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第37章ー7

 織田(上里)美子が今上(正親町天皇)陛下に密奏を行った翌朝、織田信長首相は今上陛下の下に参内して直近の帝国議会や北米植民地の現状について奏上していた。


「ふむ。第1回通常帝国議会は順当に審議等を行っておると」

「はい。政府が帝国議会に提出した予算案は特に野党等から修正を求められることなく、衆議院と貴族院を通過して可決成立しました。政府が連立与党を通じて帝国議会に提出した法案についても同様です」

 今上陛下の御下問に対して織田首相はそのように淀みなく答えていた。


 そして、一通りの御下問が終わった後、

「それでは外国人の年季奉公人禁止法案だが、この法案が帝国議会で可決成立した場合、本当に北米植民地は暴発して武装蜂起して独立戦争を起こしかねないと内閣は考えておるのか」

 今上陛下は単刀直入に尋ねた。


 織田首相は畏まって答えた。

「ほぼ確実に北米植民地は独立戦争を起こすと考えております」

 今上陛下は更に下問した。

「北米植民地の暴発を何とか止められぬのか。というか、そもそも外国人の年季奉公人禁止法を制定すべきではなかったのではないか」


「それは」

 織田首相としては、何とも答えにくい話だった。

 日本本国内の情勢からすれば、外国人の年季奉公人禁止法は制定するのが当然だ。

 しかし、北米植民地のことを考えれば、外国人の年季奉公人禁止法は制定すべきではない。

 結局のところ、この件はどちらを重視して考えて選ぶかなのだ。

 そして、有権者が日本本国内に限られていることを考えれば必然的に。

 織田首相は、そういったことを、るる説明するしかなかった。

 今上陛下は、織田首相の説明を黙って聞いた。


「それで、北米植民地が武装蜂起して独立戦争を起こした後のことはどう考えている」

「正直に申し上げます。北米植民地の一部の土地を失うのは止むを得ないと考えております。日本本国としては、その失う土地をできる限り減らすのが精一杯です」

 今上陛下の更なる問いに、織田首相はそう答えた。


「何故にそう考える」

「陸海軍部やそれ以外の行政府、主に植民地省が分析するところでは、北米植民地の国力は、日本本国の4分の1と言ったところです。確かに日本本国の国力は4倍に達し、圧倒的に優位なように見えますが、北米植民地は広大であり、更に武器等を生産する拠点は北米植民地の奥地にあります。そして、北米植民地側には地元という地の利があります。これを勘案すれば、北米植民地の独立を完全に阻止して、日本に再統合するのは不可能とは申しませんが、極めて困難です」

 織田首相は、今上陛下の追い打ちと言える問いにそう答えた。


「そんなものなのか」

「かつての坂上田村麻呂らが行った蝦夷征伐のことをお考え下さい。あの時、蝦夷を完全に征伐できたと言えるでしょうか。今回の北米植民地の暴発、独立騒動は、あの時の蝦夷征伐よりも状況が悪い代物なのです。そもそも論になりかねませんが、日本本国から北米植民地までの距離は、あの時の蝦夷征伐が極めて近いものだった、という程の遠くにあります。この遠距離に兵を送り、更に物資を送ることを考えると如何に困難な話か。臣としては(独立戦争が)起こる前からその困難さに恐怖を覚える程です」

 織田首相は、今上陛下の問いにそのようにるる説明した。


「ふむ」

 織田首相の説明に今上陛下はそれ以上の問いを発せず、事実上は沈黙した。

 織田首相としては今上陛下のまとう重い空気の前にどうにも口を開けなかった。


 暫く経って今上陛下はようやく口を開いた。

「分かった。だが、人死にはできる限り少なくせよ。そして、出来る限りは恨みを買わないようにせよ」

「仰せの通りに」

 お互いにそれ以上は言葉にできなかった。

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[良い点] >「分かった。だが、人死にはできる限り少なくせよ。そして、出来る限りは恨みを買わないようにせよ」 賢帝の御代で良かった、最悪の事態は免れそう、と臣民として安堵致しました。 戦争を指導する…
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