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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.1『錬金術師の里』編
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物語No.39『旅は道連れ』

 鉱山を登り続けること十時間。

 さすがに疲労し始めたのか、愛六、琉球、三世の三者は荒い呼吸をしていた。


「何この道……。過酷にも程があるわよ」


 愛六は立つこともままならなくなり、膝をついた。


「丁度休憩スポットがあります。そこで一息ついてから、再び里を目指し、夜が来るまで歩き続けましょう」


 数度目のモンスターとの戦闘。

 十時間の山登り。

 まだ高校一年生の彼らにとって、極めて過酷な冒険だった。


「やっと休憩……なの。もうヘトヘトよ」


 真実に連れられ、すぐ側にあった採掘場跡に籠り、休憩することになった。

 真実がそれぞれに水を支給し、壁に背をつけて座り込む。


「異世界の時間ってホント慣れないよね」


 十二時から数時間列車に乗り、十時間以上山を登って今、まだ日は落ちることはない。


「今何時?」


「二十六時」


「現実世界なら今ごろ夜だよね」


 現実世界は一日が三十時間。

 異世界では一日は六十時間。


 月が見えない、明るい空を見上げながら、三世は相変わらずヘビーローテンションで黄昏ていた。

 三浦はなんと声を掛ければいいか、ずっと探している。でも、答えは見つからない。

 三世の心境を少しは分かる。だからこそ、声を掛けることを躊躇ってしまう。


「真実さん、よくそのバックパックに食糧とか水とかいろいろは入りますよね」


 真実が背負うバックパックは、大きさにしては入る量が多すぎている。

 明らかにバックパックの膨らみ以上に物が入っている。


「拡張魔法というものでバックの容積を増やしている魔導具です。そのため値段はかなり高かったですね。しかもここは辺境ですので店も少なく、その分店主は値段を引き上げていまして驚きました」


「この人金持ちだよ」


 愛六と稲荷が小声でやり取りをしている。

 まさか自ら盗賊団に志願するのではないか、そんな疑念さえ過るこそこそ話。


「休憩は終わりにしましょう。日が落ちる前に目標地点まで向かいます。今から歩いても十分余裕があります」


 真実の指示に従い、皆休憩を終える。

 稲荷が指揮をしていれば破天荒な道を進み、最悪迷子になっていたのかもしれない。

 真実と列車に居合わせたことに誰もがホッとしていた。


 ただ一人、三世を除いて。


 三世が警戒心を抱いた目線で見つめてくるのを気にもせず、真実はバックパックを背負い、歩き始める。

 再び歩き始めて約九時間。


 時刻は三十六時を迎える。

 まだ空は明るく、鉱物でできた木に草葉のようなものが生える鉱樹が並ぶ森の中を歩いていても周囲ははっきりと見える。

 鉱樹の幻想さに魅了され、愛六や稲荷らの視線は真珠のようにキラキラ輝く鉱樹に向けられる。


「ねえねえ愛六、おんぶしてよ」


「何で?」


「あの枝欲しいのだ」


「駄目って稲荷が一番分かってるでしょ。錬金ギルドの許可がなければ鉱山地帯では採集できない。採ったら殺されるかもだし」


「それもそうなのだな」


 稲荷は妥協し、枝を折ることを諦めた。


 ほどなくして、鉱樹の数が減っていく。

 森をもうすぐで抜けられるところまで来たということだ。

 だが同時に、暦は足を止め、手に槍を出現させる。真実も同様に身構えている。


「何何!?」


 稲荷は愛六にしがみつき、脅えている。


「稲荷、四人に武器を。モンスターが来るよ」


 鉱山地帯へ入ってから数度目のエンカウンター。

 だが今までは暦が槍でモンスターを近づかせる間もなく、その上三世らに気づかせる間もなく倒していた。

 真実が、魔法による気配の察知能力の向上を自身に使用することで、上手く立ち回れていたおかげだ。

 だが今回は違う。


 暦の表情が曇る。

 真実が敵の数を暦の耳に呟く。

 暦は表情を大きく崩さない。だが焦っているに違いない。


 モンスターが出現するまでの間に、稲荷は琉球、愛六、三世、三浦の四人に武器を配る。

 だがどれも低級の武器。

 硬いものに向けて振るえば即砕ける。


「来ます。全方向から」


 地面が揺れる。

 稲荷や愛六は体勢を保ちきれず、地面に手をつく。


「なんだこの揺れ!?」


 驚く間もなく、地面には亀裂が走る。

 幾つもの場所で地面が隆起する。内側にいる何かによって押し上げられた結果だ。

 空いた穴からは、一メートルはある人型のモンスターが現れた。数は二十を越え、四方を囲んでいる。


 全身は岩石によって造られ、体型は肥満型。

 腕は分厚い岩石で造られているために太く、顔と思われる部分には瞳を模した穴が空いている。


「真実さん、こいつらは?」


「ゴーレムベビー。素材は様々あるが、岩石なだけまだマシだ。ただの刃でも十分戦える。ーー敵がこいつらだけならば」


 真実は感じ取っていた。

 ゴーレムベビーとともにやって来たもう一種のモンスターの

 存在を。


 再び地面に亀裂が走る。

 先ほどよりも大きく、そして激しく地面を砕きながら。


「まさか……」


「ゴーレムのお出ましだ」


 ゴーレムベビーの三倍以上の体長を有し、岩石でできた頑丈な肉体。

 巨大な岩石を撒き散らし、一足踏み出すだけで大地を揺らす。

 一体や二体ではなく、数はベビーゴーレムと同数、つまり二十を越える。


 まるで授業参観。


「モンスターが徒党でも組んでいるの? 何これ?」


 愛六はモンスターの多さに激しく動揺していた。


「モンスターパーティー、あり得ない話ではありません。それに、この程度の敵がどれだけいようと苦戦はしません」


 真実は拳を握りしめ、大地を踏みしめ、ゴーレムに向かって飛びかかる。


虚構超越(オーバーライ)


