優柔不断な私は今日もサイコロを振る
今年採用していただいたタイトルで。
来年も、小説家になろうラジオを聞こう!
「それでいいの?」
後ろからふいにかかった声に、肩がびくりと跳ねた。
振り向くと、シンが私の手元を覗き込んでいた。目があって彼はにこりと微笑む。
先程まで私の手には2冊の小説があった。どちらを借りようか悩んで、私はいつものそれに頼ることにしたのだ。
偶数ならこっち、奇数ならこっち。
心の中で呟いて手のひらを開けば、小さなサイコロがころりと転がる。
別に悪いことをしていたわけでもないのに、私はそのサイコロを、隠すように握った。
「こっちでいいの」
私は何かを決めることが苦手だ。どちらか迷ったとき、私はサイコロを振る。
そうすればふわふわとした気持ちが、どちらかにすとんと落ちる気がするから。
彼はそんな私を見てにやりと笑った。
「俺的にはこっちがおすすめ」
置いた本をとんとんとつつく彼を、むっとして睨み付ける。
シンは、私にとって天敵だ。
何を考えているのかわからない飄々とした態度は、掴みにくくて捉えにくい。
サイコロのことを貶したりしないその姿勢だけは好ましいと思うけれど。
相変わらず読めない表情をまじまじと見ていると、彼がにこりと笑った。
「俺のこと、好きになった?」
「そういうところが嫌い」
さらりととんでもないことをいう彼にも、だいぶ慣れた。
でも、違う意味で、私は緊張していた。
「本決まったなら、俺にも付き合ってよ」
放課後、図書を借りる私に、必ずシンはそう誘ってくる。
いつもは無下にしていたその誘い。
私はさっき、サイコロを振ったのだ。
奇数が出れば、いつもどおり。
偶数が出れば、頷いてみる。
私には、自分の気持ちが見えていない。あんなに大嫌いだと思っていたシンへの気持ちは、今はもやがかかったみたいにふわふわとしていた。
とはいえ、どうすればいいんだろう。
いままでサイコロ通りにすることに迷いは無かったのに、2を上に向けたサイコロを見ながら、私は初めて悩んでいた。
しかし、覚悟を決めなければならない。
短く息をついて、選んでいた本を、彼のおすすめと入れ替える。
「いいよ」
シンが、目を丸くしてこちらを見ている。その顔は初めて見るもので、いつもの余裕綽々な笑みとの対比で愉快な気持ちになったけれど、それ以上に恥ずかしい気持ちが勝ってしまった。
「これの、お礼だから」
目をそらしながら、先に歩き出す。
もやの奥から、少しだけ気持ちの端が見えた気がした。