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夢切創の怪事件簿  作者: ゆきだるま
3/4

1-3

今回からまだ読みやすい文章になってきたかと思います。

*11/3、追記しました


創がリビングへと案内されているところを、隣の彼は不安そうに見つめる。


「…ねぇ、遥。大丈夫かな、おばさん…」


ぽつりと彼が呟く。


「うん…。電話ではいつも通りだったから気づかなかった。夜、眠れてないのかな…」


先程見た彼女の顔を思い出す。やせ細った手、青白い顔、目元には濃い隈ができていた。

そんな姿に思わず黙りこくってしまった自分達に気を使ってか、創が二人で探索をしたらどうだと提案したのだ。


「…まぁ、創さんに任せよう。私たちが何を言っても、たぶん余計な気を使わせちゃうだけだと思う」

「…わかった。じゃあ行こうか」


そういって木造の階段を二人は上がる。ギシリという音が妙に懐かしく感じた。


「そういえば、勇人の部屋に来るのは久しぶりだなぁ…」


先に歩く彼も同じように思ったのか、君に話しかけてくる。


「変わらないね、この場所は」

どこか哀愁漂う彼に向けて、同調するように笑いかけた。


「そうね、あの時と何も変わらない」


ただ一人、彼がいないのを除いて。君はこぶしを握り締める。

一体あのバカはどこに行ったのだろうか。

色んな人にここまで心配かけたのだ。

見つけたら一発殴ってやるとひそかな決意を抱いた。

そうこうしている間に、彼の部屋につく。和風な一階と違って洋風の造りとなっている二階は、木造の扉が鎮座している。

昔と違い、部屋に招き入れる人物がいないため、自分がその扉を開ける。


思った以上に埃っぽくはないその部屋は、大まかなレイアウトは変わりない。机の位置も、備え付けられた棚の位置も、ベッドの位置も。

しかし高校卒業から約六年経っているのだ。カーテンやベッドカバーなど細部は君の記憶と違っているだろう。


「うわ、パソコンがある」

「いやそれはパソコンくらいあると思うよ。仕事とかで使うんじゃないかな」


自分の独り言は彼の耳に届いてしまっていたようだ。機械が苦手だと言っていた彼の部屋に精密階の代表格があることに、どうしても違和感を感じてしまう。


「…時の流れを感じる」

「まぁ気持ちはわかるけど…。ところで勇人の行方を知る手掛かりを探すんだよね?何を調べるの?」

「へっ?それはもちろん…」


言いかけて気が付く。捜査とはどうすればいいのか、よく知らない。刑事ドラマなどの調査方法が適切ではないことぐらいはわかるが、こういったときはどうするのが適切なのだろうか?


「え~っとね…」


冷や汗を流しながら固まる君に対して、尋ねた彼は呆れたように溜息を吐く。


「はぁ…。とりあえず予定表でも探してみようか。もしそれが見つかれば、何かしらの手掛かりが得られるんじゃないか?」

「ならパソコンに予定とか書かれてるんじゃない?早速起動してみよう!」


そういって電源のボタンを押してパソコンを付けるが、現れたのはおなじみのパスワード画面だった。


「…まぁ、だろうね」

「いや、まだ適当に誕生日とか打ち込めば…。なんとか、なるはずないよね…」


表示されているのは変わらずパスワードの画面で、あきらめて電源を落とす。


「…机の引き出しとかに、パスワードの紙とかないかな?」

「いや流石にそんな都合がいいことはないと思うよ?」

「そうなんだけどさぁ…。ってあれ?この写真…」


机の上に置かれた写真立て、2つあるそれは一方は自分たちが写っている高校の時の卒業写真だった。懐かしさから思わずそれを手にとれば、水崎もそれに気がついたらしく話しかけてきた。


