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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.2『魔法警察』編
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物語No.58『再会に魔女をそえて』

 燃え盛る魔女の前に三世がいる。

 不意打ちを受けた魔女は、怒りよりも驚きが大きかった。


 すぐに火を掻き消し、火傷を癒す。


「どうしてここにいるのかしら。トイレで眠らせたはずだと思うのだけれど」


「ああ、一度は眠らされた。だが起こしてもらっただけの話だ」


「誰に?」


 魔女は不思議に思っていた。

 三世と親しくしていた暦や琉球、愛六や稲荷らは皆ロビーに集まり、誰かが抜け出す隙もなかった。

 だとすれば一体、と魔女は首を傾げる。


 疑問の正体に終止符を討つように、ある女性は現れた。


「私さ私。銀冰だ」


 雨で濡れる銀髪をツインテールで束ね、両手には銃口が異様に長い拳銃を二丁構える女性。

 銀冰は殺意を込めた瞳で魔女を視界に捉える。


 銀冰は魔法警察であり、しいなの先輩。

 三世は一度銀冰としいなの会話を聞いていた。銀冰は同期を仲間に殺され、憎んでいた。

 故に選んだのだ。


 だが銀冰のことは記憶の片隅にもなかった魔女は堪えきれず、肩を震わして笑みを浮かべる。


「本当に誰よ」


 銀冰の名乗りに対し、魔女は嘲笑を返す。


「まさか協力者が誰でもない第三者なんて、あまりにも滑稽でーー嗤える」


 魔女の口は三日月を描く。


「魔女、これまで何度もお前には苦しめられてきた。だから、ここでお前を倒して終わらせる」


「ただ一人増えただけで私を殺せると思っているのかしら。また私を嗤わせるの? 本当、愚かにも限度があるでしょ」


 魔女は油断している。

 三世ごとき、自分を殺すには至らないと。故に魔女は隙だらけの傍観者スタイルで棒立ち状態。


「銀冰さん、倒しましょう」


「仲間の仇を討たせてもらうぞ」


 三世は正面から突撃し、三世の後ろに銀冰が隠れて接近している。

 魔女はその行動の意味を理解しつつも、真っ向から迎え撃つ。


「真正面から堂々と。随分私を甘く見るのね」


 不敵に笑う魔女に臆することなく突き進み、狙いを定め、勢いをつけて剣を振り下ろす。

 魔女は平然と人差し指を立てる。ただそれだけで三世の剣は壁に防がれたように弾かれる。

 後ろに仰け反る三世、その背後に隠れる銀冰は右手に構える拳銃の銃口を魔女に向ける。だがそれすらも魔女は見ていた。


「確かに遮蔽物があれば私の眼、あらゆる情報を視覚情報として得る能力は発動できない。良い推測ね。けれど、それを補うための魔法でしょ」


 自分の瞳に手をかざし、銀冰の動きを分かっていたかのように視認していた。


「あらゆる場所を視覚の内に入れることが魔法によって可能なのよ。私のどこに死角があるのかしら?」


 と三世と銀冰を煽り、放たれた弾丸を容易に回避する。

 魔女は左手を三世と銀冰にかざし、風圧で二人を弾き飛ばした。二人は壁に背を打ちつけ、悶絶する。


「私に勝てると思うなんて傲慢ね。これは正しき結果なのよ」


 背後で金縛りに遭う三浦を置き去りにし、倒れる三世と銀冰に歩み寄る。


「私に勝てるはずないでしょ。仇なんて討てるはずないでしょ。私は魔女、その名が与えられた意味をもっと理解しなさい」


 上目使いで、強者の風格で見下ろす、見下す。


 三世はその眼に反抗するように地に剣を突き刺し、体を震わしながらと起き上がる。


「僕はお前に勝ちに来たんだ」


「無理よ。そもそもあなたには呪いがあるの」


 魔女は三世の手の甲に刻まれた黒い紋章に眼を移す。


「これは魔法ではない。この呪いを消す術はないのよ。呪いがある限り、私が命令を下せば逆らえない」


「それでも、お前が僕らを邪魔する限りは倒さなければいけないんだ」


 大振りで、必死に剣を振り回す。

 しかし魔女は剣の軌道が見えている。攻撃を容易にかわしながら、問い掛け続ける。


「絶望的状況。それでもあなたは進むの?」


「魔女エンリ、僕は決めたんだ。強くなると。大切な人を護れるほど」


「嗤える」


 無造作に振り続けられる剣に飽きたのか、魔女は人差し指と中指で剣を挟み、動きを止めた。


「あまりにも目障りだから蚊だと思ったわ。蚊は見殺しにしても良いけれど、あなたはまだ殺しはしない。大人しく寝ててちょうだい」


 三世は唐突に眠気に襲われる。

 すぐに全身から力が抜け、剣を手離し、地面にうつ伏せに倒れた。

