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夢切創の怪事件簿  作者: ゆきだるま
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1-1

シナリオを元にしてるので暫くは変な言葉遣いが続きます。

◇ 「幸福とは何か?」


目の前にいる男に神様は尋ねた。ただ、知りたかったのだ。


「かけがえのない家族と、共に生きることかい?」

「誰もが知っている、有名人になることかい?」

「刺激がある毎日を送ることかい?」

「…自分の居場所を、見つけることかい?」

「君にとって、何事にも代えられない【幸福】とは何だい?」

「… ────」

「ふぅん?……やっぱり君たちは面白いね」


持っていたカップがカチャリという音を立ててソーサーへと置かれる。暖かい紅茶、穏やかな喫茶店。何時もならば暖かな空気を感じられるその場所はこの机の一角だけ、冷たい空気が漂っている。いたたまれず、逃げるようにシフォンケーキを一口、口へ運ぶ。お気に入りの甘すぎないケーキの味が感じられない。

そんな自分の様子を見てニコニコ笑う元凶に顔を顰めれば、さらに目の前のソイツは笑みを深めた。


「矛盾だらけだ。汚くて醜くて、美しくて愛しくて…」

「僕はね?君達が大好きなんだ。君達の文化が、思考が、存在が、人生という物語が、君たちが大好きなんだ」

「まだ、まだ、まだ。君達の物語が観たい。劇場がつぶれるにはまだ早い」

「さあ、僕に最高の舞台を観せてくれ。探索者(主人公)」



夢切創の怪事件簿


第1章【ゆり籠】



「ふっざけないでよ、この性悪女!!!」

「まっ、待ってください!暴力はだめです!」

「いやぁ、これはどうしようもないなぁ」

「創さんも笑ってないで止めてください!!!」

「な、なんで君がここに…!?」

「はぁ?何の話かしら。というかあなた誰よ。」

「ちっ、違うんだキリコ!!これはその…。」


ここはとある喫茶店の一つ。女性に人気の華やかな雰囲気のその店の一角で、一人の男を巡る激戦が行われていた。


「あああぁぁ何でこんなことに…!」


今にも殴りかかろうとする女性を後ろから拘束しながら彼女―如月 遥―は頭を抱える。


「そりゃあ浮気調査を依頼されて旦那さんの後を追ってた時、運悪く遠出してた奥さんと浮気真っ最中の旦那さんがであっちゃったからだな!」


けらけらと面白そうに笑う創と呼ばれた男は、騒動の最中に空いている席から椅子を奪い、掛け声とともに腰掛ける。何事だと騒ぎを駆けつけてきた店員に向かって暢気にもコーヒーを頼みながら。


「よいしょっと…。あっ、店員さん俺コーヒーで。遥ちゃんは何にする?ここ苺のパフェが人気みたいだけど。」

「この状況で食べれると思ってんですかあなたは!!ごめんなさい今落ちついてもらいますので!!!」

「愛してくれるって言ってくれたじゃないの!私だけを!!!愛してくれるって!!!!」

「あああ泣かないでください、とりあえず座ってください!ほらこれハンカチです使ってください!!」

「この人用にお水も持ってきてほしいかな~、あと温かなお手拭きも。」


人がいない時間帯だったことが君にとっては幸運だったのか不幸だったのか、追い出されることはなく落ち着いたカフェの雰囲気を壊しながらも一件の騒動は収まるところに収まった。―騒動が落ち着いた後に平謝りすることになったのだが、そこはご愛敬だろう―



◇◇◇◇


「はぁぁぁ…疲れた…。」


所変わってここは年季の入った4階建ての建物のある一室。客用の黒いソファに仰向けに倒れこむ女性は巨大な溜息を吐き、自身の疲労具合を確認する。


「あの人ヒステリックに所構わず泣くし、それだけならまだしも旦那さんが離婚の話を切り出したら相手の女性に掴みかかろうとするし…。なんで女性を捕まえるのってこんなに苦労するんだろう…。」


反発力があるそのソファは決して寝転がることに適切とは言えなかったが、肉体的疲労を癒すことが目的では無かった彼女が精神的疲労を癒すために、いっそこのまま寝てしまおうかと考えた時、部屋の奥からガラスのコップを二つ持った青年が近づいてくる。


「というか旦那さんも旦那さんだよ、何であのタイミングで離婚話なんて切り出すのかなぁ…。隣にいる人、びっくりしてたし浮気してるって知らなかったのかなぁ…。あぁもう疲れたぁ…。」

「遥ちゃん、もう疲れちゃったの?まだまだ若いんだからこれしきの事でへこたれてちゃダメだよぉ?」


そういいながら目の前客用のテーブルに麦茶を置く黒シャツの男性、創は意地が悪そうに笑いながら自身も冷えたそれに口を付ける。そんな彼を横たわる遥は、ギロリと睨みながら起き上がった。