「うわ、懐かしい…それ、まだ飾ってくれてたんだ」

「私も飾ってるよ。…逆に蓮は飾ってないの?」

「えっ!?いや俺も飾ってるけどさ…!」

「ふふ、冗談冗談。あーやっぱり蓮を揶揄うのは楽しいなぁー!」


そうしてもう片方の写真に意識を向ける。自分たちの卒業式の写真の横に飾られていたそれは、なんてことはないただの社員旅行の写真だった。


「これ、社員旅行の写真?」

「わざわざ飾るようなものかな…?」

「んーでも勇人なら飾りそうじゃない?『せっかく撮ったんだから飾らなきゃ損だろ!』…とか言って」

「あー言いそう!」

そのことに違和感を覚えるものの、それはすぐに掻き消えてしまう。

そして小さな違和感を無視して探索とは名ばかりの荒らし行為を続けようと引き出し一段目を引き出せば、ばさりと無闇矢鱈に詰め込まれた紙束が床へと散らばった。


「うわ汚!もうちょっと整理整頓しなよ〜」

「確かにこれはちょっと…あ、でも下の段は整ってるよ」

「本当だー…勇人も本当に社畜になったんだね…」

「その言い方は酷いんじゃない!?」


どうやら詰め込まれたそれは仕事の書類…ではなく彼の趣味の野球についてのチラシだったり、近くのスーパーのセールの広告だったりと失踪とは関係ないものばかりだ。

それを適当にまとめて机の上に置いている間に蓮は2段目を確認したらしい。その引き出しにはきちんと書類が整理してあったので、また自分が時の流れを感じていれば鋭いツッコミが入れられる。


それにクスクスと笑いながら最後の引き出しをあければ、そこには見慣れない本が一冊だけ入っていた。


「…あれ?これ……」

「……[今だから!ラブレターの書き方全集]…?」


タイトルを読んだ瞬間、2人に戦慄が走る。

そう、その本の内容は自分が知っている勇人からが読むとは考えられないようものだったのだ。


「えっ!!?あの朴念仁に好きな人ができたの!???」

「嘘!?すっごい発見だよそれって!」

「ちょちょ、早く読もう読もう!!えっとぉ…?


[手紙というのはどれしも、自分の気持ちを相手に言葉と文字を通して伝える昔から伝わる告白の方法である。

もちろん自分の気持ちを伝えることも大切だが、手紙で一番大切なのは相手が返事を書きやすい文章にすることである。

返事がなければOKの有無もわからない!

話して終わりでは意味がない。片方だけが思いを伝えたところで相手の思いを聞かなければそれは会話ではない。

そこは手紙でも会話でも変わらず、相手の心に寄り添うということが大切である。]


思わず2人して本を覗きみれば、ご丁寧に重要箇所と思われる箇所にマーカーが引いてあるではないか!

高校の教科書ですら放置していた彼のあまりに可愛らしすぎる所業に、思わず腹を抱えて笑い出す自分たちを咎める者は誰もいなかった。


「ぷっ、あはははは!!!!な、なにこれ〜!アイツにもこんな可愛いところあったんだ〜!!」

「ふふ、ふふふ…!!わ、笑ったら可哀想だよ遥…!ゆ、勇人は本気なんだから…マーカーするくらいには…!!」

「あははは!!!言わないでよ蓮!!ふふ、はー笑った笑った…でも行方不明になった理由はわかんなかったね」

「確かに…むしろ好きな人がいたなら失踪なんてしなさそうだけど…」


一通り笑ったあと冷静になった自分たちに残されたのは疑問だった。

行方不明になった理由はわからないが、仮に自らの意思で失踪したのだとしたらこんな大きな心残りはないようなものだが…。


「あとはー…ゴミ箱とか?ひょっとしたらラブレターの失敗作が出てきたりして」

「えっ!?ゴミ箱漁るの?…いやまぁ確かにヒントは隠されてるかもしれないけど…」

「あとで手洗うからいいよ。…っていうか紙ごみしかないし、そんな汚いわけでも………」


そう制止する彼をよそ目に、丸められた紙ごみを一つ元に戻す。が、そこに書かれていたのは異様なものだった。

より正確に言い表すとするならば、広げた便箋には何事かを書いた形跡はあるのだが、同じく黒い線でぐちゃぐちゃに塗り潰されていたのだ。


[こんな言葉じゃダメだ、今の彼女には届かない。止めないと。彼女を止めないと]


