第46章ー9
小説中に出てくる聖墳墓教会の管理についてですが、この頃の史実における管理状況を記した資料が見つからず、現状等から類推して描いています。
従って、間違っている公算大ですが、この世界ではこうなっているのだ、と緩く見た上で、史実ではこうなっています、と生暖かくご指摘くださるように平にお願いします。
そんなことをダビデの塔を制圧した真田信綱は考えている頃、土屋昌続はダマスカス門から突入し、聖墳墓教会を保護することに成功していた。
「取り敢えずは、聖墳墓教会の皆様を保護することができてよかったです」
「それにしても、ローマ帝国軍とは、どういったことでしょうか」
土屋昌続の言葉に、やや噛み合わない問いを聖墳墓教会で東方正教会のエルサレム総主教の秘書を務めている僧侶が発した。
聖墳墓教会は、その特殊性から東方正教会のみが管理している教会ではなく、非カルケドン派のアルメニア正教会等も管理に参画している。
そのために交渉も本来なら、それぞれの教会と行う必要があるのだが、ローマ帝国としては、東方正教会を国教とする関係上、取り敢えずは東方正教会のみを正式な交渉相手とみなしている。
土屋昌続は、そういった事情から、東方正教会のエルサレム総主教を交渉相手として指名して、エルサレム総主教の秘書を務めている僧侶が、取り敢えずは対応する事態が生じている。
「(東)ローマ帝国最後の皇帝コンスタンティヌス11世の姪のゾエの曾孫に当たるモスクワ大公国の皇女エウドキヤが、先日、コンスタンティノープルでローマ皇帝として戴冠式を執り行いました。我々は、そのエウドキヤに忠誠を誓うローマ帝国の部隊になります」
「何と、そのようなことが。現実とは思えませぬ。オスマン帝国の首都コンスタンティノープルが陥落した。スルタンのムラト3世が戦死されたとか。現実に思えぬ話が噂として流れており、その中の一つにコンスタンティノープルで、女性がローマ皇帝に即位したというのまでありましたが」
「申し訳ありませんが、全くの現実です。皇帝エウドキヤからは、聖地エルサレムの住民等の保護を勅令として、我々に命じられています。貴方方にも協力していただきたい」
「分かりました」
本音としては、いきなり現れたローマ帝国軍を自称する軍隊に協力したくはないが、現実に彼らが示している武力や、これまでに聞いてきた噂を考えあわせた末に、エルサレム総主教の秘書は、土屋昌続の言葉に応じざるを得ないと判断し、エルサレム総主教に自らの判断も併せて伝えた。
その言葉の前に、エルサレム総主教は土屋昌続に対して積極的に協力することにした。
「協力するといっても、どのようなことを我々はすればよいのでしょうか」
「神殿の丘に立てこもっているオスマン帝国の兵との交渉役になっていただけませんか」
「それはできなくはないですが。オスマン帝国の兵が、我々の言葉に耳を傾けるかどうか」
「確かに難しいと考えますが。私達が交渉するよりは望みがあると考えます。交渉の条件ですが、我々に投降して武装解除に応じるならば、エルサレムから退去する際に生命を保障し、身体に危害を加えない、というものです。エルサレムの城壁を打ち破られたオスマン帝国の兵にとって、悪い条件ではない、と考えますが如何でしょうか」
「確かに悪い条件ではないですね」
土屋昌続の言葉に、エルサレム総主教は同意した。
何しろ二人が会話して条件を詰める間に、ダビデの塔がローマ帝国軍に制圧されたという情報が、二人の下には届いている。
このままいけば、エルサレム市街全域が、ローマ帝国軍によって制圧されるのは時間の問題だろう。
だが、その一方で、このような戦闘を行っていては、エルサレムの住民に大量の死傷者が巻き添えで出てきてもおかしくはない。
エルサレムの住民保護の観点からしても、オスマン帝国の兵に対して、投降勧告を行うべきだろう。
そこまで考えた末、エルサレム総主教は、神殿の丘に立てこもるオスマン帝国軍の兵との交渉に赴いて話をまとめることに成功した。
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