第46章ー20
実際、このレヴァント地方におけるオスマン帝国領内の遊撃戦への対処については、地上部隊の面々も苦悩するしかない状況に、徐々に陥らざるを得なかった。
何しろ住民に紛れての遊撃戦となると、余り強圧的な対策を取っては、却って住民を敵軍に追いやる事態が生じてしまう。
しかも、敵軍が住民の支持を宗教的背景等から多く得ているとなると、尚更に対策は困難である。
勿論、敵軍に物資を輸送しているのではないか等の嫌疑を掛けて、それなりの索敵、捜査活動を行い、実際に武器弾薬等が見つかれば没収して、運んでいた者は利敵通謀者として処罰する等のことをしてはいるのだが、徐々にそういった者が、地元住民から英雄視されつつあるという現実まで生じつつあった。
「いかんな。やればやる程、泥船を漕いで沈む事態になりかねない」
6月末のある日、藤堂高虎はそのように脇坂安治に愚痴っていた。
「それなら、どうすれば良いというのだ」
脇坂安治にしても一廉の武人だ。
戦況が悪化しつつあるのは分かっている。
問題は、この戦況を打開する方策だ。
それが無ければどうにもならない状況に陥りかねない。
「自分がそれとなく情報収集を行った限り、ユダヤ人部隊を含むレヴァント地方で戦っているローマ帝国軍部隊ほぼ全てが、自分達と同様の苦戦に陥っているらしい」
「それは、自分も何となく推測していたことだが、やはり、そのような状況なのか」
藤堂高虎と脇坂安治は、そんなやり取りをした。
「そうした状況を打破するとなると、やはり少しでも多くのイスラム教徒が宗教的な意味で我々への抵抗を止める方策を講じざるを得ないだろうが。問題は、そのような方策は無いだろうということだ」
「確かに。この辺りで最大のイスラム教スンニ派を支配層とするオスマン帝国を、我々ローマ帝国は攻撃したのだからな。こうなると宗教的熱情からジハード(聖戦)を唱えられても仕方ない」
藤堂高虎の問いかけに、脇坂安治はそう言わざるを得なかった。
「そして、イスラム教徒にしてみれば、ジハード(聖戦)は絶対的な正義だからな」
藤堂高虎は溜息を吐くように言った。
脇坂安治も、藤堂高虎の気持ちが何となくわかった。
本当に絶対的な正義を信じて戦ってくる相手に、どのような方策があるだろうか。
「個々の戦闘では、優勢裡に戦えているのが救いだ。特にユダヤ人部隊、中でも真田兄弟と土屋兄弟の率いる部隊は、かつてオレゴンを中心に日本本国軍相手に遊撃戦を戦った経験も相まって、オスマン帝国の将兵相手の遊撃戦ではかなりの勝利を収めているらしい」
「それはいい話だな」
藤堂高虎の言葉に、脇坂安治は相槌を打った。
「とはいえ、こんな戦闘を永遠に続ける訳にもいかないだろう。どこかで手打ちをしなければいけないが、その手打ちの手段が見えなくなっている気がしないか」
「確かにそうだな」
自分自身の気持ちが落ち込みつつあるのもあり、藤堂高虎の言葉に脇坂安治はそう返した。
「日本本国政府等が介入して、手打ちができればいいのだろうが。どうなるだろうな」
「本当にそうだな」
藤堂高虎の言葉に、更に言葉を返しつつ、脇坂安治は考えた。
かつては日本本国がこの戦争に介入しないことを願っていたが、今や逆に日本本国がこの戦争に介入した方が良いのではないか、という考えさえも自分の中では浮かんでくる。
こんな泥沼の遊撃戦は、どこかで終わらせねばなるまいが、ジハード(聖戦)が叫ばれるようになっては、泥沼が底なし沼に変貌してしまったとしか言いようがない。
そして、底なし沼から救い出してもらえるのならば、日本本国の介入さえも歓迎すべきことのように自分には考えらえるな。
脇坂安治はそうまで考えた。
これで第46章を終え、次話から日本本国の介入等を描く新章になります。
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