表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞応募作品

優柔不断な私は今日もサイコロを振る

作者: 咲来さくた

今年採用していただいたタイトルで。

来年も、小説家になろうラジオを聞こう!



「それでいいの?」

 後ろからふいにかかった声に、肩がびくりと跳ねた。


 振り向くと、シンが私の手元を覗き込んでいた。目があって彼はにこりと微笑む。


 先程まで私の手には2冊の小説があった。どちらを借りようか悩んで、私はいつものそれに頼ることにしたのだ。

 偶数ならこっち、奇数ならこっち。

 心の中で呟いて手のひらを開けば、小さなサイコロがころりと転がる。


 別に悪いことをしていたわけでもないのに、私はそのサイコロを、隠すように握った。


「こっちでいいの」


 私は何かを決めることが苦手だ。どちらか迷ったとき、私はサイコロを振る。

 そうすればふわふわとした気持ちが、どちらかにすとんと落ちる気がするから。


 彼はそんな私を見てにやりと笑った。


「俺的にはこっちがおすすめ」


 置いた本をとんとんとつつく彼を、むっとして睨み付ける。


 シンは、私にとって天敵だ。

 何を考えているのかわからない飄々とした態度は、掴みにくくて捉えにくい。

 サイコロのことを貶したりしないその姿勢だけは好ましいと思うけれど。

 相変わらず読めない表情をまじまじと見ていると、彼がにこりと笑った。


「俺のこと、好きになった?」

「そういうところが嫌い」


 さらりととんでもないことをいう彼にも、だいぶ慣れた。

 でも、違う意味で、私は緊張していた。


「本決まったなら、俺にも付き合ってよ」


 放課後、図書を借りる私に、必ずシンはそう誘ってくる。

 いつもは無下にしていたその誘い。

 私はさっき、サイコロを振ったのだ。


 奇数が出れば、いつもどおり。

 偶数が出れば、頷いてみる。


 私には、自分の気持ちが見えていない。あんなに大嫌いだと思っていたシンへの気持ちは、今はもやがかかったみたいにふわふわとしていた。


 とはいえ、どうすればいいんだろう。

 いままでサイコロ通りにすることに迷いは無かったのに、2を上に向けたサイコロを見ながら、私は初めて悩んでいた。


 しかし、覚悟を決めなければならない。

 短く息をついて、選んでいた本を、彼のおすすめと入れ替える。


「いいよ」


 シンが、目を丸くしてこちらを見ている。その顔は初めて見るもので、いつもの余裕綽々な笑みとの対比で愉快な気持ちになったけれど、それ以上に恥ずかしい気持ちが勝ってしまった。


「これの、お礼だから」


 目をそらしながら、先に歩き出す。

 もやの奥から、少しだけ気持ちの端が見えた気がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] シンくんの表情を想像して楽しかったです!! "優柔不断な私"の一歩かわいかったです。 サイコロの目に悩んでいるシーンが好きです! キュンとする物語をありがとうございました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