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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.2『魔法警察』編
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物語No.57『反撃』

「どうして僕が魔女だと思うんだ?」


 琉球の言ったことに動揺を表すものの、すぐ冷静になって根拠を尋ねる。

 確信した瞳を向けつつ、琉球は推理を話し始める。


「魔女、お前は見ているだけなんだよ。だから三世を演じきれなかった」


「僕は魔女じゃない。そもそもしいなが自白しただろ」


 二階堂しいなは魔女だと宣言した。

 この場にいる皆が聞いている。この事実は覆らない。覆らないのはあくまでも宣言をしたという事実であって、しいなが魔女であるという答えではない。


「魔法で心理を掌握しただけだ。これまで何度もやってきたように」


 三世を憂鬱へ導いた大罪。

 おかげで長いすれ違いを続けた。

 魔女がその魔法を持つことは確定である。


「ではしいなの持つ魔法ブザーはどうなる? 持っていないから鳴らない、ということは魔女と入れ替わったと考えるのが普通だ」


「確かにそうだ。でもお前、魔女だろ。だから特定の音を抹消することだって可能だ」


「可能かもしれない。あくまでも可能性の一端に過ぎない。だがそうだとすれば魔女は何でもありだ」


「だからお前を見つけることには苦労した」


 三世が魔女であると確信している発言ばかりを繰り返す。


「魔女エンリ、今、お前は俺の心を読めていないんじゃないか? だから一歩遅れをとり、追い詰められている」


 三世の視線はチラリと暦の槍へ向く。

 一瞬口が自白へ向かおうとするも、舌打ちで一掃し、


「だからどうした」


 知らないふりを続ける三世。

 二人の会話に、真実の右や魔法警察たちはどちらの言い分が事実か困惑し、膠着している。

 外野に気は向けず、ただ三世を見る。


「まだとぼけるつもりなら、決定的な事実を告げればいいか」


 何のことを、と強気な姿勢を見せるも、声は僅かに震えている。

 若干声が弱くなっている三世に対し、琉球は強気な口調で言い放つ。


「全てを知っていたから、いつも強気に振る舞えた。だが今のお前に威勢の良さは全くない。だからこそ言うぞ」


 琉球は吠える。


「三世はな、しいなのことを二階堂って呼ぶんだよ」


 三世の表情が曇る。

 だが琉球は止まらない。


「それだけじゃない。お前は魔女が音を遮断する魔法を使えない可能性もある、と言っていたが、三世はあの時のことを知っている」


「…………」


「三世がはぐれた俺たちのもとにお前が来た時、稲荷の声を遮断する魔法を使用していた。知っているはずのことを知らないお前は、もう三世じゃない。なあ、そうだろ。魔女エンリッ」


