序幕『二階堂しいな・復讐譚』
ーー友情は裏切られた。
私はいつも自分に恥じない生き方をしてきたつもりだった。
弱き者を見捨てず、困っている者がいれば迷わず助けに向かう勇気を持ち合わせていた。
誰よりも気高くあろうとし、立派であろうとした。自分は優れているのだと自信を持ちたかったから。
常に正しくあろうとし、常に懸命であろうとした。誰かに感謝される人生を歩みたかったから。
だが、私は今憎悪に駆られている。
今の自分が間違っていることは百も承知だ。
それでも心の底から"殺したい"と思う相手がいる。
私が差し伸べた手を易々と切り捨てて、ついには私に刃を突き刺した。あの瞬間がいつまでも脳内をリフレインし、忘れることのできないトラウマとして刻まれている。
友達だと、本気でそう思っていたのは自分だけみたいだった。
一緒に遊ぶのが楽しくて、ただ側にいることだけで幸せで、会話なんかなくたって、自分が必要とされていることが嬉しくて。
ーー全部嘘だったんだ。
私は間違っていたのだろうか。私は向き合えていなかったのだろうか。
そんなのどうだっていい。
私の身は切り刻まれたのだ。無慈悲なる無数の斬撃に侵され、命の危機にまで瀕した。
死んでいてもおかしくはなかった、いや、私はあの時死んだんだ。
今の私が今までの私と全くの別人であろうと構わない。だって私は亡霊だ。この世に未練を残し、さ迷い、あることを誓った生き霊だ。
信じてたのに。
ーー復讐してやる。
全身を焼き尽くすような殺意に自制心を失っていた。未来のことを考えられず、冷静になることさえ許さない感情の高ぶりに支配されている。
今の私は愚かで哀れで傀儡同然だ。
それでも構わない。
この怒りが、憤怒が、殺意が収まるのなら、たとえ魔女にこの身を捧げようとも構わない。
道は違えた。
ここから先は復讐譚だ。