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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章1『魔女の憂鬱』編
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物語No.14『魔女は見ている』

 リザード・ドラゴンの残骸が残る現実学園。

 そこへ一人の少年が近づいていた。

 色を塗り忘れたような真っ白な髪と目を持つ少年。彼は屋上から竜の身体を見つけ、十メートルを越える高さにも関わらず無傷で地面に着地した。


 既に首は切り落とされていた。

 彼は竜の側で立ち尽くす三人に視線を向ける。


「これは三人でやったのか?」


「はい」


 切り落とされた竜を見て、暦は信じられないのか、首を傾げている。

 竜の死骸を見つめては、三人へ視線を移すを繰り返している。


「ところで、なぜ琉球は裸なのかな?」


 暦に言われてようやく気付いたのか、琉球は自分の下半身に視線を落とす。

 顔が紅潮し、動揺のあまり手がパントマイムをし始めた。

 すぐさま偶然落ちていた布で身体を覆い隠し、ホッと一息つく。


「正直、まさか君たちが竜を倒せるとは思わなかったな。異世界で戦闘の訓練を積んでからまだ三日。潜在能力があったとはいえだ」


 暦は熟考していた。

 なぜ竜を三人が倒せたのか、まず竜の首を跳ねるほどの力が彼らにあるのか。

 まず、その疑問は首の側に落ちていた純白の剣を見て解決した。


「その剣、誰から貰った?」


「神妹さんです」


 既に察しがついていたのか、反応は僅かだ。


「なるほど。では倒すことは可能だったというわけか。だが一人も死ななかったのは見事だ」


 竜が倒れる橫で、三人と暦は会話を交わす。


 現実世界で竜が出現した異例の事態。

 三人は暦へそのことを尋ねるが、暦は「よくあることだ」と言った。なぜモンスターが異世界を越えて現実世界へ出現するのか、理由は未だ判明していない。

 だが彼女なら知っているのではないか。

 過った瞬間、打ち消すようにこの言葉が脳裏に浮かぶ。


 ーー私は何でも知っていても、何でも答えるわけじゃない。


 全智の彼女は知恵をひけらかすことはしない。

 全智であるが故に、とでも説明すれば良いのだろうか。彼女はその答えでさえも口にしない。


「だが竜の始末を済ませないとな。でなきゃ少々、面倒なことになる」


 暦が懸念していた事態は、予想よりも早く起こった。


「あなたたち、こんなところで何をしているの?」


 誘惑するような魅惑の声。

 美女が男を魅了させるような愛のこもった声音。彼女の声に同姓であるはずの愛六も含め、三人はラブに近い好感を抱く。


「お前……っ!」


 だが暦だけは彼女に対して殺意に似た感情を向けていた。

 それが当然だというようにエンリは微笑む。


「暦さん、彼女は誰なんですか?」


「彼女はギルド第三師団師団長エンリ、異名は"呪いの()()"」


「物騒な名前ですね」


 エンリの異名に三人は僅かな警戒心を抱く。

 だがエンリが三人へ微笑み掛けると、敵意も風船のように風に流れて消えていってしまう。


「相変わらず()()が好きだな」


「魔法って呼んでよ」


「呪いの魔女は傷つかないだろ。人並みの感情なんてものはお前に存在していいわけないだろ」


 静かな口調で言い放つ。

 言葉には明らかな敵意が込められている。

 エンリに対して激しい感情を抱く暦は、手に槍を出現させ、今にも刃を突き刺しかねないほど血管を浮き立たせている。


 暦はそれをしないと踏んでいるのか、エンリは怖じ気づくことなく暦に歩み寄っていく。


「あら暦、三人とも生きているのね」


「見ていたのか」


「そうよ。それにしても見事な絆だったのよ。学園の全生徒を護るために、自分より上位の敵にたった三人で立ち向かう。死んでもおかしくなかった。死んでも面白かった」


 魔女エンリは愉快に微笑んでいる。

 死人が出てもおかしくないあの場で、彼女は傍観していた。

 三人の誰かが死ぬことになっても助けにいかないことは、彼女の言動から明白だ。


 不快な言動をされたにも関わらず、三人はエンリに対して怒りや憎しみといった感情を抱くことはできない。

 不審に思うことさえもできなかった。


「エンリ、今回の竜はお前の仕業か?」


「私がそんなことをするように見えるかしら?」


 エンリは知らないとばかりにシラをきる。

 エンリの態度に暦の怒りは膨れ上がるばかりだった。


「私はもう帰るわ。いいものも見れたし、それにここに長居をするつもりはない」


「竜の処分は?」


「副師団長に任せてあるわ。すぐに医療班も来るでしょうから、そこで大人しく待ってなさい」


 終始魔女エンリは上から目線の振る舞いを装っている。


「また遊ぼうね。傀儡(おもちゃ)さん達」


 その言葉を最後に、エンリの姿は音もなく前兆もなく、刹那の間に消え去った。

 魔法が解けたのかよ、うやく三人はエンリに対して怒りなどの感情が芽生え始めた。


「三世、愛六、琉球、魔女エンリには気をつけろ。あいつはお前らを殺したいと思っている」


 暦の発言は嘘でないと、三人は自然と受け取った。

 わずか数分の間で魔女エンリについて分かったことーー彼女は強者であり、それゆえ傲慢である。


「魔女エンリは再び仕掛けてくる。その時までボクは君らを強くする。だから死ぬ気でついてこい」


 暦は備える。

 いずれ来る魔女エンリの気まぐれに備えて。


 だがネタバレ屋は知っている。

 もうすぐある者が死に陥るということを。


 ネタバレ屋は一人呟く。


「ーーやはりあなたは死にますか。それとも乗り越えますか? この運命を」

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