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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章2後『三浦編・救い』
34/105

物語No.33『憂鬱が終わる』

 勇者率いる遠征軍に同行させてもらうことができ、三世らは無事ギルド街へ戻ってくることができた。

 勇者のご厚意により、ギルド本部にある病室で三浦と三世は病床で安静にさせていただくことができた。

 ギルド有数の解毒師により三世の体内に蓄積する毒は抜かれ、後遺症を発症することはなかった。


 代金は全て勇者持ち。

 暦は勇者の懐の大きさに安堵する。


 眠る三世と三浦とバイトに向かった稲荷を差し置き、暦、愛六、琉球は勇者と魔女エンリについて知ることを全て話した。

 もちろん三浦が接続者狩りだと気付かれないために、【毒の館】での事件は話さない。


 だが、勇者は三人が何か重大な事実を隠していることを見抜いていた。


「なるほど。君たちは私に話せないことがあるというわけか。そしてそれは最近起きた事件に関すること」


 愛六と琉球の顔には動揺が滲み出る。

 当然勇者が見逃すはずもなく、何かを確信した。


「本当は読心魔法で心を読めば良いが、今の私は魔力切れを起こしていてね。その上物覚えは悪い方でね、今日のことは忘れておく」


 勇者は立ち上がり、三人に背中を向ける。


「私はこれから用事がある。二人の体調が回復したら帰れよ」


 勇者は去っていく。

 三人の、勇者に対する印象は良いものであった。

 初対面の相手であろうと全てを見透かしたように関わり、相手が何を求めているかを察することができる圧倒的空気読み能力。


 勇者は強い。

 勇者の強さを目にしたからこそ、琉球と愛六はたどり着けるか疑問に思った。


「暦さん、勇者って何ですか?」


「英雄に最も近い存在」


 琉球の質問に、暦はおしとやかに答える。

 すかさずもう一つ、気になる問いかけをした。


「英雄とは何ですか?」


 暦は長い沈黙を生み出した。

 英雄とは何か、琉球、愛六、三世は暦から英雄の器と呼ばれた。

 言葉から読み解くに、三人は英雄になる可能性もあるということ。


 暦はしばらく考え、静かに答える。


「さあ、なんだろうね」


 琉球が詮索を入れようとするが、隙を与えず暦は呟く。


「そろそろ三世と三浦は起きる頃じゃないか。愛六は気になるだろ」


「ま、私は三浦さんのことしか気にならないけど」


 愛六と暦のやり取りによって、琉球が尋ねようとした質問は霧散していく。

 琉球は暦と愛六の勢いに流されるままに病室へ向かうことになった。


 病室には病床が二つ。

 三世と三浦は既に起きており、二人で楽しそうに会話をしていた。

 相当気が合うのか、暦たちが看病しに来たことに数分は気付かなかった。


「ってか気付けよ」


 じれったそうにしている愛六が叫ぶ。

 相変わらず三世には好印象は抱いていない。そのため言動も厳しめだ。


「ねえねえ暦さん、待望の話があるんですけど良いですか?」


「まあ察しはついている」


 暦の視線は三浦へ向く。

 三浦はなぜかもぞもぞとしている。

 口を開き、声を出そうとしては閉じ、目線を暦や愛六に向けては逸らしを繰り返す。


 そう。

 三浦は三世と同じくコミュ障であった。

 もじもじとした感情が言葉を押さえ込む。


 三浦の様子を見て、三世はすぐに悟る。

 誰だってあまり交友のない者を相手にすれば緊張はする。それがコミュ障であれば何倍もだ。


「暦さん、冒険は仲間が多ければ戦術の可能性は広がるんですよね」


「ああ。仲間は多い方が良い。いずれ、このパーティーは最低でも十人組(デクテット)にはするつもりさ」


「では暦さん、三浦を僕らのパーティーにーー」


 三世は続く言葉を言おうとした。

 だが三世の口を女性の手が塞ぐ。

 口を塞いだ主ーー三浦友達は顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにしながらも、勇気を振り絞った。


「私を、パーティーに入れてください」


 緊張で押し潰されそうだった。

 人と話すことの恐怖で体が震えている。

 でも、自分で伝えないといけないと、三浦は思った。


「心が弱くて、人と関わるのが苦手な私だけど、お願いです。私は、私を助けてくれた皆さんに恩返しがしたいんです。だから私を、パーティーに入れてもらえないでしょうか」


 自分の言葉で伝えることは大切だと思った。

 長い憂鬱から救ってくれた三世らへの恩返しを果たしたい。

 だから三浦は願った。


 三浦は返答を待つ。

 もし断られたら、もし嫌われていたら。

 様々な考えが脳裏に過る。

 自分は元々接続者狩りで、たくさんの人を殺した。報いることができないほどたくさんの命を奪った。

 嫌われて当然だ。憎まれてもおかしくない。

 それでも、自分を救おうとしてくれた人がいる。

 三浦はその人のために、今を生きようと思った。

 その人の側で生きたいと思った。

 傲慢で、わがままな願いだ。


 それでも、三浦友達は誓った。


 三浦の固い決心に、暦はこう返す。


「歓迎するよ。ボクたちのパーティーに」


 すかさず琉球と愛六も言葉を掛ける。


「これからの冒険は今よりも楽しくなりそうだな」


「可愛い枠はもちろん私だからね」


 誰も、憎しみの言葉を掛けなかった。

 ただ、三浦を温かく受け入れた。

 雪が溶けるほどのぬくもりに包まれ、三浦は嬉しかった。

 雪解けの水が流れ始める。


「皆、ありがとう」


 新たな仲間が増えた。

 これからの冒険は苦しいことも辛いこともたくさん待ち受けているだろう。

 それでも三世は乗り越えられると信じている。


「三浦、これから僕たちと一緒に冒険をしよう。最高の物語にしよう」


 三浦の憂鬱が終わる。

 新しい世界が三浦を迎え入れる。

 

 一人じゃない、とでも言うように。


第一章2後『三浦編・救い』

ーー終

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