塗りつぶした後に書かれたであろう文字は悲痛さを表すように震えていて、しかし力強く書かれていた。


それを見て、勇人がいなくなった理由の一端を掴めたような気がして口を開く。


「…ねぇ遥、ひょっとして勇人は…」

「うん。好きな人が何か良くないことをしようとして、それを止めに行ったのかもしれない」


放り捨てられた紙を握りしめてかの人を思う。

あの馬鹿、また1人で突っ走って…!

言いようのない怒りが自分の腹の底から沸々と湧いてくるのを感じながら、私はその手紙に書かれていた震える文字を見つめていた。


「もう一回チラシの山を見てみない?何かヒントがあるかも…」

「……そうだね、手分けしてみよう」


それを感じ取ったのか、机の上に置いた紙を持ってきた蓮に当たらないよう、一つため息をついて紙束の半分を受け取る。


紙束の殆どが夏祭りのチラシや新聞の野球記事などだったが、その中で唯一、他の用紙とは明らかに系統が違う紙を蓮が見つけた。


「…あれ?これだけ系統が違う。ネットから印刷した用紙みたいだね」

「え?どれどれ…【サイト:ゆりかご】…?」


[ゆりかごは、生きている中で辛い目に遭われた皆様の最後眠りを緩やかに、誰にも邪魔されないようにお助けするサイトです。

このサイトは会員制となっており、会員様の中より抽選で【次にゆりかごで眠る人】を決めさせていただいております。

抽選で選ばれた方には集会会場にお越しいただき、ゆりかごでは独自で仕入れた薬により永遠の眠りにつけます。

人生に疲れた方、辛い目に遭われた方がもう泣かなくていいよう、安眠できる場所を提供するのが私どもの幸せです。

もしも会員になりたい方がおられましたら、こちらのURLよりご連絡ください

https://〜]


手元にある紙の内容を見て互いに絶句する。

言い方をマイルドに変えているが、このサイトは間違いなく自殺サイトである。

何故こんなものが行方不明になった幼馴染の引き出しから出てきたのか。

嫌な想像が走り、思わず蓮は背筋が粟立つ感覚を覚えた。


「…っ、これって…」

「落ち着いて。これが引き出しから出てきたといっても、勇人が自殺を考えていたわけじゃないと思う。だってあのポジティブ馬鹿が自殺なんて考えると思う?好きな人もいて、人生幸せ真っ盛りにって時だよ?」

