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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.2『魔法警察』編
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物語No.55『魔女に抗う賭け』

 魔法警察。

 魔法について取り締まる警察組織。

 現実世界において不許可で魔法を使用した者に対する処罰を行う。現実世界での魔法の使用は厳密に制限されているため、掟の外側に足を踏み入れた者は逮捕しなければならない。

 異世界でも、魔法を悪用する罪人の確保に協力することも多い。


 魔法警察は魔法を知り尽くしている。


 魔法警察に就職するためには魔法について膨大な量の知識を必要とし、また一定以上の魔法の行使ができなければいけない。

 これまでの条件であれば達成している者は多い。だが魔法警察に入る最大の関門として、以下のいずれかを達成しなければならないこと。

 ・独自の魔法を生み出すこと。

 ・入試で満点をとること。

 ・一定以上の強さを持つと認められた者を実技試験で倒すこと。


 魔法警察として認められた暁には、魔法使用者戦において優勢に戦況を動かすことができる幾つかの道具が支給される。


「つまり私は魔法のエリートってこと」


 二階堂しいなによる魔法警察の説明が一通り終わる。

 暦は少しの身動きもせずに聞き入り、琉球は意外な事実に感心し、愛六と稲荷は雑談に花を咲かせ、三世は三浦のことが心配でそれどころではなかった。


 五者五様の反応。半分以上が話を聞いていない事態にやや顔をひきつらせるしいな。


「でも今は、魔法界の神とも呼べる"呪いの魔女"エンリによって仲間が次々に殺されていく。既に三人だ」


 しいなは魔女に対して怒りを抱いている。

 自分に親しくしてくれた後輩や先輩、仲の良い同期、多くの仲間が殺される危険に侵されている。


「私たち魔法警察を殺せるほど、魔女は確固たる強さを持っている。だがーー」


 しいなは魔女に対して恐怖は抱いていない。

 その目には打ち倒す意志だけがあった。

 強く握り締めた拳を胸に当て、


「魔女の強さは魔法に依存するもの。私たち魔法警察は対魔法に特化している。その気になればすぐに魔女をあぶり出せる」


 強く意気込み、魔女に屈しない姿勢を見せる。

 今も付近に魔女が控えているかもしれない。安心のできない状況に身を置かれながらも、しいなは冷静に自分がすべき行動をとる。


「本気でできると思っているのか?」


 自信満々のしいなに対し、疑問を抱き、口を開いたのは暦だ。


「できます」


 しいなは所持している道具を幾つか取り出す。

 一つは真っ白で、できる限り平らな拳銃。


「魔法キャンセラーの拳銃型。弾数制限はあるが、銃弾を当てた相手の魔法を消失させる」


 もう一つは真っ白な手袋だ。


「魔法手袋。これは魔法を掴むことができる」


 それらの武器を備え、迎え撃つ準備は万全だと胸を張る。

 だが暦には無謀に思えて仕方がなかった。


「無理だ。魔女の目の前に策は無力だ」


「理由を聞かせていただいても良いですか?」


「魔女の目はあらゆる物の理を暴き、あらゆる者の感情や心理を視覚情報として得ることができる」


「対魔法道具があればその目だって無効化できる」


「今この場に魔法封じの能力は働いているのか? 魔女はいつだって彼らを見ている」


 暦の視線は三世や琉球、愛六に向く。


「もし発動していないのであれば、魔法警察が何を対策していようと筒抜けになっている。彼女であれば、脅威はすぐに排除するだろう」


「じゃあ魔法警察(私達)の対魔法道具も……」


 唐突にしいなの口が止まる。

 ポケットに手を突っ込み、作戦内容が書かれた紙を取り出した。資料に書かれた文をざっと読み、ある内容が書かれた場所で目を止めた。


「何が分かった?」


 小さく口を開き、徐々に確信に近づく答えを声に出す。


「これまで殺された三人は同じ対魔法道具を所持していた。魔女にとって、それが脅威だった……?」


 まだ曖昧な根拠で、絶対からは程遠いものの、導き出される結論を徐々に声を大きくしながら口に出す。


「ーー魔法ブザー。周囲で魔法を感知した際に爆音を響かせる対魔法道具」


「魔法の感知か。他に魔法感知を知らせる対魔法道具は?」


「魔法レーダーがある……はずだったが、魔女が指名手配された日に全て壊されていた」


