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第45章ー3

「ところで、パレスチナからレヴァント地方方面への進軍は、どのようなものになるでしょうか。私としては今一つ、将帥面に不安を覚えていて、もう少し人の手配をしてほしいところなのですが」

 磯野員昌は、柴田勝家に不安を訴えた。


 実際問題として、エジプト軍の歩兵の精鋭は、将帥面も含めてコンスタンティノープル方面に向けられていると言ってよい。

 勿論、磯野員昌の下には、それこそ磯野員昌と肝胆相照らす仲と言ってよい宮部継潤がいるし、若手の将帥として藤堂高虎や脇坂安治らが順調に育っていて、その指揮下にいる。

 だが、問題はパレスチナからレヴァント地方への進軍の一角を成すのはユダヤ人部隊であって、ユダヤ人という外人部隊を指揮するのに、エジプト軍の将帥の面々は慣れているとは言い難かった。


 しかし、それに対しては、柴田勝家なりの対案を持っていた。

 更に言えば、その対案を持ち掛けられた相手も、基本的に賛同していた。

「確かにパレスチナからレヴァント地方方面への進軍に投じられる兵は、今のところは約6万人。勿論、我々の計画が上手くいけば、首都コンスタンティノープルが陥落したこと等から、オスマン帝国軍の指揮系統は良くて大混乱、悪ければ崩壊する筈ですが、全てうまくいくとは限りません」

 柴田勝家は、そこで言葉を切った。


「それに備えた対策として、北米共和国に将帥の派遣を求めたところ、何人かの将帥を派遣してくれることになりました」

「北米共和国の将帥を」

「ええ。彼らは北米独立戦争で、外国人部隊を率いた経験がある。彼らなら、ユダヤ人部隊を上手く指揮してくれるでしょう」

「確かに彼らならば」


 ユダヤ人部隊の泣き所は、彼らの戦意は高いものの、実戦経験が全く欠けていることだった。

 幾ら新兵器を提供しても、実戦経験が無いのは大きな不安要素だ。

 だから、実戦経験豊富な将帥に、彼らを指揮させる必要があるのだが。

 問題は、エジプト軍に外国人部隊を率いた経験のある将帥が乏しいことだ。


 勿論、エジプト軍とて、外国人部隊の経験が全くないわけではない。

 日本人だけでは、どうしても兵が少ないので、現地のエジプト人からも兵を募っている。

 しかし、エジプト軍の場合、基本的に兵を分けずに編制することにしており、日本人とエジプト人は肩を並べて戦うのが通例だ。

 こうした点、ユダヤ人だけが集っているユダヤ人部隊は異質であり、磯野員昌は不安を訴えたのだ。

 

 これに対して、北米共和国は事情が異なる。

 北米独立戦争において、北米共和国側に欧州諸国、特にイングランドやスペイン等は大量の傭兵を積極的に送り込んだ。

 そのために、彼らだけの部隊が編成されることも珍しくなく、例えば、アレッサンドロ・ファルネーゼはスペイン兵だけをまとめた陸軍部隊の指揮官を務めたし、フランシス・ドレークは部下のイングランド兵と共に潜水艦を預かって、戦艦「金剛」の撃沈という大戦果を挙げている。

 こうしたことから、北米共和国は外国人部隊を指揮するのに慣れていたのだ。


「北米共和国も戦訓を得て、又、新たな将帥を実戦で育てたいとも考えているとのこと。酒井忠次を取りまとめ役として、それなりの数の将帥を送り込むとのことです」

「それは有難いですが、酒井忠次殿を送り込んでこられるとは、徳川家康殿も思い切られたものだ」

 柴田勝家と磯野員昌は、そんなやり取りをしたが、その一方で酒井忠次の内心を推測した。


 北米共和国軍と日本本国軍との事実上の最後の大会戦になったグアンタナモの戦いで、酒井忠次は一敗地に塗れた。

 相手に吉川元春や島津義弘といった名将がいたとはいえ、酒井忠次としては、このままでは死んでも死にきれない思いがあるのだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、北米からの助っ人に、酒井忠次さん。松平(徳川)譜代筆頭。 鈴木孫一さんも北米の重鎮ではありますが、北米共和国首脳部にとって所詮、新参の外様。 そこへ行くと酒井忠次さんは重みが違います…
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