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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章2後『三浦編・救い』
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物語No.27『五月は終わらない』

 五月三十一日が始まる。

 各々が抱える思いのままに、五月の物語を始める。


 三浦友達は知っている。

 早朝、ギルド街をローブで身を隠しながら、堂々と歩いていた。。

 ネタバレ屋の前を通りかかった時、丁度琉球、三世、愛六がネタバレ屋を出るところだった。


「ーーやはり来たか。これから死に行く者々よ」


 三浦友達が通りかかったことを、ネタバレ屋は知っている。

 だが彼女は、全てを知っていても全てを話すわけではない。


 だが暦にだけは、彼女は言った。


「彼らに危機が訪れている。だから君は、彼らを護らなければいけない」


「分かっています。もうこれで終わりにする」


 暦は魔女エンリのことを思い浮かべ、拳を強く握り締める。

 憤怒が溢れている。


「魔女エンリを終わらせる。今度こそ」


 普段は冷静沈着で何事にも動じない暦だが、魔女エンリにだけは感情が溢れ出る。


 魔女エンリもそれを分かっている。

 魔女エンリはギルド第三師団アジトにて、宙に浮かび、布団に転がるように倒れ、漂っている。

 ライは大人びた口調で魔女エンリに尋ねる。


「三世は大丈夫なの?」


「大丈夫。思春期は不安定だから。三浦が死ねば、私に(すが)るさ。そこを私は殺すだけ」


 魔女エンリは次なるシナリオを考えていた。


「叶うと良いね。今度こそ」


「叶えるわ。目の前にあった欲望の糧がなくなったのよ。叶わなきゃ死んでしまいたくなるほどの苦悩だわ」


「私の嘘も残っているし、エンリは優勢なんじゃない」


「そうだと良かった。でもね、三浦の後ろにいるのが誰か分からない以上は迂闊に手出しはできない。とはいえ、その者は三浦を始末してくれるらしいから、関わらなければ良いだけなのよね」


 魔女エンリは目を細める。

 思い通りに行きにくい世界に腹を立て始めていた。


「まあ良いわ。彼らが動いたら私も動かすとしましょう。()()()を」


 魔女エンリは三世を見ている。

 三世は謎の寒気に襲われ、身震いを起こす。


「風邪でも引いたの?」


 琉球は腕をすりすりと擦る三世に心配の視線を向ける。


「いや、大丈夫。ちょっと誰かに見られている気がしただけ」


 場所はギルド街にある、女剣聖の酒場ラヴァーズ。

 稲荷を含め、三世、愛六、琉球、暦は料理に埋められた円卓で作戦会議を行っていた。


「稲荷、接続者狩りについて知っていることは他にないか?」


 既に、接続者狩りは体術や短剣を使った攻撃をメインにしていること、星三上位のモンスターに匹敵する強さを持つこと、が稲荷から知らされた。

 稲荷は頭に生えた狐耳をロールキャベツのように丸まらせ、目を瞑り、更なる情報を必死に思い出そうとしていた。

 数秒の間が空き、ひらめいたのか、耳がピンと開かれた。


「思い出したのだ。でもこれは噂なのだが、接続者狩りは不眠不休で生活しているらしいのだ」


「多分それは操られているからだよ。三浦友達が寝ている間も、誰かに操られているんだ」


 三世は確信をもって言った。

 暦も三浦の言動が突然変わった場面に居合わせていたため、三世が主張することも理解できる。


「操られているなら、それを解けば良いんだよね」


「できるのか!!」


「もちもち」


「餅餅?」


「もちろんってことだよ」


 稲荷と長年共にする暦は、稲荷の言葉を容易に解読した。

 熟年夫婦のようなやり取り。


「人を操る場合、幾つかのパターンが考えられる。魔法での干渉、魔法道具の使用、潜在能力の行使、などなど、挙げればキリがないのだ」


 稲荷は兎肉を一口食べ、一瞬で飲み干す。

 果実ジュースで口直しをしつつ、説明を続ける。


「対処法はあるものの、あらゆる場合に対応できる道具は私は知らぬ。だがだがだが、私の機転でお前らを救ってやろう。このコンコン様がッ!」


 稲荷は決めポーズとばかりに両手を頬まで持っていき、三本指を立てて狐に生えるひげを表現する。

 顔はこの上ない満足感に包まれ、小さくふっと笑う。


「で、何かあるのか」


「無反応!? もっと驚いた表情しても良いよね」


 暦らは真顔だ。

 稲荷は気を動転させ、あたふたと騒ぎ始めていた。


「暦、お前だけは反応するのが妥当だ」


「無理」


「無理とは何だ。救世主コンコン様に向かって。それなら手を貸さないぞ」


「稲荷、君は優しい奴だろ」


 暦に頭を撫でられると、稲荷は赤面して顔を下に向ける。

 消え入りそうな声で、


「分かった。力を貸してやる……ぞ」


「ありがとう」


 稲荷は液状化してしまいそうだった。

 騒ぐ心を無理矢理落ち着かせ、本題に戻る。


「他者を操る、ということは、その者に常に操っている者の意識があるか、目印だけつけておいて、いつでも操れるようになっているか、という可能性が大半。なら操られている対象に細工をして、操るという事象を他のものへ移せれば支配から逃れられるのだ」


 最後に稲荷は、「まあ、あくまでも推論であり、実証したわけではないのだ」と付け足した。

 成功するという確信はない。だが可能性があるのなら、今の彼らは飛びつく。


「やります。僕にできることなら何でもやります」


「分かったのだ。では道具も集まっておるし、後はこれから言う作戦を実行できるかどうかなのだ」


「必ず成功させる。僕は、約束したから」


 三浦友達を救う。

 三世は三浦への思いを胸に、戦いの決意を固める。


 数日前の三世であれば、恐怖に体をすくめ、前を向くことさえもできなかった。

 だがこの一ヶ月、様々な経験が三世を変えてくれた。

 立ち上がる勇気も、力も、今の三世には揃っている。


 だから、


「僕は救う。そのために三浦さんに出逢ったんだから」


 今の三世は前に進めている。

 暦や琉球は、以前の臆病な三世の面影がまるでないことに驚いていた。

 三世の成長は嬉しくもあった。


「よし。では作戦を発表するぅぅぅ」


「きゃああああああ」


 稲荷の声を押し退け、悲鳴が店の外から聞こえてくる。

 滑らかな石の床に金属が落ちる音。


 三世は「まさか……っ」と呟き、叫び声の上がった店の外へ駆けつける。

 愛六や琉球、暦も三世の後を追う。


 案の定、そこには死体があった。

 全身には刃で切りつけられた切り傷がある。

 死んでいる男の心臓には、黒い短剣が突き刺さっている。

 今まで接続者狩りの被害に遭った者たちとことごとく同じ傷。


「やあ創世三世。待っていたよ」


 酒場の屋根、そこには黒い衣装に身を包む女性が立っている。

 フードで顔を隠しても、漏れている黒みがかった茶髪、髪色と同じ瞳ーー三浦友達だ。


「三浦さん……」


「来てくれて感謝するよ。だが本番はこれからです。五十五時、ダンジョン領域にある【毒の館】へ来なさい。三浦友達を救いたければ」


「お前、三浦友達じゃないだろ。誰だ」


「知りたければ立ち向かいなさい。異世界に、不条理に。さすれば、いつか(わたし)と戦う時が来るでしょう」


 三浦友達は瞬間移動により、去っていった。

 三世は消えた三世の残像を眺め、静かに拳を握り締め、決意する。


「三浦友達、僕は必ず君を救う。君が笑えるように」

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