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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3『魔女の三十日』編
36/105

物語No.34『嘘が崩れる日』

主要人物

・創世三世(異名、エーテル)

性別、男

年齢、15歳

潜在能力、交代(バトンタッチ)


・木守愛六(異名、凛)

性別、女

年齢、15歳

潜在能力、水


・尾張琉球(異名、零)

性別、男

年齢、15歳

潜在能力、不明


 五月三十三日。

 世界新聞社は衝撃的な記事を発表した。


『ギルド第三師団師団長"呪いの魔女"エンリ、並びに副師団長ライはギルドから追放。罪人として指名手配。内、副師団長ライは拘束済み……』


 ギルド街に衝撃が走る。

 エンリは魔女の名のままに、あらゆる魔法を自由自在に行使できる天才。

 彼女に使えない魔法はなく、まさしく魔女の名のままに無数の魔法を産み出した。


 三世らを何度も追い詰め、殺そうとした張本人。

 だが彼女らはどういうわけか指名手配されている。

 高価な魔法道具の複製や魔法装置の考案など、様々な分野で活躍する彼女がどのような罪を犯すだろうか、と一般市民や冒険者は考えている。


 だが新聞の噂を耳に挟んだ三世は、その記事に歓喜する。


「魔女エンリ。これでお前は終わるのか」


 三世は道端に落ちていた銅貨を拾い上げる。

 銅貨に反射する自分の顔を眺めている。


 魔女エンリはもうすぐ終わる。

 だがどうしてか、彼女がいなくなってしまうことに切なさを感じていた。

 幻想だ、と振り払おうとしても、脳裏に住み着く感情は頭から離れない。


「僕は……魔女エンリをどう思っている?」


 左手の甲に刻まれた黒い翼の紋章は消えない。

 エーテルの能力を失いながらも、それだけは残っている。


 魔女エンリは他人の感情を操ることができる。

 そして稲荷が言ったこと。他人を操る際、操る対象に目印をつける場合がある。

 三世は自分の感情が魔女に操られているのではないか。

 疑念が脳裏をかすめた。


「この刻印がある限り、僕とあなたの戦いは終わらない」


 魔女との戦いは終わったわけではない。

 むしろ今回の一件を機に、魔女の動きが活発化する可能性もある。


 ひとまず三世は、街で聞いた情報を酒場ラヴァーズに居た暦へ話す。


「そうか。魔女エンリも追い詰められているみたいだな」


 指先で金貨を転がしながらも、聞く耳はちゃんと働かせている。


「でもギルドって決断力あるんですね。あの魔女って長年ギルドに仕えていたわけですし、そんな魔女をあっさりと切り捨てるなんて」


「いや、ギルドの決断というよりかは、勇者の判断能力だと思うな」


 首を傾げる三世にも分かるよう、暦は補足する。


「先日の戦い。そこでライが捕らわれた。恐らくライから情報を聞き出したのだろう」


 暦は先日の勇者との会話を思い出していた。

 口に出していない言葉を、勇者は容易に理解した。魔法も使っていなかったが、まるで心を読んでいるかのようだった。

 勇者の洞察力、理解力、思考力は天才的なことを暦は一瞬で理解できた。


「勇者以外に、あの二人が悪事を働いていたことを見抜けるものはいないんじゃないかな。魔女エンリが第三師団を牛耳ったのはライを仲間にしてからだ。恐らくライは世界に干渉できる潜在能力を持っている」


「世界に干渉!? そんなラスボスみたいな超パワー、異次元過ぎですよ」


「世界に干渉といっても些細なもの。()()()()()()()()、思い通りに世界を変えることはできないよ」


「そうですか……」


 を合図に、今回の一件についての話に幕が降りる。


 三世は"魔女との契約"についても話すべきかを悩んでいたが、それを口にすることはできなかった。

 だが暦は気付いている。

 愛六と琉球から、魔女との契約の際に発生する現象を聞いているから。


 暦もその話をしようと思ったが、魔女を殺せば解決する、と決断を下した。

 結局話は何も生まれないまま、二人は沈黙の渦中に漂う。



 ♤



 ギルド本部七階。

 第三会議室には勇者ミロが招集されていた。


「勇者ミロ。魔女エンリを指名手配した理由は何だ?」


 ギルド高等職員火梛岸(ひなぎし)は燃えるような長髪を揺らし、胸ぐらを掴む勢いで吠える。

 勇者は怖じ気づくことなく、冷静に返す。


「魔女はライの潜在能力を利用して第三師団を乗っ取った。その上罪のない新人冒険者を殺そうとした。だからです」


「だからといって、魔女がこれまで我々に与えた功績が消えるわけではないでしょ」


「だからといって、魔女が犯した罪は消えるのですか?」


 勇者は確固たる自信を持って火梛岸に反論する。


「幹部さんらは認めてくれましたよ」


 勇者は火梛岸に遠慮なく反論できないほどの基盤を築き上げていく。

 火梛岸も反論し難い状況に追い詰められている状況に怒りを感じ始めている。


不寝(ねず)をなぜ捕まえた?」


「不寝は魔女エンリを幹部に推薦した。魔女エンリに操られていたと考えていましたが、どうやら自分の意志でやったようだから、仲間の可能性があると判断し、拘束した」


「あいつは、アカデミー時代からずる賢い奴だった。でも、根は優しい奴なんだ」


「理解している。だからこそ、不寝は再び魔女に手を貸す危険性がある」


 嘘や偽りではない。

 勇者は確かに不寝のことを理解している。


「お前は不寝がなぜ魔女に味方したか理解しているか?」


「金品でも渡されたんでしょ」


「その通りだ。だから、不寝は再び魔女に協力する恐れがある。もちろん、魔女が倒されれば不寝の拘束も解除する」


 勇者は確かに考えがあるのだと火梛岸は理解した。

 感情的に発言していた自分が恥ずかしくなり、顔を背けたくなる。


「魔女エンリと協力する可能性がある者は全て排除しなければならない。彼女は必ず、ライを奪還しに来るでしょうから」


 勇者は確信している様子だった。

 ライの潜在能力を、事情聴取の中でおおまかに理解したためだ。


「だからその時まで、私は魔女が介入する隙は与えない」


 勇者はギルド最強の冒険者。

 最強の仲間を引き連れ、これまで多くの危機を切り抜けた強者。

 勇者が本気を出せば、魔女エンリも思い通りにシナリオを進ませることはできない。


 だがしかし、勇者の知らないところで魔女はある人物に介入をした。

 勇者のいない間、用心して目印をつけていた。

 それが今、功を奏した。


「逃がさないよ、三世」


 魔女の前に、三世がいる。

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