物語No.99『最後に笑って』
全部最初から決まっていた。分かっている。
だってこれは、私が思い描いた物語だ。
あの日から、確かに私は魔女に操られていたのかもしれない。
それでも魔女は私のコピーであるならば、全部私がしたことだ。
異世界を終わらせ、多くの人の命を奪った。
私は救いようのない存在だ。
ただの嫉妬で異世界中を巻き込んだ。
異世界での戦い、最初は戸惑いばかりだった。
魔法を自由に駆使する魔女とは違い、私は凡人程度の強さを持っているだけ。
その横で琉球と三世がモンスターと戦う。
最初は肩を並べていた。段々と距離が空き、分かってくる。
三世は逃げた。そんな三世を私は愚かだと、臆病だと心の中で見下していた。
でも違ったんだ。
逃げてるのは私の方だった。
死んだはずの私は蘇り、同じく復活した三世、琉球を見る。
「私、三世を見て思ったの。逃げてばっかで向き合わない。恐いことからは目を逸らせば良い、時間が解決してくれるって思っててホント腹が立つ。恐いことから目を逸らしても意味ないのに」
三世は何も言わなかった。
「嫌なやつだ。嫌いなやつだ。私は弱いお前が大嫌いだ」
これまでずっと思っていたことを口にした。
全て偽りのない事実で、ずっと心の中に隠していたこと。
笑い合う日々の中でずっとしこりになって溜まっていた鬱憤。
だが学年が上がるとともに壁ができ、幼い頃の仲の良さは次第に薄まっていき、各々が各々の道を歩き始めた。
結局口にする機会もなくなってしまい、いつの間にか忘れた苛立ち。
しかし、異世界に来て、また三人での関係が始まる。
あの頃のように、また三人だ。
だが三世はその関係を終わらせるように、自ら去っていった。
愛六は臆病な三世が許せなかった。
「ーーだから、私も私が大嫌いだ」
唐突に、愛六のヘイトは自分自身に向けられた。
「あんたは弱い。でも、異世界に知って私は知った」
ーー異世界が私に呟いた。お前は弱い。
「私もあんたと同じで弱かったんだ。今の今まで、私はあんたのことを見下してたし、嫌いだと思ってた。でも、それは私を好きでいるための言い訳だったことに気付いた」
私もあんたと同じだった。
「人間だから、思春期だから、私はあんたよりは上だって思い込みたかった。でもさ、結果は違った。あんただって変わろうとして、前に進もうとした。
魔女をあぶり出して、知恵を絞ったあんたとは違って、私はただ見てるだけだったんだ」
魔女との戦い。
自分は何もしていない。
自分が魔女だった、というのもあるかもしれない。だがそれでも、あまりにも何もしなかった。
ただ周りの活躍を傍観していただけ。
本当は自分も三世のようき戦いたかった。
誰かのために命懸けで戦えるようなカッコいいヒーローに。
「そうか……」
愛六は気付いた。
「あんたも私も人間で、琉球だって人間だ。あんたは私にもなれるし、琉球みたいにもなれる。同じ人間なんだから、琉球にできてお前にできないことなんてないんだよ。だから、私はあんたらができることはなんだってできるってこと」
だからーー
「私だって英雄になる。世界を救う英雄に」
私の背中には翼が生えた。
その姿を見て、琉球は湖に沈んだ際に出逢った彼女を思い出す。
「……そうか。あの契約の意味は……、そういうことだったのか」
私は望んだ。
私が英雄になることを。主人公になることを。
だからこれで最後。
「私はやっと英雄になれたよ」
最後、空を飛ぶ私は心から笑えた気がした。
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