第38章ー13
実際、日本の北米植民地の独立戦争を第一報を聞いた伊達智子が最初に考えたのは、これは姉妹喧嘩もいいところでは、ということだった。
もっとも、その姉妹喧嘩をしているのが自分の実の姉二人なのが智子にしてみれば最大の問題である。
血の濃さから言えば和子に味方したいところだが、智子は物心ついた時から日本で育った身である。
だから、日本本国に敵対する等は思いもよらない話で、智子は必然的に美子の側に立つことをまずは考えることになった。
そして、その証に結果的になったのが。
「政宗を事実上は人質として日本本国に送ることになるとは思いませんでした」
「全くだな。だが、織田信長夫妻が面倒を見てくれて、学習院に通うのだ。学友達も和子の甥というよりも美子の甥と見てくれるだろう」
「そうあって欲しいものです」
智子は夫の伊達輝宗とそんな会話を交わした上で、長男の政宗を日本の学習院に通わせることにした。
日本では、政宗は織田信長夫妻の邸宅に寄宿することになっている。
伊達家は南米大陸にいる日本人植民者たちの間では、一番の有力者と言ってよい存在である。
その伊達家が長男を日本本国に留学させるというのは、伊達家は暗に日本本国側に立つと言ったようなものだった。
そして、この伊達家の行動を見て、中南米大陸においては日本本国を支持し、北米植民地を支持しない面々が多数を占める事態が起きた。
(そして、このことは徳川家康や武田義信夫妻を始めとする北米植民地の有力者の面々にとっては地味に痛手となった。
徳川家康が実母や長男と敵対し、武田義信夫妻も夫は弟と、妻の和子は全ての兄弟姉妹と敵対することが明らかになったからである。
和子としては、智子は南米にいる以上は自分に同情してくれて、少なくとも中立を保ってくれるのではと願っていたのだが。
智子は長男の政宗を日本本国に送ることで、積極的に日本本国に味方することを事実上公言したのだ)
だが、その一方で伊達家は水面下ではしたたかな行動を執っていた。
「日本本国政府からは、北米植民地に対する経済封鎖を行うように指示が来ています」
「ふむ。そうは言われてもな。カリブ諸島の米は南米大陸の日本人にしてみれば貴重な食材でな」
鬼庭綱元の言葉に、伊達輝宗は少しとぼけた答えをした。
輝宗としては、北米植民地への経済封鎖に積極的に加担する気が無かった。
中南米植民地の開発が、それなりに順調に進んだのは北米植民地という足場があったからであり、それに北米植民地に対する経済封鎖に参加するというのは、必然的に参加する中南米植民地にも経済的打撃が引き起こされるのだ。
それに北米植民地への経済封鎖を行うとしても、中南米植民地の軍事力は皆無と言ってよい。
裏返せば中南米植民地の住民が、勝手に封鎖破りをして北米植民地と交易等を行っても、中南米植民地はそれを取り締まる手段が事実上は皆無なのだ。
輝宗としては、そういった背景から北米植民地への経済封鎖に参加する宣言はするものの、中南米植民地の住民が北米植民地と交易するのは黙認するつもりだった。
そして、日本本国からそれを咎められたら、それなら取り締まりのための武力を中南米植民地が独自に持たせてほしい、と交渉するつもりだった。
だが、北米植民地の暴走を見ている日本本国政府が、中南米植民地が武力を持っては独立に奔るのではないか、と危惧してそれを認める訳が無かった。
鬼庭綱元にしても、そういった輝宗の真意は分かっている。
「困ったものですな。密輸が横行しそうですな」
「そういうことになるだろうな」
綱元にしても、中南米の事情は熟知している。
輝宗と綱元はお互いに苦笑いしながら会話をすることになった。
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