 倒れた三世から視線を外し、銀冰へ視線を向ける。


「次はあなたよ」


「凍てつけ」


 銀冰を起点に地面が凍りつき、魔女目掛けて氷が侵食していく。


「氷には炎を」


 たちまち魔女の周囲は火炎に包まれる。

 氷は溶けていき、雨の中の水に混ざって消え行く。


 銀冰は空中に移動し、魔女の頭上から炎を弾丸の雨のように降り注がせる。


「炎には水を」


 魔女の周囲に燃え盛る炎はたちまち水へと変わり、銀冰が放った火炎を抹消した。


「諦めなさい」


 水が無数の蛇の形状を成し、首が伸びて銀冰を喰らおうと襲いかかる。

 空中を自由自在に飛行し、攻撃を回避し続ける。気づいた時には時遅く、四方八方を囲まれていた。

 好機とばかりに水蛇が銀冰の足へ食らいつく寸前、気温が一気に下がり、水が凍りついていく。


「拮抗できる。勝てる」


 雪のように舞う氷のつぶての中をかき分け、魔女に向かって両手をかざす。


「吹き荒れろ。突風鹿(バーストディア)


 風が鹿のように吹き荒れる。

 家屋が揺れ、石畳の地面に敷かれた石ブロックが吹き飛ぶほどの激しさだ。

 魔女は微動だにせず、ただ手をかざすだけ。


「風には風を」


 更なる威力の風が銀冰が吹かす突風を押し退け、その先にいる銀冰に直撃する。空中で体勢を崩し、魔法で危機を離脱する隙もなく地面に落下する。

 背中に激しい衝撃が走り、喉奥から血を吐き出す。


「魔法警察。確かに魔法のエリート、でもエリートは優秀であって天才ではない。私は魔法の天才よ。そこには神と凡人ほどの差があるの」


「クソッ……、どうして勝てない」


「単純明快な力不足。あなたの魔法じゃ私には通用しないってこと」


 魔女に殺された仲間の仇を討てず、銀冰は悲しみの衝動に駆られる。


「ごめん。私は……」


 体が動かない。

 全身が張り裂けるほどの暴風を身に受け、筋肉が悲鳴をあげ、一握りの動作さえ許さない疲労感に侵される。

 受けたダメージは大きく、全身から血が噴き出している。


「もうおしまいね。じゃあ、大人しく死んでもらうわね」


 魔女の手には短剣が出現する。

 笑顔で刃を振り上げ、無慈悲に刃を振り下ろす。


 ーー寸前、魔女の背後から銃声が鳴る。咄嗟に振り返るが、弾丸は魔女の鼻先をわずかにかする。

 弾丸がかすった鼻先をなぞり、銃弾が飛んできた方角を睨む。


「あら、あなただったの」


「私の先輩とクラスメートに手を出すなよ。それにーー」


 魔女の視界に映っているのは二階堂しいな。

 だが二階堂しいなの視界にはたった一人しか映っていない。


「三浦……」


 小さく呟き、続く言葉をすぐに飲み込む。


 魔女の魔法が解け、身動きがとれるようになった三浦もまた、しいなの出現に対し薬を飲んだような苦い表情を浮かべる。


「しいな……」


「友達とは呼ばないよ」


 しいなは嫌悪感を駄々漏れにしながら歩き、三世と銀冰は既に動ける状況にないことを見て理解する。

 動けるのはしいなと三浦の二人だけ。相手は魔女。


「でも今は、力を貸せ」


「……うん」


 拳銃を構えるしいなの横で、三浦は小さく丸まって剣を構える。


「こんな出会いでの再会、こんな形での共闘。本当、気まずいだけだ」


「…………」


「三浦、これが終わったら話をしよう。もちろん、洗いざらい吐いてもらうから」


「…………うん」


「だから生きるよ。生きて、ちゃんと話をする。私は銃口を向けたまま、あなたは刃を向けたままで構わないから」


「…………」


 三浦は胸の奥底からわき上がってくる不思議な感覚を押し殺し、震えた声で言った。


「ありがとう」


 しいなは一瞬表情筋の制御を忘れ、とある感情にしていた蓋が緩む。

 すぐに力を入れ直し、キリッと表情を入れ換える。


「ここを生きてから言え」


「うん」


 ギクシャクしながらも、形を取り戻しつつあった。完全に昔のように戻ることはないだろうけれど、昔以上の関係に戻りつつあった。

 二人の関係をつまらないと吐き捨て、魔女は笑わなくなった。


「いいや。あなたたち二人はここで死になさい」


 魔女の手に握られる短剣の形状は変化し、刀へと変わる。


「絶望的なバッドエンドで幕を下ろそうかしら」


 魔女の矛先が向いた二人。

 しいなと三浦は互いに視線を合わせず、近づきすぎず、肩を並べて戦うことを選んだ。

 こじれた関係のまま、共闘へ。


「さあ、終わらせましょう」


 魔女は無慈悲に刃を振るう。

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