正直になりなさい」
その言葉を、嘘を吐くなと私は受け取った。
だから私は嘘を吐かずに生きてきた。
空気を読んで嘘を吐くより、本当のことを言おうと思った。それがきっかけで私はクラスに馴染めるのではないか。
期待した、母の言葉だから。
私は正直に生きた。
私は嘘を吐かずに生きた。
K e r e d o s o r e h a m a t i g a i d a x t u t a
ーーだから私は嘘を吐く。
ーーだから私は下を向く。