「大体、創さんも何で彼女を落ち着けるの手伝ってくれなかったんですか!落ち着けるのは創さんの方が得意じゃないですか…。」


軽く悪態をつきつつ、置かれた麦茶に手を付ける。疲れた体に冷えた飲み物が染み渡る。全くこの男は、いつもこうなのだからいい加減にしてほしい。


「まあまあ何だかんだで丸く収まったんだからよかっただろ?」


クスクスと面白さそうに笑う創は、疲労感が見られず元気そうだ。全く、いつものこととはいえもう少しこの男は自分をいたわってくれてもいいのではないだろうかとため息を吐きながら次の仕事を確認するために近くにあったカレンダーを手にとる。そこで彼女は彼に話さなければならないことを思い出した。


「そうだ創さん、近いうちにちょっと長めのお休みをくれませんか?」

その質問に対して疑問に思ったのか彼も質問で返す。

「いいけど…、急にどうしたの?」


彼の疑問は最もであり、遥は上司でもありこの探偵事務所の経営者兼所長でもある創に事情を説明するために口を開いた。

「実は、幼馴染の一人が行方不明になったんです。」

「…ふぅん?詳しく聞いても?」

半分ほどに減った麦茶を置いて黒髪の下から覗く赤い瞳が彼女をとらえる。そこにいたのは先ほどまでのお気楽な優男ではなく、知的好奇心に駆られた一人の探偵だった。

さて、探偵物語といえば依頼者による導入が定番ではあるが…どうやら今回はじまる物語は、他とは少しだけ違うようだ。



◇◇◇◇


【如月 遥】の証言


行方不明になった幼馴染の名前は【赤松勇人】…私と同じ歳25歳です。

えっと、とは言っても行方不明になったのを知ったのは最近で…ええはい、幼なじみって言っても勇人は大学に行かず就職したし、私は地元を離れたしで近頃はあんまり関わり合いがなかったんですよ。


でもこの前、勇人のお母さんから電話が来まして…もう1ヶ月もアイツが家に帰ってないって。

しかも会社にもなんの連絡もないんですよ!?あり得なくないですか!??


えっ?そういうことをするような奴だったのかって?まさか!むしろ責任感が強くて、馬鹿だけど任されたことを投げ出したことはありません!!

あとは…そうですね、高校の時だったかな。もう1人の幼馴染が喧嘩に巻き込まれた時、真っ先に助けに行くような…そんな奴でした。

自分はもうすぐ甲子園があるのにですよ!?…義に厚いっていうんですか?そういう人なんです。勇人は。


◇◇◇◇


「つまり遥ちゃんの幼馴染である赤松勇人君が、一ヶ月くらい会社に連絡せずに無断で休み、その間家にも帰っていないと…。」

「一言でまとめればそうですね。責任感のあるやつなんで、連絡がないっていうのが少し不安で…。」

「なるほどねぇ…。しかし一ヶ月は長いな。」

「そうでしょう?何でこの際徹底的に探してやろうかと…。」


少しぬるくなったお茶に再び口付ける。個人経営の探偵事務所とはいえ社会人として長期休みを、それも急なことだから難しいだろうか。

そう考えていた彼女だったが、次の瞬間創の口から発せられた言葉によって持っていたコップを落としそうになる程驚くことになった。


「いいよ~。その代わりさ、俺もついてっていいかな?」

「…はい?」



◇◇◇◇



季節は春。桜が散り、青葉が茂る今日この頃、心地よい風が2人の頬を撫でる。


「…本当についてきちゃうんですね。この間に数少ない依頼人が来たらどうするんですか?」

「えー、いいじゃないか。最近働き詰めで疲れてるんだ。それに人探しなんだから人手があるに越したことはないだろ?」


呆れながら呟いた言葉を悪びれもなく返されて溜息が出そうになる。おそらくこれ以上何を言っても無駄だろうと思い、遥は彼の数を先を歩みながら件の幼馴染の家へと足を進めた。


「それで?今から彼の家に行くの?」

「はい、とはいっても手掛かりはないと思いますけどね。」


数歩後ろにいる黒髪の方に顔を向けながら遥は答える。

なんせ彼については警察に連絡しているのだ。それも三週間ほど前に。遥が勇人の親に連絡したのは一週間前だったが、それまでの間警察からの連絡もない。


「警察が捜査しても見つかってないんで、今更家に情報があるとは思えませんが…。」


それでも自分にできることをやらねばと、手を握り締めしめた。

すると間の抜けた声が飛んでくる。


「あれ?赤松君って特異行方不明者だったの?警察から音沙汰無いって言ってたからてっきりただの行方不明者かと思ってたんだけど…。」

「…ただのって、確かに創さんにとってはただのかもしれませんけど…!」


彼の言葉に思わず足を止めて振り向く。確かにこの人にとって勇人はただの他人だ。しかし自分にとってはかけがえのない友人の1人なのだ。

そう伝えようとして、自身の発言の意図が伝わってないと察した創は慌てて先の発言を説明した。



「いやいやそういう意味じゃないって!ってそうか、今まで行方不明者捜索の依頼受けたことなかったもんなぁ…。あのね遥ちゃん、行方不明者には二通り存在するんだ。」

「…二通り?」

慌てる彼の様子から、先程の言葉に悪意はなく自分の思い違いだろうと判断して怒りの矛先を収め、同時に首を傾げる。

その様子にほっと一息ついて、彼は言葉を続けた。


「そうそう。簡単に一言でいうと、今生きてるかどうかわからない、命が危ない状態にあるかもしれない行方不明者が特異行方不明者。それ以外の、行方が分からないけど命の危険性も少ない人が普通の行方不明者。」


