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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.1『錬金術師の里』編
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物語No.36『錬金術師の里へ』

 暦、琉球、愛六、三世、三浦、稲荷はいつものように女剣聖の酒場ラヴァーズに集まり、今後の方針を固めていた。

 しばらくの間、ギルド街では魔女との戦いが起こると推測した。

 魔女の標的は今まで自分達だった、という前提の下、対策を練ることが今回の主軸。


 二日前、三浦を救出し、魔女と交戦した。

 全員にまだ疲労は見られるが、三世は疲労とはまた別のものに悩まされていた。


「三世君? 元気ないけど大丈夫?」


 三浦は、終始負のオーラを漂わせている三世を心配していた。


「まだ異世界の時間に身体が慣れなくてね」


「ならいいんだけど……」


 三浦は三世の違和感を感じ取っていた。

 まるで昔の自分のように、人に話せない何かを隠している。


「困ったら私を頼ってよね。君が私を助けてくれたように」

 私も君を助けるから」


「うん、ありがとう。でも大丈夫だから」


 一瞬だけ感じた距離感。

 三世は明らかに何かを隠している。

 三浦は三世を必ず救おうと決めた。


 だが三浦は知らない。

 三世は三浦を救うために苦しんでいることを。


 三世と三浦がボーッとしている間にも、暦が進行役を務める話は進展していた。


「つまり、VS魔女戦には瞬間移動(テレポート)封じの道具が必要になる。どれだけ追い詰めても敵がテレポートする限り、ボクらは彼女を追い詰めることはできない」


 三世と三浦は今から耳を傾け始める。

 二人は呆然としている状態には愛六らは気付いている様子はない。


「可能性としては、錬金術師の里だ。里にそのような結晶があるという噂を耳にしたことがある」


「ギルド街の外にも人が暮らしているんですか?」


「ああ。異世界はまだ未開拓領域ばかりだ」


「なんかワクワクするよね」


 シリアスな雰囲気がテーブルを埋め尽くしている。

 混沌とする空気を気にも留めず、少女は呑気に呟いた。


「稲荷、状況分かってるのか?」


「もちもち。でもこんな暗い雰囲気で旅行しても絶対面白くないのだ。もっと今を楽しもうよ」


 どんよりとした空気が狐の少女によって朗らかに変わる。


「旅行なんて気ままなものじゃないさ。錬金術師の里は危険かもしれない」


「でも稲荷あそこ行ったことあるから分かるのだ」


「ーーへっ!?」


「稲荷、世界中を旅するのが趣味なのだ。故に錬金術師の里にも行ったことがあるのだ。稲荷はな、そこである少年と仲良くなって、宝石も貰ったんだよ」


 稲荷は尻尾に手を入れ、すぐに抜いた。

 手には真っ赤に輝く宝石が握られている。


「錬金術師の里には宝石がいっぱいあるんだって。稲荷、久しぶりにあの子に会いたいのだ」


 宝石を眺めながら、あの日のことを思い出していた。

 赤い宝石は、酒場の天井に吊るされる光灯に照らされることで真っ赤に光っている。


「お前も行くか?」


「良いのかっ!」


「遊びに行く訳じゃない。ただ、初めて行く場所には案内役が必要なだけだ」


「素直じゃないのだ」


 稲荷は笑顔で暦の頭をポンポンと叩く。

 暦は嫌がる素振りで腕を払う。だがなかなか腕を振り切れず、悪戦苦闘していた。


 愛六と三浦はその様子を見てクスクス笑っている。

 微笑ましい雰囲気がテーブルを包み込む。

 ただ一人を除いて。


(三浦、僕は必ず君を助ける)


