彼女はばね職人
羽田清美はばねを集めるのが趣味だった。なんでなのかはわからなかったがとにかく彼女はありとあらゆるばねを集めていた。俺は彼女の幼なじみだったのだが彼女はいつからかばねを集めだし始めて、高校生になった今でもばねを集めていた。俺にもいいばねがあったらちょうだいねと言ってきた。いいばねってなんだよって思っていたのだが俺は面倒だったので、『ああ。いいばねがあったら取って置いてやるよ』とクールに返してやった。
ある日彼女が俺のところに来てこう言ってきた。
「ねえ。聡君、ちょっと話があるんだけど付いてきてくれない?」
彼女としては大分周りくどいやり方だったので不思議に思った。
「なんだよ。改まってここで言えばいいじゃないか」
「ここでは話しにくいことなのよ。いいからちょっとついてきてよ」
彼女は顔を少々顔を赤らめていた。そして、俺の返答も聞かずに付いていくことにした。後が怖いのからね。
教室から出ると待ち構えていた。
「来て」
彼女は短くそう言うと早足に歩いて行った。どこまで行くのだろうと思ったが黙って付いていくことした。余計なことを言ってフックを食らいたくはなかったからだ。彼女はどんどん歩いて行って、学校から出て校舎の裏まで来た。だんだん俺は不安になってきた。もしかして校舎裏でぼこられるのではないかと思ったからだ。俺は歩きながら彼女に何かしたかなと思って考えていた。
「うーむ」
色々思いあたり過ぎて困ってしまった。まさかあれがばれたのではないか、いや。あれかも知れないと考えていた。そして、報復を恐れて身震いしていた。幸い彼女はずっと前を向いて歩いていた。逃げるなら今かもしれないと思っていたら彼女は立ち止まった。
「ここまで来たらいいかもね」
俺には最後の審判のような言葉に聞こえた。
「お。おい。俺をどうする気だ」
「な、何を脅えているのよ。大丈夫たぶん悪いようにはしないから」
彼女の瞳が怪しく光った。こいつ何をする気だ。
「このさいだからはっきり言うわ。女らしくね」
はっきり言うのが女らしいのかと突っ込みたかったかがスルーしておいた。
後が怖いからね。
「あ。あのね。え。えとね」
なんだか彼女は非常に言い淀んでいた。彼女らしくないなと思っていた。いったい何を言うのだろうか、何だか顔が真っ赤だし、まさかこいつ、俺に告白する気じゃないだろうな。いくら俺がいい男だからって参ったな。うーむ。
「あのー」
「あのぉー」
「おい。聞けや」
俺は顔にフックを食らっていた。
「何だよ。早く言えよ」
「わかった。言うからね。よぉーく。聞いてなさいよ」
「おし。こいや」
何でも来い。そんなつもりで俺はどんなボールにも対応できるように内野手のように構えた。
「私と一緒にばねを作ってほしいの」
世界の息吹を感じた。
「……」
「ばね?」
「そう。ばねよ。私とばねを作って欲しいの」
「…………」
「あー。そういえば帰ってアニメ見ないと行けなかったわ」
さりげなくその場から去ろうと思ったが回りこまれて逃げられなかった。しばらく睨み合っていたが彼女はため息を吐いた。
「わかった。じゃあこれをあげるわ」
「これは元首相が愛用していた椅子のばねよ。惜しいけどあなたにあげる」
「いらねーし。絶対それ嘘に決まってるし」
「なんでネットオークションで苦労して落札したのにぃ」
「ますます怪しいじゃねえか。よく落とす気になったな」
「星が三桁だったから信用したのよ」
「どーせ2IDだろ。まあそれはいいとして」
俺は彼女の目を見た。昔からの付き合いだからわかるのだがこれは引く気がない目であった。
「それで、なんでばね作るってことになるのさ」
彼女の言うところによるとどうやらもう大体いいばねは集めてしまって後はもう自分で作るしかないということだった。
「まあ色々突っ込みたいがそれは置いとくとして何でそれに俺が手伝うのさ。勝手にばねでも何でも作ればいいじゃないか」
「だって。私ばねなんて作れないもの」
彼女は頬を膨らまして憤慨していた。全然可愛くねえぞ。
「俺だって作れないさ」
「あなた前に自分で釘を作ってじゃない。その応用でばね作れるかと思ってさあ」
「馬鹿か。お前あれとこれとじゃ全く別もんだよ。とにかく俺は作れないからな。他を当たってくれ」
去ろうとしたが再度回り込まれた。
「逃がさないからね。絶対ばねを一緒に作ってもらうんだからね」
彼女の目は少し潤んでいた。少し俺は悪い気がしていたがそのまま去ろうとした。
「わかった。これをあげるわ」
彼女はポケットから何かを取り出した。
「そ。それは。犬釘じゃないか。何でお前それを」
それは鉄道のレールを固定する釘だった。俺が喉から手がでるほどほしい品であった。何でこいつが。
「これは私が親戚のおじさんから譲ってもらったのよ。私は興味なかったけど聡君は興味あるだろうからもらっておいたのよ。どう欲しい?」
「うぐ。卑怯な」
「なんとでもいいなさい。悪い条件ではないはずよ」
「わ。わかった。条件を飲もう。お前のために最高のばねを作ってやるよ。だから頼むその釘を俺に今すぐくれ」
「だめよ。これはあなたが最高のばねが作ってからだからね。それまではお預けよ」
「くっ」
俺は歯を食いしばり我慢した。これも犬釘のためだ。仕方がない。彼女を見ると釘を高らかに持ち上げて高笑いをしていた。悪魔のようだった。
そして俺はばねを作ることを承諾した。それはある晴れた春の日だった。彼らがいいばねが作れたのかは誰も知らない。