そう説明しながら彼は止まった足を再び進める。それに釣られるように自分も歩き出した。


「はっきり言ってしまえば、普通の行方不明者に分類された人たちを警察は中々探してくれない…、というか他にやることが多すぎて手が回らないんだ。それでも警察に連絡するのは運よく発見された場合、捜索者に連絡が回るようにするためなんだけど…。」


ここまでわかる?と言いながら彼は私に問いかける。


「まぁ、理屈はわかりました…。見つけることは、難しいんでしょうか?」

「…正直、難しいな。なんせ一ヶ月も経ってるなら、生きていたらどこにでも行けるからね。今どきスマホさえあれば財布がなくても生きていける時代だからね。いやぁ~、便利な時代になったもんだ!」


彼の言葉に思わず俯く。覚悟、するべきなのだろうか。彼の死を。もう2度と会うことは叶わないのだろうか。

そう自分がらしくもなく落ち込んでいると、無造作に伸ばされた創の手が頬へと伸ばされた。


「ほーら、そんな暗い顔しない!赤松君って成人男性で、腕っぷしもそこそこだったんだろう?なら生きてる可能性の方が高いし、逆に言えば今から行く家にまだ手掛かりが残ってるかもしれないっていうことでもある。だからあきらめないこと」

「ふひゃいふひゃいれす!!」


頬をビョーンと引っ張られているがゆえに、意味不明な音の羅列が口から飛び出す。

しかし自分の言葉が届いたのか何なのか、彼は頬から手を放した。ひりひりと痛むその場所に君が手を当てながら彼を睨むと、当の本人は人の好く笑みで笑いかけた。



「ははっ!暗い顔よりそっちの方がいいね。…捜索者が諦めたら、本当に彼を見つけることは難しくなる。まあ安心しなよ、こういうことは古くから探偵の仕事の一つだ。手掛かりを見つけて、彼に会いに行こう」


その言葉に多少なりとも救われたような気分になる。少々強引でも、やはり目の前の彼は自分より経験豊富な年上なのだと心の中でこっそりと尊敬した。無論、口に出すつもりはないが。


そうして彼の家に案内するために再び歩き出そうとして…。ふと横から歩いてきた人物に肩がぶつかる。


「あ、すみません…。あれ、遥?」

「こちらこそごめんな…って、え?」


ぶつかった人物に謝ろうと目線をそちらに向ければ、久方ぶりに出会う人物に思わず声を上げて驚いた。

艶やかな黒髪に青いセーターを着こんでいるその男性―水崎 蓮―は自分と同じように驚き、同時に再会を喜んだ。


「蓮!こんなところで会うなんてびっくりしちゃった!久しぶりだね。」

「遥こそ、こんなところで会えるなんて思っていなかったよ。地元に戻ってきたの?」


柔らかい笑みを浮かべて彼が問いかける。そのことでここに来た理由を思い出し、思わず固まってしまった。


「あ、えっと…その…」

「えっと…ごめん。聞いちゃいけなかった?ひょっとして仕事の最中だったかな…?」

「あながち間違いでもないかな。おっと失礼、名前を聞いても?俺は創っていうんだ。君は赤松君のことについて何も聞いてないのか?」

「へっ、俺の名前は水崎蓮です。よろしくお願いします…?勇人についてですか?特には…」


困惑する彼にどう説明しようか考えていると、今まで蚊帳の外だった創が文字通りひょいっと割り込んできた。どうやら蓮は勇人のことについて何も知らないらしい。


「…あのね、蓮。実は勇人が一か月前から行方不明なんだ」

「えっ、勇人が…!行方不明って、警察に連絡したの?」

「うん、おばさんがしたみたい。でもまだ連絡こなくて…」

「そんな…」


話を聞いた彼は顔を真っ青にして俯いてしまう。その様子を見て、どうにもこのまま別れるのは忍びないと考えある提案をした。


「あのさ、蓮。今からって時間あるかな?」

「今から?いやまぁ時間ならあるけど…」

「ならよかった!私たちと一緒に勇人の家に行ってみない?ひょっとしたら勇人が最後にどこに行ったかとか、そういった手掛かりがあるかもしれないでしょ」


人出は多い方がいいしと呟いて、彼の返事を待つ。数秒悩んだのち、蓮はいいよと肯定の意思を見せた。


「俺も仕事でこっちに用があってさ。って言っても明日なんだけど。今日は元々勇人に会いに行くつもりだったんだよ」

「なら決まりだね。行こうか!」


そういって進む彼女の足取りは先ほどよりも軽い。偶然とはいえ、幼馴染と会えたことが大きいのだろう。創に聞かせるように昔話をしながらかの人物の家へと向かった。



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