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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章2前『三世編・魔女堕ち』
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物語No.18『表と裏で繋がっている』

 昨日のことはよく覚えている。

 魔法を使用する感覚を知った。

 そのおかげか、火属性を起こすことができるようになった。

 今はほんの小さな火だけれど、これから大きな火にしていこう。

 成長すればきっと、僕だってお伽噺の()()()()()()()


 なれるだろうか。

 たどり着けるだろうか。

 僕は自分に問いかけ続ける。


「ーー創世(つくりよ)君、創世君、創世君」


 自分の世界に浸る時間が過ぎ去った。

 気付けば教室、いや、最初から教室だった。

 授業中、僕は考え事をして授業そのものの存在さえも忘れていた。


「創世君、なぜこの帝国は滅んだか分かりますか?」


 授業も聞いていない、教科書も見ていない。

 そんな圧倒的劣勢下で浮かび上がる答えは一つもない。


 沈黙を続け、一分の間が流れる。

 ため息や舌打ち、小さな音でも静寂の中でははっきりと聞こえてくる。

 教室中が落胆に包まれる。


(ああほら、僕はこういう奴だった。異世界のことばかりでしばらく忘れていた。自分はクラスにとって、必要のない存在だった)


 先生までも呆れ、頭を抱える。


「座りなさい。もういいです」


 最初から期待されちゃいない。

 僕はクラスの視線を見ないふりして誤魔化して、そんなものなかったんだって知らないふりをして、そうやって目線を落として……。


 ーー嫌なんだ。


 授業が終わり、休み時間。

 次の授業は体育、僕が嫌いな移動教室だ。


 皆教室で体操服に着替え始める中、僕は椅子に座ったまま本を読んでいた。


「ねえ三世、着替えないの?」


 琉球が不思議そうに僕に聞いてくる。


「大丈夫」


「ん……? なら、分かった」


 着替え終わった琉球は他の生徒と一緒に教室を出ていった。

 残る生徒は愛六(メロ)と数人の女子生徒。

 僕は本を読むふりをして、愛六の方へチラチラと視線を向けるが、愛六もチラチラとこちらを見ている。


(見るな見るな見るな見るな見るな)


 心の中でその言葉を反芻し、早く去ってくれることを願う。


「ねえ皆、そろそろ行こ」


 愛六の指示によって残りの生徒は皆教室を去っていく。

 ようやく一人になった教室で、僕は一人着替え始める。


(こんな毎日、しんどいだけだな……)


 何か、物足りない空虚さがある。

 心の隙間が埋まらない。

 孤独だと、誰かが僕をそう思っているに違いない。でも僕は孤独じゃない。一人じゃない。


 だから僕を見るな。


 着替え終わってからしばらく、僕は誰もいない教室を眺めていた。

 いつもはあんなにうるさい教室が、今ではこんな静かな癒しの場となっている。


(ほら、一人は最高だろ。一人はーー)


「一人は最高だああああああ」


 口にした刹那、後悔が全身を駆け巡る。

 まさかこの僕が、背後にいた人影に気付かなかったのだから。

 自分の席の真後ろ、気配があれば気付かないはずがない場所にいた彼女に、存在感を認識できなかった。


「つ、創世君……ッ!?」


「み、三浦さん……ッ!?」


 お互い驚きのあまり目を見開き、長い沈黙に時間を奪われる。呼吸も忘れ、まばたきも忘れ、鼓動も忘れた。

 気付けば授業開始二分前のチャイムが響く。

 鐘の音を皮切りに、お互い呼吸を始めた。


(あははっ、息苦しいをそのまま体感したぞ。なんだこの気まずさは!?)


 今すぐこの場から逃げ出したい。

 今すぐ恥ずかしさを大声に変えて霧散させたい気持ちがあるものの、声を上げられないほどの羞恥下にあった。


「創世君、私……別に何も聞いてなかったから。大丈夫だから」


 明らかに聞いている。

 真後ろにいて、逆に聞こえなかったなんて奇跡はあり得てもいいじゃないか。

 いや、逆に聞こえなかったからの反応なのか?

 まさか神様はこんな奇跡を用意していてくれたのか?


「で、でも創世君、わ、私も一人だから安心して。一人なのは創世君だけじゃないから」


 三浦さんは目を背けつつ、顔を火照らせ、僕に言う。

 聞こえていないはずがない。

 僕は本日二度目となる羞恥の渦に飲み込まれた。


(ああああああああああああああああッ)


「じゃ、じゃあ私行くね。遅れたら怒られちゃうし」


 三浦さんは立ち上がり、こちらをチラチラと見ながら扉へ向かっていた。


(……あれ? あいつも自分は"一人だ"って言ってたけど、友達いなかったっけ? 男よりも男っぽい女子がいつも彼女のそばにいたような……)


 去り際、三浦さんの足にチラッとアザが見えた。

 咄嗟の判断で僕は三浦さんの腕を掴む。


「え……ッ!?」


 自分でも理解できない自分の動きに動揺しつつも、なんと言えばいいか必死に考えていた。

 この時、僕はただ無意識的に言ったのかもしれない。


「僕の、友達になってよ」


 これが、僕と彼女の運命を変える一言だった。

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