第49章ー12
この佐々成政と前田利家が最初の案を考え、更に女帝エウドキヤの裁可を受けた新方針は、現場に好感を持って受け入れられた。
実際に現場の肌感覚としても、ローマ帝国の名の下にイタリア半島全土を速やかに再征服するというのは、困難極まりないのではというと感じるようになる一方だった。
「討伐作戦と宣撫工作を併用してシチリア島制圧作戦を遂行しているが、中々上手く行かないな」
加藤清正は、そうぼやかざるを得なかった。
1590年4月下旬、メッシナをローマ帝国陸軍は抑えており、海空軍の協力もあって、シチリア島を徐々に孤立化させつつあった。
こうした状況から、シチリア島内の武装抵抗は徐々に弱まっているが、まだまだ楽観できる状況からは程遠いといってよかった。
「そうは言っても、少しずつ状況は好転しているように感じるが」
戦況報告の為に来た福島正則が、加藤清正のボヤキを聞いて口を挟んだ。
尚、福島正則にしても、年下の加藤清正が臨時の旅団長代理として、現在は自分の上官となっていることに完全に納得しているとは言い難いのだが、加藤清正が果断にも裏まで駆使して、仙石秀久を告発したのに対して、自分は仙石秀久を告発しようともしなかったことから、こうなったのも仕方がないと自分を得心させているのが現実だった。
「確かに自分達にしてみれば状況は好転しつつあるが、こんな現状でイタリア半島全土を速やかに制圧できると考えられるか」
「確かにな」
加藤清正と福島正則は、更に突っ込んだ会話をせざるを得なかった。
「シチリア島の広大さとその地形から、後方部隊や空軍まで併せれば約3万の軍勢が注ぎ込まれているのに、完全にシチリア島を制圧して、現地人によって編成された民間の治安維持部隊に後を任せることができるとは、当面の間、少なくとも半年以内には、とても考えられないのが現実だ」
「確かにそうだな」
加藤清正の更なる言葉に、福島正則も同意せざるを得ない。
「そして、こういった状況の下で、イタリア半島侵攻作戦を発動したとして、シチリア島の現状を見たイタリア半島の住民の一部が、自分達に銃口を向けないと楽観視できるか」
「いや、とてもできないな。むしろ、自分達に銃口を向けると考えるべきだろう」
二人は更なるやり取りをしたが、その直後、加藤清正は周囲をそれとなく見回して、福島正則を傍に招き寄せ、小声でやり取りを始めた。
「あくまでも自分の憶測に過ぎないが、どうもスペイン政府最上層部と我が帝国最上層部の間で裏取引ができていた気がしてならん」
「何だと」
加藤清正の言葉を聞き、裏取引自体が嫌いな福島正則は思わず声を荒げ、加藤清正に手で口を抑えられる羽目になった。
「いいか、シチリア島やまだ実際に侵攻はしていないが南イタリアのスペイン軍が少なすぎる、というような気がお前はしないのか」
「言われてみれば、これだけの武装蜂起が現地で起こりかねない。更に我々の侵攻作戦が行われるかも、と考えていたにしてはスペイン兵が少なすぎるな」
加藤清正は小声で話を更にし、福島正則はその言葉に同意の言葉を吐いた。
「恐らくだが、我が帝国の侵攻を察知したスペイン政府は、我が帝国政府に裏取引を持ち掛けたのではないか、という気がしてならん。どんな裏取引かは正確に分からんが、例えば、軽戦して負けました、講和に応じます等の裏取引だな」
「ふむ」
加藤清正の言葉とその裏は、福島正則にも何となく分かってきた。
「だが、それが結果的には現地住民には好機として武装蜂起を引き起こすことになった訳だ」
「確かに言われてみればあり得る話のように思えて来た」
「真実なら厄介だと思わんか」
「確かに」
二人はそうやり取りした。
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