「……それも、そっか」


一方、遥はとても冷静だった。

自分の知る赤松勇人という男が、自殺なんて選ぶはずがないという信頼感と今まで調べた情報が精神を補強したのだろう。

しかしこの情報が勇人の失踪となんの関わりもないかといえばNOだろう。

その証拠に、蓮が抱え込んだ次の紙には裕翔の字で様々な事が補強されていた。


「こっちの紙は集会の日程みたい。過去のことから1ヶ月先のこと…つまり今月末の日程まで載ってる」

「…あっ!ここ、この日!おばさんが言ってた、勇人が帰って来なくなった日だ…!!」

「…じゃあ勇人は、この集会に行ったってこと?なんで勇人が…」


そこで先程の手紙の内容がふと頭をよぎる。

あの悲痛とも取れる文字は、それだけで只事ではないことを示していた。

印刷された自殺サイトの用紙、好きな人、止めなければという文字。

ここまで揃えばいくら鈍感な自分でも推理するのは難しくはない。


「…彼女を止めないとって、書いてあったよね」

「……まさか、好きな人の自殺を止めるため?」

「確証はないけど、多分。少なくとも自殺しに行ったよりは説得力がある理由だとは思わない?」


沈黙。

今まで調べたことから、勇人が行方不明になった理由にこの自殺サイトが関わっているのはほぼ確実だろう。

それはつまり、彼は事件に巻き込まれたということで。1ヶ月経っても母親に連絡すら寄越さないということは……。


「…他に調べられることもないだろうし、一回下に戻ろう。おばさんも心配だし…」

「……そうね、戻ろっか」


嫌な想像を遮るように蓮が口を開く。

それに続くように、これ以上考えないようにするために私は彼の意見に同意するのだった。



◇◇◇◇


「2人ともおかえり!何か収穫はあったかい?」

「創さん。ええ、それなりには」

「それならよかった。こっちは土産物の饅頭でこしあん派かつぶあん派かで灼熱の戦いに勤しんでいたんだ!いやぁ…赤松さんって腕っ節も強いんだね…」

「貴方は何してたんですか!??」


ケラケラと笑うはじめに思わずツッコミを入れる。本当に何を話していたのだろうか。

しかしいつも通りの創に少しとはいえ調子を取り戻したのも事実だ。

はぁと一度ため息を吐いたあと、おばさんに礼をしながら彼の隣へと立つ。


「さてと、それなら今から2人の分のお茶も出そうかね」

「いえ、長居もなんですから俺たちはここら辺で失礼します」

「あらそう?また何かあったらいらっしゃい。勿論夢切さんだけじゃなく、はるちゃんもれんくんもね」


言いながらコップを用意しようとする彼女を、創が制する。

確かにだいぶ長居してしまったが、お茶をもらわないのは逆に失礼ではないかとも考えた。

しかしここで何かを言っても逆に茶菓子を強請るようで恥ずかしいと自分に言い聞かせ、勇人の家を後にする。

…玄関口まで見送ってくれたおばさんの痩せ細った手を、できるだけ見ないようにして。


「なんであんな早く帰っちゃったんですか?」

「あの人の前で息子が行方不明になった理由を推理するのは酷だろう?」

「確かに…そこまで気が回りませんでした」


家から暫く離れたところで、徐に口を開けばなんともきちんとした理由が返ってきた。

確かにこれ以上おばさんに気を負わせるのは酷である。

そこまで気を遣えなかったことを反省しつつ、近くで話せるところはないかと探していると、ふと蓮が声をかけてきた。


「ごめん、僕はここら辺で失礼するよ。明日の準備をしないと…」

「明日?…そういえば仕事でこっち来てるって言ってたね。なんの仕事してるの?」

「え?えっと、今は記者をしてるんだ。それで明日は綾瀬さんっていう相談員のところに取材に行くんだよ」

「へー!取材されるほどすごい人なんだ」


てっきり蓮は頭がいいから医者になるものだと思っていた私は驚きの声をあげる。

記者、と言われて真っ先に思い浮かんだのは新聞社だがどの会社か聞くより前に、自身の興味は取材される人物へと向かった。


「まぁね。元は医者だったらしいんだけど…心理職の国家資格を取り直して個人経営の事務所を1人で開いているんだ。相談員としての腕前もかなり良くて、すごい人なんだよ!」

「蓮がそこまで褒めるなんて珍しいね。あとで私も気晴らしに調べてみようかな…」

「へー…医者が相談員に、ねぇ」


どうやら知らなかったが、その道では結構有名や人らしくまるで自分のことのように誇らしげに語る蓮にまたも驚く。

そう、彼がこんなに人を褒めるのは珍しいことだった。


「じゃあまたね、蓮」

「…うん、バイバイ」


そうこうしているうちに時間になったのか、私は彼に手を振って別れの挨拶を口にする。

それに少しだけ目を見開いた後、蓮も同じくさよならの言葉を口にするのだった。


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