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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.4『VS魔女』編
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物語No.94『愛六』

 皆が私を愛している。

 私がこの教室で一番輝いている。


 生まれた瞬間、世界が私に聞いてきた。

 どうなりたいか。


 私は世界一の主人公になりたい。


 世界でさえも、私の味方をした。

 私の容姿は世界一。誰よりも可愛存在だった。

 小学校でも中学校でも、私は一番輝いていた。

 皆が私を見てる。男子も女子も、皆が私の虜になった。


 高校に上がり、依然私の人気は顕在だった。


 でも、突如暗雲が立ち込めた。

 私の人気を越える存在が現れた。


「愛六、久しぶりに三世と三人であの場所に行ってみない?」


 琉球。

 彼は突如として学園での人気を高め始めていた。

 私はそれが気にくわなかった。


 最初は気にならなかった。

 私は自分の人気さえ守れればそれだけで良かったから。


 だがいつからか、私は琉球と三世に嫌悪感を抱いていた。

 あれは、いつからだろう。


 とにかく私は殺意的な衝動に背中を押され、いつしか私ともう一人の私を生み出していた。

 それが魔女だった。

 魔女は私の願いを何でも叶えてくれる。


 私以外に人気者はいらないのよ。


 だからお願い。

 あんたなんかいなくなればいいんだ。


 私は琉球と三世の存在を消そうとした。

 だからあの日ーー修学旅行の日、湖の上を走っていた船の上から琉球を突き落とした。

 私の右手が、琉球を湖に突き落とした。

 私は一目散に逃げ、物陰に隠れた。誰かが彼を救ってくれると、そう信じて。


 だが誰も彼を助けにはいかない。誰も彼が湖に落ちたのを見ていないのだろう。

 助けに行こうとした。だが魔女が現れ、私を止める。


「あなたは彼に死んでほしいと願ったのではないですか」


「……分からないよ、そんなこと」


 自分の本音は到底理解できない。

 それほど歪み、ねじ曲がっている。


「でも、もう少しだけ考えたい。あいつを殺すべきかどうかを」


「分かったわ。でも、一つだけ条件がある」


 そして私は湖に飛び込んだ。



 あの日、私は彼と三世を異世界へ転移させた。

 それが今に至り、結局殺すべきかどうか答えは出なかった。

 だけど、殺して初めて気付いた。私は間違っていたのだと。


 だって三世がいなくなることがこんなにも悲しいから。


 心臓を貫かれ、それでも三世は私に悪辣な言葉は吐かなかった。彼は私の目を真っ直ぐ見て言うんだ。


「僕は誰がどう見ても主人公だろ。愛六だって、誰かを護れるような主人公になりたかったんだろ」


 優しく、彼は言った。

 泣きわめく子どもを慰めるように。


「思春期は不安定だ。いつだって心は不安定に、僕らの邪魔をする。時が経ち、誰だっていつか大人になる。僕も、琉球も、愛六もだ」


 血を吐きながら、三世は続ける。


「それまで失敗を重ねて、後悔して、それでも前を向いて歩き出す。愛六、今の君は悪役だよ」


 その後、三世はすぐに強く否定した。


「でも、まだ戻れるんだよ」


「……戻る?」


「今日、多くの命が奪われた。それだけ魔女が与えた被害は大きかった。そこから目を逸らさず、受け止めて、償っていこう。そうやって前を歩くんだ。

 ひどい目に遭うだろう。魔女がしてきた分の痛みは必ず跳ね返ってくる。でも、君ならそれを乗り越えられる。君の強さを僕はよく知っているから」


 今思えば、彼はずっと私の側にいた。

 話もせず、ただ黙々としていた。だけど彼は私を見ていた。


「痛みを越えて、人々にしただけの罪を優しさとして振る舞う。それを続ければきっと、君は主人公にだって戻れるから」


 体温が消えていく。

 手が冷たく感じる。


「誰だってやり直せる。だから君も……きっと誰もが羨む主人公に……」


 彼から体温が完全に消えた。


 私の腕の中で眠る彼を見て、私に残ったのは途方もない虚無感だった。

 同時に、涙が流れた。

 止まらぬ涙が私の心を埋め尽くした。

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