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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章2後『三浦編・救い』
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物語No.29『君が待つ』

 ネタバレ屋に五人が集合していた。

 琉球、愛六、三世は申し分程度の装備をしており、武器も剣や槍、盾である。


 暦は上下白色の服を着ており、体のラインがくっきり分かるほどのサイズ。首まで隠れる襟、手袋をはめ、髪や瞳まで真っ白。

 まるで一人だけ違う世界の住人のような、純白の存在感。そのため、手に構える赤色の槍が妙に目立つ。


「全員揃った」


 だがネタバレ屋に見える五人の影の内、一つはネタバレ屋のものだった。

 そのため一人集まっていない状況だった。


「あれ? 稲荷さんが見えないんですが」


「あいつならここさ」


 暦は自分の首にかかったネックレスを持ち上げ、三世らに見せる。

 ネックレスの先には石が吊るされている。石には稲のような凹凸が刻まれ、時々風もなく揺れることがある。


「この石が稲荷。あいつは極力戦わない方がいい。だから石の姿になってもらい、三浦が支配から脱却するまで傍観してもらう」


 石は「どうだ。凄いだろ」とでも言っているように輝いて見える。

 石になってもうるさい奴だ、と暦は楽しそうに愚痴をこぼす。


「これから第十区画に向かうわけだが、徒歩で向かえば、今のお前たちでは体力は持たず、【毒の館】に着いた時には虫の息だ」


 現在の三世らの戦闘力はそれほど高くない。

 星一上位のモンスターと百体戦えば体力が尽きてしまう。

 第十区画に進むまでに遭遇するモンスターの数は百を優に凌駕するだろう。

 戦いを避けたとしても、逃げの疾走で体力を消耗する。

 暦が最大限のサポートをしても、第十区画に着いた時点で万全に戦える状態でいられることはない。


 暦一人であれば、【毒の館】を突破することは容易である。

 だがこれは三世が主体的に介入しなければならない問題であり、三世自身三浦を救いたいと懇願している。

 そして三世の仲間である琉球と愛六、二人は戦うと決意した。であれば、どうして二人を止められるだろうか。


 だが、むやみに戦わせては死へ一直線。

 そのため、暦は考えたのだ。


「君たちは戦うことを決めた。であれば、ボクがすべきことは一つ。君たちを戦場へ無事に送り届けること」


 槍を足下まで下ろした暦は、槍に右足を乗せた。


「ボクにしっかり掴まっていないと、死ぬよ」


 三人はこれから起こることを悟った。

 槍の長さは暦の身長を少し越えるくらいしかなく、四人が槍に乗るにはギリギリだ。ある意味感じる恐怖に三人は怖じ気づくも、暦は三人の腕を引っ張り、無理矢理槍に乗せた。

 槍に股をかけ、魔女がほうきに乗るように。

 先頭の暦だけが槍の上に立っている。


「飛ばすよ」


 暦の掛け声とともに、槍は疾風を駆けて空を目指した。

 秒速十メートルで槍は飛ぶ。

 三世、愛六、琉球は死に物狂いで槍にしがみつき、落ちないよう必死に堪えている。


「スピード上げるよ」


「やめ……っっっっっっっっ」


 速度が上がっていく。

 既に三人の体は粉々になりそうなほどの風圧を受けている。

 加速、加速、加速。

 閃光のように駆け抜ける槍は止まらない。


 空中に生息するモンスターでさえ反応できない速度で大空を駆け抜ける。

 しばらく時が経ち、地上には赤色の輝きが線になって伸びている場所が見える。


「見えた。第十区画と第十一区画の境目」


 槍は徐々に速度を失い、やがて黒い石が一面に敷かれた大地に接地する。

 三人はジェットコースター並みの恐怖から抜け出せ、一息つく。


「って……何この臭い!?」


 鼻にアーモンドを詰められたみたいな悪臭。

 一息などつけるはずもなく、息苦しさが増す。


「まずは解毒薬を一つずつ使っておけ」


「もうですか!?」


「第十区画の行動は、毒に耐性がない限り短い方が短時間で抑えなければならない。この区画には常に濃度は薄いが毒霧が漂っている。常人なら十分もすれば吐き気やめまいに襲われる。何の対処もしなければたちまち絶命する」


 そのため、第十区画で消息を絶つ冒険者は多い。

 毒霧の濃度は薄いため、気づくことなく長期戦を続け、結果死に至る。

 冒険者にとっては情報は命を繋ぎ止める生命線であり、怠れば死神は容赦なく鎌を振るう。


 毒。

 初期の冒険者にとっては関門。


「解毒薬はいくらでもある。これから向かうのはそういう場所だ」


 暦は、【毒の館】の恐ろしさを暗に伝える。


 三人は試験管に入った紫色の液体を飲む。

 味は無味。魔法によりまずさや苦味が消えている。


「準備はできたな。【毒の館】では十分に一度解毒薬を飲め。モンスターにかすり傷程度の攻撃を受けても同様だ。解毒薬を失った場合が最期。それまでに三浦友達を救え」


 落ち着いた声で、暦は槍を振り上げて指揮する。


 解毒薬は皆十個ずつ所持している。

 長期戦は想定されていない。


 三階建て、壁や床は綺麗に削られた大理石で造られ、所々にコケ植物が生えている館。

 カーテンが開いている窓からは灯りは見えない。


「三浦さん……」


 三世は三浦さんの身を案じていた。

 まだ首が繋がれている状態だろうか。

 全て罠で、三浦さんの命が既に亡くなっている可能性だってある。


「全ての恐怖を踏み越え、先へ進もう」


 暦は相変わらず冷静に囚われているような落ち着き具合で【毒の館】の前に立つ。

 三階の窓から気配を感じた暦は、槍をそこへ一直線に投げる。

 窓ガラスが割れ、天井に槍が突き刺さる。槍は甲殻類の胴体を貫いている。


「蠍か」


 三浦友達ではなかった。

 暦はこの一撃であることを悟った。


「モンスターも操ることを可能なようだね」


「やはり来たか、接続者」


 館の屋根、そこに黒ローブ姿の何者かが立っている。

 三浦かと思ったが、髪の色が違う。

 三浦は茶髪だが、屋根の上に立つ者は黒髪。

 声色は男だ。


「お前が三浦さんを操る悪者か」


 三世は剣を抜いた。

 その間、【毒の館】の屋上に刺さった槍が暦の手もとに戻っていく。


「知りたければ冒険第一。館に足を踏み入れ、命を懸ける。それが最期だったとしても」


 ローブの男は去っていく

 暦は三人の先頭を意識していた。

 だが暦を抜き、三世は真っ先に【毒の館】へ突っ込んだ。続き、琉球、愛六も【毒の館】へと迷いなく進む。

 あっという間に最後尾。


 暦の首にかかる石は「クスクス」と笑っているようにぶらぶら揺れている。


「さすがは英雄の器。ボクじゃ止められそうにないな。あの者たちの火は」


 暦も三人を追いかける。

【毒の館】に何が待っていようとも、三人は三浦を救うために進み続ける。

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