 三世は水を飲み干し、気持ちを落ち着かせる。

 稲荷の腕を振り払ったところで、暦は12を指している時計を眺め、宣言する。


「今から錬金術師の里へ向かう。稲荷、錬金術師の里へはどれくらいで着く?」


「うーん。列車を使うなら丸一日かな」


「遠いのかー。ってか列車なんてあるんですか!?」


「あるにはあるのだけど、錬金術師の里までは続いてないから途中までなのだ。他にも交通手段はあるけど、暦はあんまりお金ないんでしょ」


「解毒薬を大量に買ったせいで金貨一枚だけだね」


「少ないなおい」


 予想外の少なさに稲荷は眼を見開き、しょんぼりとする。

 金貨一枚では六人片道切符で旅行することになる。


「仕方ないなー」と頼れる大人な雰囲気を醸し出しながら、尻尾に手を突っ込んでがま口の財布を取り出した。

 財布の中には金貨や銅貨、銀貨が詰まっている。


「もう、稲荷のバイト代から出してやるのだ」


「ありがとうね、稲荷」


「べべべ、別に、感謝されるためじゃないのだ。稲荷はただ、皆で楽しく旅行したいだけなのだ。だから楽しまなかった奴から崖落としの刑だからな」


「楽しめるかっ!」


「愛六ちゃんこわーい」


 稲荷は「きゃあ」と叫びながら暦の後ろに隠れる。


「おいガキかお前」


「なあ琉球、愛六はこんな恐いのか」


「慣れ親しんだ相手には結構グイグイ行くタイプだな。でも逆に初対面とかまだ関係性が浅い相手にはおしとやかで優しさを……演出……っ、イテっ」


「余計なことは言わんで良い」


 琉球の頭を背後から死神のような殺気を放ちながら鷲掴みにし、命を奪い取るような視線を向けている。

 琉球の全身に鳥肌が立ち、ぶるぶると震える。


「ってかさ、お金って冒険者ならすぐに稼げると思ったんだけど。冒険者が皆バイトしてるわけじゃないだろうし、皆はどうやって稼いでるの?」


「こういう時はクエストだよ。錬金術師の里には鉱石とか金属がいっぱいあるし、そういうクエストはガッポガッポなのだ」


 稲荷は御輿を担ぐように舞い上がり、騒いでいる。

 目にお金マークが浮かんで見える。

 よだれも垂れそうになり、すぐに拭き取る。


「まあやるべきだな。でもどういう内容が良い?」


「なるべく採集系とか非戦闘系が良い。あと対人戦は絶対ヤダからね」

「大金が稼げるやつね」


 愛六が言うのに被せるように、稲荷も言った。

 完全に被っていたが、暦は聞き取れたらしく、


「ボクが行こう。皆はここで待っててくれ。すぐにクエストを引き受けてくるから」


 相変わらず落ち着いた様子で席を立ち、店を出て、ギルド本部へと向かっていった。

 クエストには様々な種類がある。

 モンスターの討伐やモンスターからの剥ぎ取り物、自然からの採集物を納品するクエストもあれば、一時的にパーティーに入ってくれというクエストもある。


 暦がクエストを受けるまでの間、五人は酒場で雑談を交わしながら待っていた。

 稲荷が愛六の恋ばなについて吐かせようとしたところで、暦がクエスト依頼書を持って戻ってきた。


「うーん、タイミング悪ぅい」


 稲荷は頬を膨らませて睨む横で、愛六は胸を撫で下ろして安堵する。


「どんな内容のクエストなんですか?」


 暦は依頼書を見せながら言う。


「宝石盗賊団カーバンクルの拘束。報酬は拘束したメンバー一人につき金貨十枚。どうやら彼らはいつも錬金術師の里に現れるらしいよ」


 愛六は驚きと呆れに満ちた態度で依頼書を何度も見直し、ため息を吐く。


「……いや、話聞いてました?」


「全然」


「全然じゃないでしょ。私たち、対人戦なんて恐すぎますよ。それにクエストに依頼が来るほどの相手ってことは相当強いじゃないですか」


「そうだね」


「だねじゃないんですよ。私たち、臆病で脆弱なんですよ。私、自分第一主義なんで、可愛い自分が大事なんで、盗賊退治には協力しませんからね」


「結構良いクエストだと思ったんだけど、外れだったみたいだね」


「当たり前ですよ。殺す気ですか」


 愛六は感情的にクエストを拒む。

 琉球と三世、三浦も同様の感想を抱いている。


「じゃあ盗賊団(カーバンクル)退治はボク一人に任せてもらってもいいかな?」


 全員が即答で「よろしく」と答えた。


「ありがとう。話し合いも終わったことだし、錬金術師の里へ向かおうか」


 六人は錬金術師の里へ向かう。


 彼女は知っている。

 六人の行き先も、その目的も。

 なぜなら、刻印はまだ消えていないのだから。

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