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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章2後『三浦編・救い』
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EX物語『三浦友達は考える』

 三浦友達は悩んでいた。

 数時間前、暦からあることを言われたからだ。


「異世界で活動する時には、現実世界の名前と別の名前で活動するのが定石。素性を探られないためにも」


「なるほど」


「つまり異世界限定の名前ーー"異名"を考えておいて欲しい」


「分かりました」


 と意気込んだものの、意外と考えるのって難しい。

 かれこれ二時間以上、私はギルド街を無意味に散策しているわけだし。


「異名異名……異名か……」


 答えが返ってくるかと思い、空に叫んでみても、木霊は迷子になったまま。

 木霊はどこへ言ってしまったのだろう、と広い空に首を傾げる。


「中二病的な名前にするのは恥ずかしいし、だからといって無難な名前にするのもそれはそれでなんか嫌だし……」


 子供の名前を考えるのも、今の私みたいに悩むのだろう。

 私には父と母の記憶がない。

 私がどのように生まれたのかも分からない。


 ある研究者は言った。

 幼い頃の記憶は簡単に変えることができる。

 他者によって洗脳を施され、存在しない記憶を植えつけることも可能である。

 だが、自分自身で過去の記憶を封印する者もいると。

 私の場合、どちらなのだろうか。それとも、どちらでもないのだろうか。


 記憶がない。

 だが、私のアイデンティティは確立している。

 不思議な話だ。


「ここはいっそ目に入った言葉で良いか」


 そういえば三世はどんな異名にしたのかな。

 三世のことだし、めちゃくちゃカッコいい名前にしたに決まっている。


 唐突に思い浮かぶのは三世のこと。

【毒の館】での一件以来、私は三世に並々ならぬ感情を抱いている気がして落ち着かない。

 会話が終わってしまうのがもどかしくて、目が合っても逸らされるのが切なくて、名前で呼ばれないのが悲しくて。


 私って三世のことを何て呼んでたっけ?

 最初は創世くんだったよね。三世って呼んだことってあったっけ?

 あー、これからどう呼べば良いのか分からない。

 この際異名で呼ぼうかな。


 大通りで頭を抱え、悩みに悩む。

 行き交う通行人が私を不審者扱いして見てくるが、お構いなし。


「よしっ。三世に会いに行こう」


 まずは三世がいる可能性があるネタバレ屋に向かう。

 見慣れない場所に行くことは恐かったけど、三世がいるかもしれない、そんな疑念が勇気となって背中を押してくれる。

 思いきってネタバレ屋の中へ入る。

 だが三世はおらず、ネタバレ屋さんがいるだけ。


「ごめんなさい。間違えました」


 謝り、立ち去ろうとすると、


「あなたが探している相手でしたら『女剣聖の酒場ラヴァーズ』にいますよ」


「……えっ!?」


 突如、ネタバレ屋さんは私の心を見透かしたように言った。


 暦さんから聞いていたけど、本当に何でも知っているんだ。

 何も言っていないのにここへ来た理由を当てられ、さすがに驚く。


「異名が思い浮かばずに困っているのでしょ」


 やはり見抜かれてる!?

 ここは正直に言って相談にのってもらおう。


「はい……。実はどんな異名にしようか悩んでまして」


「そうでしょうね。あなた、臆病ですから」


 やっぱ内面も見抜かれてた……。

 ネタバレ屋さんには頭は上がらないな。


「三浦友達、あなたはどんな存在になりたいの?」


「……そうですね。私は、三世の側にずっといられるような存在になりたい」


「名前はその人の象徴、あなたがどうなりたいかを端的に表してくれる。あなたがなりたいものを異名にすればいいの」


「私がなりたい……」


 私の中には確かにあった。

 自分がなりたいもの。そこから浮かぶ異名も。


 私がなりたいものなんてたった一つ。

 私はあの人に支えられて、あの人のおかげで生きられて、あの人のおかげで学校が楽しみになっていた。

 あの人の側にいたい。あの人をずっと見ていたい。

 私が出せる答えは一つだけなんだ。


「あのー、ありがとうございます。ネタバレ屋さん」


 ジロジロしながら、何とか感謝の言葉を伝えた。


「決まったみたいだな」


「はい。あなたのおかげです」


「私はなにもしていない。ただ君が選んだだけだ。だってこれは、君の物語なんだから」


「私の……物語……?」


 胸が突然熱くなる。

 この思いは一体……。


「それと、好きな人のことは名前で呼んでも良いと思うよ」


「す、好きって……っ!?」


「名前で呼べば相手との関係は今よりも進展するんじゃないかな」


「そ、そうかな……」


 もじもじと両手の人差し指同士をぶつける。

 三世の側にはいたいけど、これは好きっていう感情なのかな?

 救われて感謝してる。

 だから三世の側にいたい。


 恋なんてしたことないから分からないよ。

 でも、今の私は彼となりたい関係がある。


 気付けば私はネタバレ屋を飛び出し、女剣聖の酒場ラヴァーズに向かっていた。

 熱で制御が効かない体を揺らし、真っ直ぐにあの人のもとへ。


 一人の私を救ってくれた人。

 私の孤独を埋めてくれた人。

 私に喜びを教えてくれた人。


 私は君となりたいよ。


「ねえ三世、私、決めたよ。だから、私は誰だと問いかけれ」


 椅子に座る三世は、突然私が現れ、更には意味不明な質問をされて戸惑っている。

 でも、言いたい。

 私の真っ直ぐな視線に煽られ、三世は言った。


「君は誰?」


 私は胸を張り、答える。


「私は"フレンド"。君の友達だ」

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