物語No.98『天使が目覚めた日』
戦いは最終局面へーー。
三人の主人公の死によって、勇者が目覚める時間が生まれた。
「まだ戦うというのかしら」
「決着は着いている」
「あっ?」
彼女は首を傾げた。首を傾げ、傾げ、傾げていく。
自分の意思とは反対に傾げていく首に、まさか、と最悪の想定を抱く。
「そのまさかだよ」
琉球の外に脱出していた龍は告げた。
琉球が死んだ以上、龍も死ぬと思っていた。
まさか自分の確信に近い予想が外れたのかと思った。だが答えはもっと簡単だった。
「始まりの樹と終わりの樹。それら二つの力によって、龍が琉球の体内に入る前に変化させた」
「……なんでもありかよ」
「いいや、ただ始まりへ、ただ終わりへ。それがこの樹の性質。たとえお前が現実世界を支配したとしても、それ以前の状態に戻すことができた」
「何で……そんなものが二つともあなたたち側に回っているのよ」
彼女の怒りの矛先は二人へ向けられる。
「終わりの樹と始まりの樹、それは私が創造したものだから」
龍は言った。
その事実を彼女は知らなかった。
「やがて誰かが現実世界を征服することは警戒していた。だから早い内に手を打っていたわけだ」
「……じゃあ、最初から詰んでいたってことね」
龍と戦った彼女は感じていた。龍の弱さを。
だがそれが樹に全生命を注いだことによる結果だとは思いもよらなかった。
最終的に彼女は負けた。その事実が虚しく残った。
「私は死ぬのね」
「ああ」
「私の死は異世界の崩壊。まあ、次なる神が決まればいいけれど」
彼女は呟く。
既に答えを分かっているかのように。
「分かってる。あの日、魔女は私に言った。天使になれと」
勇者が握る始まりの樹から生まれた剣により、三世、愛六、琉球の死がなかったことになった。
三人は蘇った。
そこで一番に、愛六は言った。
「私が異世界の神になる」
次回、最後