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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.2『魔法警察』編
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物語No.54『魔女はこの中にいる』

 ギルド街に隣接する駅町。

 駅長のシンボルでもある、黄金で創造された高層ホテル。駅町の中で圧倒的異彩を放つホテルの中で、暦、稲荷、愛六、琉球は待機していた。


 大広間(ロビー)に置かれたソファーへ腰かける暦の視界には、二階堂しいなが三世と並び歩く光景が映る。

 暦は最悪な想定が思い浮かんだが、三世の温厚な様子からそれはないと推測する。


 ソファーから尻を離し、三世の前に姿を見せる。


「三世、二人きりで話をしよう」


「ああ、僕も同じことを考えていた」


 鋭い眼光でじっと視線を向ける三世に、暦は心中を見透かされているような不気味な気持ちを感じていた。



 二人は男子トイレに移動した。

 ギルド第三師団や魔法警察が待機している場所から最も遠く、あまり使われることのないトイレで二人きり。

 魔法消臭剤が蔓延し、カビや汚れひとつなく、お花畑の香りが漂っている。

 暦は槍を手に持ち、個室の壁に寄りかかると、まずは質問をする。


三浦(フレンド)はどうした?」


「見つかりそうになったので、僕が囮になって一人でネタバレ屋に行かせました」


 返答は小さな頷きだけ。

 三浦が拐われたわけではないと分かっただけでも一安心。


 これ以上の質問がないため、会話のない間が生まれ、三世が質問する。


「暦さん、二階堂しいなを以前から知ってしましたか?」


 質問の回答に確信を持った目で見つめ、目を合わせる。

 誤魔化すことは不可能だと直感させられる真っ直ぐな目線だ。結んでいた腕をほどき、降参だと言わんばかりに、


「知っている。以前接続者狩りが二階堂しいなを襲う場面に遭遇している。二人を会わせるべきではないと判断し、君を護衛にしてネタバレ屋に向かわせ、匿ってもらうつもりだった」


 事実を淡々と語る。

 三世は暦の発言を真摯に受け止めていて、全て推測通りだったと頷いた。


「知っていたのか?」


「幾つか疑問に思ったことがあっただけです」


 これまでの出来事を踏まえ、一度脳内で必要な情報を取捨選択する。思考を整えたところで、手を前に出し、人差し指を突き立てる。


「まず一つ、これほど安全な状況なのにどうして僕と三浦だけを逃がすのか。それはこの場所にいる方が事態が最悪な方へ進むと考えたから」


 人差し指に隣接し、中指も立てる。


「二つ目は、僕に三浦を護ってくれと言ったこと。三浦は僕に護られるほど弱くない。つまり三浦に危機が迫っているから、僕に護れと言った、と捉えることができる」


 続けて薬指も立て、推論を語り続ける。


「第三に二階堂しいなとの遭遇。そこで全てが繋がったんです。暦さんは二階堂しいなと三浦友達を会わせないようにしている、だから僕を護衛にして逃がそうとした」


 三世の推論は全て当たっていた。

 暦は三世の思考力に感心しつつも、誤魔化しきれなかったために不安を抱く。

 全てを理解した上で三世がとる行動を危惧していたから。


 暦が三世を憂う中、三世は自分の答えをはっきりと伝える。


「僕は……二階堂さんを三浦に会わせるべきだと思います」


 ひどく震えた声だった。

 自分の答えに確固たる自信は抱いていない。三浦と二階堂の関係を詳しくは知らないからだ。知っているのは三浦の思いだけ。

 三浦が二階堂に対して罪悪感を感じていること、謝りたいと心から思っていること、全て本心であることは疑いようのない事実だ。直に話を聞いた三世は、三浦の真剣な眼差しや口調、態度から感じ取った。


 暦の答えは三世と全くの逆だ。

 二人を会わせるべきではないと判断し、遠ざけた。結果、三浦は一人でネタバレ屋に向かっていることだろう。


「僕は三浦を追いかける。稲荷の能力で居場所を特定してほしい」


「稲荷の能力は一定の声を上げなければ使えない。もし三浦の名を二階堂しいなに聞かれれば状況は最悪に陥るかもしれない」


「でも、このままじゃ二人はすれ違ったまま終わってしまう。三浦は操られていただけで、何も悪いことはしていないのに」


「それでもだ。二人はまだ会わせてはいけない」


 お互いの頑なな意見が真正面から衝突する。

 お互いに意見を曲げず、真っ向からぶつかって揺るがない。


 必死に張り上げるようで、喉が詰まったような声で話す三世の言葉を受け止め、昔話に出てくるお婆さんのように一語一句を丁寧に聞き、穏やかな口調で反論する暦。

 口論はしばらく続き、先に暦が口を閉じた。これ以上の議論に意味がないと判断した。


 気づけば、雨が窓を叩いていた。


「これではギルド街に帰れそうにないね」


 激しく窓を叩きつける大雨。

 三世は一人でネタバレ屋に向かう三浦のことが気にかかる。


「暦さん、僕は三浦を探しに行きます」


「駄目だ」


「三浦を一人にはできない。魔女の脅威だってあるのに」


 今頃三浦は死んでいるかもしれない。

 魔女はいつだって自分たちを見ている。三浦が一人になる状況だって見ていてもおかしくない。

 しかもこの大雨の中だ。襲撃を受けてもまともに戦えるはずがない。


「一旦ロビーに戻ろうか。これ以上は連れしょんでは誤魔化せない」


「ああ……」


 不用意な行動は慎むべきだと分かっている。だが不安が、妙な胸騒ぎがしている。

 三浦の生死不明の状況に焦燥感が全身を駆け巡る。



 不安を圧し殺し、暦の後に続いてロビーへ戻る。

 ロビーは静けさを消し、なにやら騒がしい様子だった。魔法警察や第三師団の面々が慌てた様子で走り回っている。


 騒ぎの中、玄関(エントランス)が開く。扉の中からびしょ濡れになったしいなが無気力に歩いて来る。


「出掛けていた?」


 目を細め、しいなの行動をいぶかしむ三世。

 揺れた白髪に付着する水滴を払い、がさつに髪を乱す。


 水気を払うしいなのもとへ銀髪の女性が駆け寄る。


「二階堂、どこへ行っていた?」


銀冰(ぎんひょう)先輩。なにかあったんですか」


 先輩魔法警察ーー銀冰の神妙な面持ちを見て、ただごとではないと悟る。

 視線を離さず見つめ、数秒の沈黙の後に事の概要が話された。


「私の同期が殺された」


 しいなは顔つきをキリッと変え、すぐに周囲を見渡す。

 犯人がこの中にいる可能性も踏まえての行動。とはいえ犯人が凶器を持って立っているはずもなく、視界には気になる人影は映らない。

 ただ一人、三世を除いて。


「犯人は分かっていますか?」


「敵はおそらく魔女エンリ。彼女はこんな手紙を残している」


 銀冰から受け渡された手紙。

 書かれていることはたった二行。

 しいなは声に出して手紙の内容を読み上げる。


「魔女エンリを殺してみせよ。私はこのホテルの中にいる」


 挑発的な内容。

 魔女らしいと言えば魔女らしい。


「魔女は魔法の天才だ。だが彼女の強さは魔法に依存するもの。つまりーー」


 しいなは腰に装備していた白亜色の拳銃を構える。


「ここは魔法警察の仕事ですね」

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