BIG WAVE(夏詩の旅人 序章)
窓から差し込む強い日差しに僕はゆっくりと目を開けた。
天井には大きなフライファンが回っている。
床にはDry Ginのボトルが転がっていた。
BGMが低く静かな音で流れている。
部屋のラジオはKSSKにチューニングしてあった。
そうだ…。
ここはHawaiiだった。
僕は思い出したようにつぶやく。
そして、まだ少しアルコールの抜けていない頭を左右に振った。
ここはHawaiiのSouth Shore
カラカウア・アベニュー沿いにあるコンドミニアムに滞在して、3日目の朝だった。
僕は長年勤めていたサーフ系雑誌“F”を、来月には退職する事になっていた。
それで溜まっていた有給休暇を利用して、以前仕事で一緒になった友人らと会う為に、このハワイに来ていた。
どうやら夕べは、久々に再会したローカルハワイアンの友人たちと飲み過ぎたみたいだ。
アルコールを抜く為、温めのシャワーを浴びようと思い、僕は立ち上がる。
ラナイから真っ青なビーチが見えた。
今日はかなりいい波がきているようだ。
ここはカラカウア・アベニューを1本挟んで、すぐ下にビーチが見えるコンドミニアムだ。
ローカルの間で「クィーンズ」や、「パブリックス」と呼ばれているサーフポイントがすぐ近くの場所である。
僕がラナイから身を乗り出すと、下には昨晩一緒に飲んだロブとジェニーがボードを抱えて僕に向かって笑って手を振っていた。
彼らはさっそく、このハイコンディションなタイドを狙っているようだった。
「I’m on my way!(すぐいくよ!)」
僕がそういうと彼らはうなずいた。
僕はシャワールームへ駆け足で向かった…。