第47章ー8
さて、日本の使節団がオスマン帝国へ、ローマ帝国へと急行する一方で、日本のイスラム教スンニ派諸国に駐在している外交官は、それぞれの赴任地でオスマン帝国とローマ帝国の戦争の最新情報を、赴任先の各国政府の上層部に流すようになっていた。
尚、これは織田(三条)美子のこの戦争に関する示唆を、小早川道平外相が、更に島津内閣が受け入れたことによるものだった。
「うーむ。ローマ帝国が復興してキリスト教徒の守護者として、更にユダヤ教徒の味方として、聖地エルサレムを占領したか。エルサレムは、我がイスラム教徒にとっても聖地、決して座視できる話ではないな」
ムガル帝国のアクバル大帝は、そのように日本政府からの情報を知った際に述べた。
「もし、オスマン帝国からエルサレム奪還の協力を求められた場合、ムガル帝国は協力されますか」
「言うまでもない」
尚、アクバル大帝の本音は、オスマン帝国に本格的に協力するつもりはない。
そんなことをしても、自分、自国の利益にはならないからだ。
しかし、それこそ信徒間の世論というものがある。
イスラム教スンニ派の信徒としては、オスマン帝国に積極的に協力して聖地エルサレム奪還に努めると口先では言わざるを得ない。
更に日本政府の外交官は、アクバル大帝の気をそそることを言った。
「そのお言葉を聞き、安堵いたしました。オスマン帝国に対して新型銃を始めとする様々な軍事支援を、最悪の場合には行わねばならない、と日本本国としては検討しておりますが、兵を集めるのに苦慮しています。ムガル帝国が兵を出してもらえるならば、真に有難い」
「おお、それならば、尚更、兵を出す等の協力に、我が国は前向きにならざるを得ませんな。よろしいでしょう、我が国は10万の兵をオスマン帝国に提供することを考えますぞ」
アクバル大帝は、日本の外交官に更に迎合することを言った。
(尚、本音では10万どころか1万も出す気が、アクバル大帝には無かったが)
この頃の日本は、東南アジアやインド亜大陸方面での武器の販売については、精々が前装式ライフル銃を売る程度だったのだ。
これは下手に新型の銃火器等を販売することによって、この地方での戦乱が酷くなり、日本が巻き添えになることを、日本政府が懸念したからに他ならない。
だが、東南アジアやインド亜大陸の諸国においては、それなりに戦乱が絶えないこともあり、最新型の機関銃やボルトアクション式小銃等をできれば入手したがっている国が多かった。
アクバル大帝が統治するムガル帝国もその一つであり、日本本国が新型銃等をオスマン帝国に提供する等の軍事支援を行い、その際に自国が積極的に加担すれば、自国の武装を一気に強化できるとアクバル大帝は考えた次第だった。
そして、このような動きは、同じようにイスラム教スンニ派が上層部を占めるマラッカ王国やアチェ王国等でも起こった。
どの国も本音では自国の武装強化を図る一方で、建前では聖地エルサレム奪還をオスマン帝国が図るならば、そのための協力を惜しまない旨を言い出したのだ。
そして、そのようなイスラム教スンニ派の諸国の動きは、当然のことながら、各国の日本大使館から外務省を経て、オスマン帝国等に向かう二条昭実を正使とする日本の使節団に伝えられた。
「ムガル帝国を始め、諸国が提供する兵力を集めれば、約30万の軍勢が集いそうな」
この情報を聞いた二条昭実が目を剥いたが、同じ情報を聞いた織田(三条)美子は冷めた呟きをした。
「所詮は外交儀礼よ。その1割の約3万が集まればいいところね」
「余りにも冷め過ぎでは」
「でも、20代の女の子を脅すのには使えるわね」
美子は、そう昭実とやり取りをした。
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