 そう名付けた真実自身の拳は、岩石でできたゴーレムの肉体を容易く粉々にした。

 押し潰した豆腐のように、ゴーレムの原型はない。


 身体強化魔法によって強化された拳から放たれる一撃は、剣のような衝撃を放つ。


「剣があればもう少し戦えるのですが」


 一人で謙遜しつつも、ゴーレムを次々と蹴散らしていく。

 暦もまた、槍を投てきし、ゴーレムを砕いていく。

 槍を投げてはゴーレムは砕け、手もとに戻り、投げては砕け、手もとに戻るを繰り返す。


「暦、あなたの槍は優れていますね」


「槍だけの男、ボクはその程度さ」


「そういうことはありません。優れた槍を使いこなすあなたも優秀だと分かりますよ」


「君、面白いね」


 強者二人がゴーレムを蹴散らす中、三浦と琉球もゴーレムベビー相手に善戦していた。

 琉球はこの二ヶ月ほどで蓄えた戦闘経験を生かし、ゴーレムベビーの攻撃を避けた直後に反撃する。


 三浦は操られていた時の戦闘技術を思い出しながら、身についた筋力を生かして激しい動きの戦いを見せる。

 ゴーレムベビーの動きは速くない。準備しておけば全ての攻撃は避けられる、それほどに大振りで、遅い。

 相手の死角から攻撃を繰り出す技、ゴーレムベビーの頭と胴体の繋ぎ目がやわであると見抜き、攻撃を繰り出す。

 推測は当たり、頭が宙を舞い、ゴーレムベビーは倒れる。


「このまま倒すよ」


 暦は三浦の強さや琉球の成長を横目にし、密かに喜んでいた。


「真実、ゴーレムベビーは残しておこう」


「なるほど。若者に任せましょうか」


 愛六は三浦の戦いを傍観しつつ、稲荷を護るように槍を構えていた。


「首か」


 一匹のベビーゴーレムが愛六に歩み寄る。

 動きは遅い。

 だが先の戦いで、空振りした拳は大地を粉砕していた。

 受ければ肉体は原型を失う。


「私だって戦えるんだぁあああ」


 愛六の槍は真っ直ぐにゴーレムベビーの首を狙う。

 一直線、狙いはバレバレ。


「当たれ」


 槍は直撃した。

 だが、ベビーゴーレムの首に槍は刺さるが、刺さっただけ。


「うそっ……!?」


 愛六の腕力ではベビーゴーレムの首は飛ばせない。

 槍は抜けず、ベビーゴーレムは近づいてくる。

 ベビーゴーレムは愛六の正面まで近づき、腕を振り上げる。


「まずいまずいまずいまずい」


 腕は振り下ろされるーー寸前、ベビーゴーレムの頭に小石が投げられ、何?、と首を傾げて振り返る。

 直後、ベビーゴーレムの首が宙を舞っていた。

 ベビーゴーレムの胴体の背後には、剣を振るっている三浦の姿があった。


「大丈夫ですか?」


「みぃ、三浦ちゃぁぁぁん」


 涙ながらに愛六は三浦にすがりつく。

 命の恩人、ありがとうと心から叫ぶ。


 その頃、三世は呆然と剣を構えていた。

 その足を、地面から生える腕が掴む。

 その感覚に気づいた時には、既に地中に引きずり下ろされた時だった。

 声をあげる余裕さえもなかった。誰も三世がいなくなったことには気づかない。


 三浦はベビーゴーレムを数体倒し、周囲に視線を回す。

 皆は無事か、三世は無事なのか、と。

 不幸なことに、三世の姿は忽然と消えていた。


「三世……、三世っ!?」


 暦は三浦の騒々しさに気付き、振り返る。


「どうした?」


「三世が、三世がいない」


三世(エーテル)が……。真実、周囲に気配は?」


 既にゴーレムやゴーレムベビーは一掃され、ほとんど残っていない。

 気配があればすぐに分かる。

 だが真実はこう答えた。


「その者は付近にはいないでしょう。ここら一体に人の気配はありませんので」



 ♤♤♤♤



 一人目覚めた三世。

 周囲は森の中、既に日は落ち、真っ暗だ。

 だがうっすらと明かりが見える。


「あれは一体……」


 三世は明かりの方へ向かって歩いていく。

 森の中、焚き火をしている集団を発見する。

 人数はそれほど多くはなく、十にも満たない。


「我らカーバンクル盗賊団、今日もばっちり宝石ゲット。さあ、明日も張り切っていこうじゃないかっ」


 ルビーのようにキラキラと輝く赤い髪を揺らす女性。

 手には宝石と思われる物が握られている。


 宝石の美しさに見惚れ、三世は木陰から顔を出した。

 木の葉が揺れ、音がする。

 その音を聞き逃すことなく、女性は物音がする方へ視線を向ける。


「……だ、誰ぇ?」


 か弱い声が、森に響く。

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