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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.4『VS魔女』編
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物語No.95『ネタバレ屋』

 空を暗雲が埋め尽くしている。

 火や雷、水が雨のように降り注ぐ中、愛六は血に染まった三世を抱えて涙にくれていた。


「…………」


 愛六は止まった。

 多くの犠牲を払った後で、彼女は気付いた。

 自分が始めた戦いの無意味さに。


「ごめん三世……。私は、もっと早く気付くべきだったんだ。もう、返せないよ……」


 愛六の涙が三世の頬を伝っていく。


 琉球らは泣き喚く愛六の姿に呆然としていた。

 誰も、彼女と彼の感傷に割り込むことはできない。


 静寂が落ちる。


「そう。あなたはもう立てないのね」


 呟きが落ちる。

 それとともに、彼女は愛六の心臓を突き刺して現れた。

 全員が彼女の登場に驚愕する。


「どうして……お前が……」


 最も驚いたのは、彼女と長い間過ごした人物ーー暦だ。

 暦にとって、自分が幾度もループを繰り返していることを知っていた彼女の存在は大きかった。

 彼女の助言が自分の行動を何度も手助けした。


 彼女は自分をこう称する。

 あらゆる事象を知り尽くし、未来も過去も全てを知っている存在。


「私はネタバレ屋」


 いつものように、ローブで全身を包み隠した謎の存在。

 彼女は初めてフードを捲り、顔を晒した。暴かれた素顔に誰もが目を見張った。


「お前は……」


「ーー魔女!?」


 ネタバレ屋の素顔、それは魔女そのものだった。


「哀れよね。真実を知ることもなく彼と彼女は死んだのだから」


「何を言って……っ?」


 全員が状況を理解できなかった。

 なぜネタバレ屋が愛六を殺したのか。

 なぜネタバレ屋が魔女の顔をしているのか。

 なぜネタバレ屋は絶望している琉球らを見て喜んでいるのか。


「言ったでしょ。私は全てを知っている。だから私は異世界が終わることを知っていた」


 ネタバレ屋は告げる。

 全てを知り得る彼女の発言に全員の思考が硬直する。


「誰も理解できないのかしら。じゃあ教えてあげるわ。私はネタバレ屋であり、魔女であり、神妹境娘であり、そしてーー」


 彼女は口を半月にし、言った。


「ーー神。私は異世界の創造者」


 神という言葉に、二人の人物が反応した。

 一人は百の潜在能力によって一命を取り留めた三浦。

 三浦はかつて神と名乗る存在に操られ、現実世界から異世界に転移し、接続者となった人物を次々と殺していた。


 もう一人は稲荷。

 稲荷はーー。


 神の行動は、三浦にとっては悪と呼べるものだった。


 傷口が塞がったものの、痛みが残っている三浦。

 痛みが走りながらも身体を起こし、神と名乗ったネタバレ屋へ視線を向ける。


「お前が……私を操っていたのか」


「ん?」


 ネタバレ屋は一瞬首を傾げる。


「ああ、そういえばそうだったわね。あなたの肉体を借りて接続者を殺していたかしら」


「よくもぉぉおおお」


 憤怒に任せて大地を踏みつけ、握り締める短剣でネタバレ屋へ襲いかかる。

 だが身体が思い通りに動かず、ネタバレ屋に届く前に地面に転がった。


「あら? また誰かに身体を乗っ取られたのかしら」


「……お前、お前はまた」


 口が塞がる。声が出ない。


「稲荷が勝手に持っていった八咫鏡のせいであなたにつけた目印は一度消えた。でもね、ネタバレ屋としてあなたに接近するのは容易だったわ。おかげで何度もあなたの身体を操って状況を最悪にしてあげていたのよ」


 三浦には思い当たる節が幾つかあった。

 自分の思いとは別に身体が動く瞬間が、また自分の思考が洗脳されたように身体が動く瞬間が何度もあった。


「私はね、神。異世界で起こるあらゆる事象ーー魔法、災害、ダンジョン、他にも諸々、すべての事象を起こせる」


 彼女は遠くを指差す。

 その方角は錬金術師の里がある。


「何を……!?」


「落ちろ」


 その方角には、直径一キロメートルを越える巨大な火球が出現する。

 やがてそれは徐々に降下し、その方角一帯を真っ赤に染めた。


「……な、何をしている!?」


 物陰に隠れていた稲荷は顔を出し、彼女に吠える。

 彼女は稲荷を見るや、嘲笑った。


「別にいいじゃない。一人や二人、私は簡単に創造できる。そうだ、思い出したことがあった」 


 彼女の視線が三浦へ向く。


「三浦、あなたは過去を思い出せずに悩んでいたわね」


「ま、まさか……」


 先ほどの会話から、彼女が何を言おうとしているのか察してしまった。


「あなたは私が創造した存在。過去なんてあるわけないでしょ」


 三浦の精神は崩壊した。

 その様子を見て彼女は一層笑みを強める。


「絶望しなさい。それがあなたたちにとって最も最善の行いだから」


 それぞれが絶望した。

 彼女が現れてから一分も経たず、空気は最悪に変化する。


 誰も戦う気を持たない。

 戦意喪失。戦いを諦めた。


 それでも、


「あら? あなたは立つのね」


 白髪の少年、暦だけは戦おうとしていた。


「気分は最悪だな。深淵を飲み込んでいる気分だ」


「それで?」


 彼女の問いかけに、暦は槍を向ける。それが答えとでも言うように。


「その武器で戦うつもり? ただの槍じゃ私は殺せない。せめて、終わりの樹から生まれた槍があれば良かったのにね」


「関係ない。ボクは、あの日から誓ったんだ」


「そうだったわね」


「彼らを救うまで進み続けると。だから、たとえ相手がお前であろうと立ち向かう」


「死ぬと分かっていても?」


「それでも、一度誓った信念に従う」

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