第37章ー10
そんな動きがカリフォルニアで起こっていることを、オレゴンにいる武田義信夫妻やニューオリンズにいる松平元康らも当然に把握していた。
「外国人の年季奉公人禁止法が制定されると同時に、予てから警告していたのに、日本本国は外国人の年季奉公人を禁止した、このままではすぐに植民地にもこの法律が適用されるだろう、と主張して武装蜂起をし、独立戦争を始めるつもりでしたが、どうも歯車が狂ったというか、時期がずれました」
酒井忠次は、そのように松平元康に状況を述べていた。
「うん」
元康は生返事をしながら、考え込んでいた。
現在、ニューオリンズの近くに自分達がいるのは、独立戦争が起きたという花火を示すのに絶好の場所だからである。
ニューオリンズの軍港を急襲して、軍港の設備を制圧すると共に、できうれば軍艦も鹵獲するつもりだったが、日本海軍の軍艦はグアンタナモ等に全て移動してしまったようだ。
これはこれでニューオリンズを制圧する際に抵抗する兵力が減り、我々が制圧するのが容易になったと言えるが、軍艦をできれば確保したかった。
カリブ諸島は北米植民地の住民が主に開発したところであり、更に言えば、我々にとっては米の穀倉地帯であり、砂糖の主な産出地でもある。
だが、カリブ諸島には余り民兵隊がおらず、更に日本海軍の軍艦を我々が確保できなければ、我々の自前の海軍(?)では、カリブ海の制海権の確保は覚束ない。
独立戦争を起こした後、カリブ諸島を日本本国に一時的に制圧されるのは止むを得ないか。
だが、ニューオリンズの軍事基地が我々に制圧されたという情報は、それ以上の効果を北米植民地に上げる筈だ、と考えるか。
そういえば、カリフォルニアにも陸軍1個大隊が展開した。
それを中核にして、正妻の瀬名らは妙な動きを示しつつあり、こういった状況について、武田義信夫妻からも連絡を受けている。
カリフォルニアは、日本本国側で立つと考えるべきだろう。
だが、その一方でこの時間稼ぎは、我々に有利にも働いている。
カリフォルニア以外の日本の北米植民地にいる面々に対して、自分達への同心を呼びかける時間を持つことができたからだ。
又、皇軍がもたらした知識や技術により、今ではかなり限られるが電話による連絡さえも可能だ。
勿論、有線通信による電報等もかなり普及している。
こうした技術の広まりによって、カリフォルニア以外の北米植民地で一斉に武装蜂起を行うことさえも不可能ではない。
今、我々が武装蜂起を決断すれば、それに呼応して多くの北米植民地の住民がほぼ同時に決起して独立戦争に突入する準備が調えられようとしている。
それにしても、もう引き返すつもりはないが。
「酒井、自分達はどうしてここまで来たのだろうな。北条義時殿の想いが儂はしてきた」
「きちんと奉公には御恩という形で返されるのが当然です。日本本国は我々の対スペイン戦争等の奉公に対して、官位を与える等の御恩という形の返しをするどころか、むしろ外国人の年季奉公人を禁止するという仇を為してきました。更にそれを主導してきたのが、親友の織田信長殿と、武田(上里)和子殿の姉の美子殿です。我々の想いをもっとも汲んでくれる筈の人々が、仇を為すようなことをするようでは。北米植民地の住民の我々が武装蜂起から独立を求める戦いを決断するのも、当然の話ではないでしょうか」
元康の問いかけに、忠次はそう丁寧に答えた。
「ふむ」
確かに忠次の言う通りだな。
我々の想いをもっとも汲んでくれるはずの親友夫妻が、我々に仇を為すようなことをするようでは、日本本国政府に対して、我々が救いを求めても無駄な話だな。
「では、粛々と準備を進めるかな」
「はっ」
これで第37章を終えて、次から第6部の最終章になる第38章になります。
ご感想等をお待ちしています。




