物語No.17『魔法の使い方』
ライの「勝負開始」の合図とともに、互いの体は動き出した。
先に仕掛けたのは真実の右。
右腕を振り上げた動作に合わせ、大地を穿つ電気が天に向かって突き上がる。
三世はバックステップで回避し、噴水のように湧き上がる電気の後ろに身を隠す。
「弾けろッ」
真実の右の声に合わせ、電気はドーム状に爆発を起こした。だが既にその場に三世はいない。
すかさず周囲を確認して三世を探すが、四方に姿は見当たらない。
「透明化か……」
三世の姿が見えないことから、幾つかの魔法を想定する。
襲撃に備え、全身に電気を帯びさせる。
「無駄だよ」
声が聞こえた。床の方から。
彼が下を向いた時、床は赤みを放っていた。
「火かッ!」
火炎が噴火並みに床を突き破って空へ昇る。
咄嗟にかわした真実の右だったが、火は左腕に小さな焦げ跡を残す。
エンリが操作するとはいえ、三世の魔法の威力に真実の右はやや焦りを見せる。
纏っていた電磁バリアを破り、体に小さな火傷を残させた。油断はできない相手だと再確認し、戦闘態勢に。
「真実の右。あなたは強いけど、私に勝つにはまだまだ未熟なようね」
穴が空いた地面から出てくる三世は、風を纏いながら飛翔していた。
真実の右は三世に向けて右手を向ける。
「貫けッ!」
右手には黄色い魔方陣が創成される。
凝縮された電気が右手の魔方陣から勢いよく放たれる。
三世は微動だにせず、電気はすぐそこまで迫っている。反射できないのか、と思われたその時、床から巨大な氷壁が出現する。
「これは……ッ!?」
電気は氷によって霧散し、真実の右は氷に足を捕らわれた。
「私の勝ちね」
と言いつつも、三世の体は千鳥足になり、床に倒れた。
そこでようやくエンリは自分の口で話し始める。
「さすがに魔力切れよね。でも真実の右、あなたは……って」
真実の右が氷に捕らわれていたはずの場所は、一部だけ高温に犯されて溶けたような痕跡が残っている。
エンリはハッと後ろに気配を感じる。
「さすがねあなたは」
「戦歴が違いますから」
「言うのね」
「しかしこれで魔法を習得できるでしょうか」
「できるわよ。理論的に魔法を習得していくのと違い、感覚的に魔法を習得するには魔法を経験させること。しかも自分の体で魔法を使ったのですから、今回使った属性の一つは発動できるでしょ」
「使えなかった場合はもう一度俺と戦いますか?」
「使えなかった場合は、その程度の器だったと思って、私はこの子を捨てるわよ」
エンリの声色から真実であると感じとることができた。
決して冗談ではない、三世を捨てるほどの無情さが彼女にはあった。
「相変わらずあなたは辛辣ですね」
「だって異名は魔女ですから」
二人が会話をする横で、魔力切れによる疲弊に倒れる三世。
「エンリ師団長、彼はどうしますか?」
「起きるまで待つわ。まだ一つ、しておかなければならないことがあるもの」
エンリは魔女の微笑みを浮かべる。
目はアーチを作り、口は三日月を作る。
真実の右に届かない声で、魔女エンリは口にする。
「そろそろ三人の中から一人脱落させましょうか」
憂鬱な魔女は求める。
自分を憂鬱から救ってくれる英雄を。
故に、自分が思い描くシナリオを三人に歩ませる。
終焉の道へ誘う死神のように、破滅のエンドロールが流れ始める。
終わりはもうすぐそこにある。
終わりへ、終わりへ、この物語は進み行く。