「未来は見えていないが、予測し、対策を講じていたか」


 魔女が未来への備えをしていたことを知り、暦は眉を寄せ、現状を誘引したことを畏怖する。

 三世は黙々と話を聞き終えると、しいなの次の台詞を知っていたかのように「なるほど」と呟く。


「そして私もーー」


 しいなは服の内ポケットにしまっていた笛を取り出した。

 取り出された物は、案の定三世が危惧していたものであった。


「私は魔法ブザーを持っている。つまりーー」


 恐れに飲まれ、冷や汗が頬を伝い、心臓が凍りつくような思いから来る身震いを必死に堪えながら、喉の奥に引きこもる言葉の横を考察が通過する。


「多分、次に殺されるのは私だ」



 ♤



 不穏な空気が漂うロビー。

 しいなは自分の推理を全ての魔法警察と共有するため、一時的に離席していた。


 暦、稲荷、愛六、琉球が集まる中、三世が話を切り出す。


「愛六、琉球、二階堂さんについて知っていることを全て教えてほしい」


「急に何? もしかしてしいなのことが好きになっちゃったの?」


「からかうな」


「ふーん」


 琉球に注意を受けた愛六はソファーにうなだれ、一瞬三世を睨むと、目を瞑ってしまった。

 仕方なく琉球が三世の願いに答える。


「知っての通り、しいなは俺らのクラスの学級委員長だ。成績もよく、素行もいい。完璧であり、クラス中から好かれている」


「二階堂さんってそんなに優等生なんだ」


 三世は知っている。

 陰で、常にクラスを観察していたからこそ知っている。

 二階堂しいなは空気が読める人間だ。人の気持ちに寄り添い、助けを求める者がいれば迷いなく手を差し伸べる良い奴だ。

 だからこそ、二階堂しいなはいい人でしかない。それだけの存在で、それ以上でもそれ以下でもない。


 異世界転移する者の多くが、現実世界からの逃避を望んでいる。

 二階堂しいなは望んだ。

 現実から逃げることを。学園から逃げることを。


「友人はいたか」


「学年中にいたな」


「一番仲の良い相手は誰か知っているか」


「そこまでは分からない」


 琉球が答えに詰まる。

 そこで愛六が顔を下に向けたまま、だがそれでも視線は三世を睨むように向ける。


「しいなは基本、一人でいることが多かったよ。だってあいつ、委員長だから仕事ばかりで友人と話す時間もないし、生徒会長から好かれていることが理由で生徒会の仕事の手伝いもしてる。本当に仲の良い友人を作る時間なんてないんだよ」


 哀れな傀儡(マリオネット)だよ、と二階堂しいなを表現する。


「ーーだから三浦を見つけた」


 二階堂しいなという人間を、三世は少しずつ理解していた。

 なぜ二階堂は三浦を選んだのか。


 三世の答えは脳内で着実に固まっていく。


「今は魔女の捜索が優先だ。殺された三人に近づく際に魔法を使用しなかったことと、どうしてこの包囲網の中で殺せたのか。それも凶器は短剣だから、近距離で殺してる可能性が高い」


 琉球は話を転換させる。


「魔女が魔法を使用しなかったってのはどうして分かる?」


「魔法ブザーが鳴ってたら誰かしら気付くはずだ。殺された三人ともこのホテルの近くにいたんだから。誰も気付かないってことは魔法ブザーは鳴らなかったって考えられる」


 これまでの情報だけでは琉球の推理通りで終わる。

 愛六や稲荷も琉球の推理に賛同し、魔女は魔法を使用せずにこの場に現れ、三人もの魔法警察を殺したと考えている。


 三世は引っ掛かることがあり、ソファーの後ろに座り込み、唇に指の背を当てて考え込んでいた。

 長考の果てに、ある出来事が脳裏を過る。


「そういえば僕が錬金術師の里に行く道中ではぐれている間、魔女に接触されたって言ってたよね」


「ああ」


 あの時の出来事を、暦から状況も含めて細かく伝えられていた三世はある答えにたどり着く。


「そうか。魔女は……そうやって殺すつもりか」


 三世の脳裏には魔女に対するとある推測が浮かんでいた。

 自信に満ちた表情で顔を上げ、立ち上がり、ソファーの前に立つ皆に体を向け、


「僕から一つ、お願いしたいことがある」


 真っ直ぐに全員を見つめ、ニヤリと笑い、勝利した際の興奮を思い浮かべ、上ずった声を出して、


「賭けをしよう。魔女に抗う逆転の賭けを」


 覚悟を決めた三世は、魔女との戦いを始めようとしていた。

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