 魔女の名前を威圧するように叫び、向ける眼光は明らかに仲間に向けるものではなかった。

 敵に対する殺意と恐怖が込められた瞳。三世は顔に手を当て、心臓で笑うように体を震わしていた。


「あなた、三世のことをよく見ているのね」


 声が変わる。

 一瞬で空気が凍りつく。


 魔法警察、並びに暦らは武器を構える。


「今度こそ正解よ。私が魔女、魔女エンリ」


 手をどけた時、三世の顔は魔女の顔へと変わっていた。否、本来の顔へ戻ったのだ。


「完全に見破られるとは思わなかったわ。あなた達、格段に成長したのね」


「三世はどうした」


「彼ならトイレで眠らせているわ。大丈夫よ。彼を殺すのはデザートにするつもりだから」


 魔女の瞳を向けられて、畏怖の感情が全身を過る。

 魔女を前にして、全員の心が掌握される。


「私は魔女。本気を出せばあなたたち全員すぐにあの世に送れるのよ」


「残念ながらそれは無理だ」


 白い弾丸が音もなく放たれ、魔女の左腕を直撃した。その瞬間、魔女がほぼ全員にかけていた恐怖への拘束という魔法が解除される。

 狙撃手は、白い拳銃を握り締め、怒りの形相で魔女を睨んでいた。


「魔法キャンセラー、これでお前は魔法を使えない」


 銃弾は腕の中に残っている。

 魔法の発動が不可能となっている。


「お前ェ、よくもォ」


 魔女は撃ち抜かれた左腕を押さえながら、しいなへ鋭い眼光を向ける。だがしいなは怖じ気づくことなく、魔女に鋭い眼光を向け返す。


「魔法の使えないお前に勝機はない。ここで終わりだ」


 しいなに続き、魔法警察は続々と銃口を魔女に向ける。

 ーーしかし魔女はここで死なない。


「おいおい。決着は五月六十日のはずだ。その日まで私は死なないと確定している」


「終わらせる」


 直立不動から最速で、赤い槍が閃光の如く勢いで放たれる。目にも止まらぬ速さで投擲された槍に、多くの者が反応できずにいた。

 槍は黄金の壁に大穴を開け、床を龍が通過したと思わせるほどえぐっていた。


 槍はすぐに暦の手もとに戻る。


「仕留めたか」


 全員が魔女の居た場所へ視線を落とす。


「ーーっ!?」


 全員の視界に映ったのは、血に染まった左腕。弾丸の跡が残ることから、魔女の左腕だと分かる。

 それ以外の魔女の肉体の残骸は見つからない。

 見られている、という不気味さも消えることはない。


「まさか……」


 暦は悟った。

 すぐに四方から声が響く。


「危機一髪、とでも言えば満足するかな?」


 頭上から、魔女が吊り糸で徐々に下ろされるように現れ、地に足をつけた。


「私は死なない。その日まで」


 魔女の左腕はなく、右腕には短剣が握られている。


「左腕を斬り落とし、魔法で回避したってわけか」


「正解。そして、失った左腕も魔法ですぐに元通り」


 左腕は一瞬で再生した。

 元に戻った左腕をにぎにぎと動かし、感触を確認する。


「あなたたちと戦争を始めたいけれど、今はあなたたちより面白い少女を見つけたの。だからごめんなさいね」


 魔女はニヤリと微笑む。

 魔法警察が一斉に引き金を引くが、それよりも速く魔女は魔法を発動し、転移魔法によって姿を消した。


「逃がしたか」


 しいなは行き場のない怒りを抑え、拳銃を腰に戻す。


「暦、あいつの言う通りだったね」


「全て三世の作戦通りか」


 暦と琉球は鳥肌ものの感心をしていた。

 魔女のこれまでの行動を、三世は先読みしていた。未来を知る力もなく、全てを予知する能力もない。

 だが彼は未来を予測し、動いた。その結果が今だ。


 琉球はしいなのもとへ歩み寄る。

 首を傾げるしいなの目を琉球は受け止める。

 言うべきかを迷いながら、それでも琉球は口を開いた。


「三浦友達について話がある」



 ♤



 魔女が転移した先。

 そこには三浦友達が座り込み、考え事をしていた。

 空に浮かぶ魔女はゆっくりと降下し、雨を弾く魔法を自分に付与し、三浦の前に現れた。


「おはよう三浦。それともこんばんはかしら?」


 魔女の右手には短剣が握られている。

 三浦は咄嗟に剣を抜くも、金縛りに遭う。無論、魔女の魔法によるものだ。


「六十日までに一人ずつ三世の仲間を殺してあげようかしら。そしたらあの子、どんな顔で泣いてくれるのかしらね」


 魔女の微笑みを浮かべる。

 目はアーチを作り、口は三日月を作る。


 やがて短剣が振り上げられる。


「私はまだ、死ねない。しいなに向き合わないといけないんだ」


「ああ、あれね。残念な話だわ」


 魔女の顔が二階堂しいなに変わっていく。

 三浦の表情は徐々に驚きに変わっていく。


「あの時あなたを殺そうとしたのは私でした。そして今、あなたには死んでもらうわ」


 短剣が振り下ろされる。

 魔女の殺意がこもった刃、誰もそれを止めることはーー


「ーー『火鳥(ファイアーバード)』」


 魔女の刃が三浦に襲いかかるーー直前、魔女の側面を鳥状の火炎が激突する。

 雨の中、激しい火の粉が舞い上がる。

 襲撃者の存在を予期せず、見ようとしていなかった魔女は火炎を防御なしで受ける事態に陥った。


「相変わらず油断ばかりだ、魔女エンリ。見えているだけでお前は何も見ちゃいない」


 火炎が放たれた方角から、一人の少年が怒りを露にして現れた。

 右手に剣を握り締め、憤怒とともに彼は来たのだ。


「どうしてここにいる!?」


「決まっている。お前の全てが見えていた。だから僕は、お前を討ち滅ぼすために来た」


 少年の登場に、三浦は最高のヒロイン的表情を浮かべる。


「ーー三世」

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