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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章1『魔女の憂鬱』編
13/105

物語No.12『過去はいつもあなたを見てる』

 また、夢の中。

 誰かの人生を、見ているみたいな……


 部屋中を本棚が埋め尽くす広大な部屋だ。進んでも進んでも進んでも本棚は永遠と続く。

 まるで世界中の全ての書物があるような場所。

 それとともに、常に頭に情報が侵入してくる不思議な感覚に囚われている。


「ここは……?」


「あなたの過去、私の過去」


 誰かが話している。

 声の主はすぐに分かった。

 喋ってもいないのに自分の口が、いや、この身体の持ち主の口が勝手に動いている。

 今、この身体には僕と誰かの意識が存在している。


 声は女性のようだ。

 髪は太陽の光を浴びた黄金のように輝いている。


「あなたは?」


「いつか分かる。この部屋に来れば」


「ここはどこなんですか?」


「それを言えば君の冒険は終わってしまう」


「終わる? どうして?」


「君は質問ばかりだな。無理もないか。君たちは何も知らない、いや、忘れてしまっているだけだから」


「忘れる?」


「これはそれを思い出すための"第一章第二章(物語)"。未来を生きるための序章に過ぎない」


「分からない」


「分からなくて良い。ただいつか、君は知る。その時までに生き残ることができたなら、君はその先へ進むことができる」


 彼女は機械的に淡々と告げる。


 身体の動きは止まる。

 自分の意志よりも彼女の意志が優先されている。


 目の前には巨大な扉があった。

 見たこともない物質で作られている大扉に彼女は手を伸ばす。

 色は何色にも染まってしまった真っ黒さ、光が届いても輝かないようなブラックホールのようだ。


「もし君がこの場所まで辿り着くことができれば、君は全てを思い出せるかもしれない。だがここに辿り着く前に死んでしまえばーー」


 急に頭に振動が走る。

 脳を直に掴まれて揺らされているような感覚に侵され、吐き気がする。身体が徐々に麻酔にかかっていくような脱力感に襲われ、意識が身体から引き剥がされ始める。


「君はもう帰るといい」


「待って。君は誰? なんで全てを知っているの?」


「知る全てを話すことはしない。それではこの世界は意味を失ってしまうから。だからあなたには頑張ってもらわなくてはいけない。いつか、遠い未来でこの場所にあなたは来る。相当先になるでしょうけど」


 口を動かせない。

 とうとう質問もできないまま、意識の波に流される。


「それでも待っています。あなたを」


 その言葉を皮切りに、意識は完全に引き剥がされた。

 大海の渦を流れるように意識は旋回し、やがて神妹境娘が待つ教室に戻ってきた。


「潜在能力を解放させたようですね。まあ、それでもまだ一部ですが」


「潜在能力が?」


 実感はない。

 高揚感が身体を駆け巡るのかと思ったが、心身ともに変化なし。

 潜在能力に目覚めた感覚はない。


「最初は二人もそうだよ。でもすぐに理解する。心が、身体が、潜在能力を思い出す」


 僕と神妹が話している間にも、校庭ではリザード・ドラゴンが地にひびを入れながら暴れている。

 琉球は攻撃を避け続けるだけ。だが体力は限界が尽きている。

 息を切らしながら、それでも懸命に走り続けていた。


「今すぐ行かないと」


「ーー待って」


 急ごうとする僕を神妹は冷静に止める。

 依然とした落ち着いた口調だが、僕は足を止めた。


「君の潜在能力はあのモンスターを倒すには至らない。君たち三人の潜在能力はそこまで万能じゃないの」


「……っ、僕は」


「だからあなたに武器を預ける。あの竜の鱗を貫くほどの刃を」


 神妹の手には鞘から出された両刃剣が握られていた。

 忽然と出現した剣に驚きながらも、僕は神妹が握る剣を受け取った。

 柄から刃先まで純白色をしており、長さは僕の膝から頭まである。両手でやっと持ち上げられるほどの重さがあり、傾け具合では青銅の輝きを放つ。


「潜在能力をどのように活かすか、それ次第であなたは強くなれる。だから頑張りなさい。生きることを諦めないで」


「はい」


 強く宣言をする。

 少し時間が経った今、自分の潜在能力が分かってきた気がする。

 自分の潜在能力はなんのためにあるのか、自分が今まで苦労していたことも全て、これからのためだった。


 僕は教室を飛び出し、校庭を目指す。

 僕が去った教室で、神妹境娘は呟いた。


「彼は未来へ進めるでしょうか。私には到底分からない。しかし彼の未来が良いものであってほしいと、私は願っている」


 神妹境娘は願う。

 いずれ来る未来のために。

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