第36章ー6
こういった日本の北米植民地の独立を目指した不穏な動きを漏れ聞いて、もう少し複雑な動きを示したのが、オスマン帝国やエジプトだった。
「ふむ。日本の北米植民地でかなり不穏な動きがあると。それこそ日本から独立した国家を作ろうとしているような動きが垣間見えると」
オスマン帝国の大宰相を務めるソコルル・メフメト・パシャは、日本の北米植民地が不穏になりつつあるという情報を聞いて、そう呟きつつ考えを巡らせた。
今の日本は余りにも力を持ちすぎている。
それこそ本気で日本が我が国と戦うことを決意した場合、一応はオスマン帝国の属領扱いとなっているエジプトはこれまでの行きがかり(エジプトのワーリー(総督)は本来は日本人の浅井長政が務めている現状がある)から考えて、エジプトは日本に味方するだろう。
そうなったら、スエズ運河(厳密に言えば、この1574年当時に存在しているスエズ運河は、いわゆる古スエズ運河再開削により開通した代物で、本来のスエズ運河が開通するのはもう少し先の1576年の話になる)を通って、日本海軍が地中海に姿を本格的に表すことになる。
そうなった場合、我がオスマン帝国はエジプト及びマルタ島を策源地とする日本海軍の艦隊によって、海岸部を荒らされると共に、地中海の制海権を完全に喪失するだろう。
それこそ先年にコンスタンティノープル沖合に出現した日本海軍が言うところの大型巡洋艦「三笠」単艦で、オスマン海軍全艦を相手取っても勝てる程の戦力を日本海軍は持っているのだ。
そういった大型巡洋艦を日本は他に3隻持っているし、それを上回る巨艦「出雲」級戦艦を4隻、日本は保有しており、更にそれを凌ぐ戦艦「金剛」を日本は竣工させたとも、自分は聞いている。
(尚、「出雲」級戦艦や「金剛」は現在のスエズ運河を通航できないが、新たなスエズ運河が開通した暁には十分に通航できるとのことだ)
そういった強大な戦力を持つ日本が、北米植民地の独立によって力を削がれるというのは、幾ら表面上は同盟関係にあるとはいえ、オスマン帝国にとっては望ましいことという考えも成り立つ話だった。
「ま、取りあえずはお手並み拝見と行くか」
ソコルル・メフメト・パシャは、日本の北米植民地独立の動きについて、当面は静観して状況が動き次第、オスマン帝国が有利になるように動くことを決めた。
一方、エジプトはもう少し積極的な態度を示すことになった。
エジプトのワーリーの浅井長政の妻お市は、確かに日本の織田信長首相の妹ではあったが、その一方で日本の北米植民地の重要人物である武田(上里)和子と親友だったからだ。
更に言えば、信長の妻が織田(上里)美子である以上、お市は和子とは縁者にもなる間柄だった。
「貴方、北米植民地が独立の動きを示していることにエジプトは中立を保つべきですが、北米植民地への人道的支援や貿易等をエジプトは積極的に行うべきです」
お市はそう夫に力説した。
お市の傍では竹中半兵衛が無言で肯くことで、お市に味方している。
「しかしだな」
長政は難色を示した。
お市の言う通りにしては、エジプトが北米植民地に加担したと日本本国が見るのは必至だ。
「兵を送る等の軍事的支援は確かに問題ですが、食糧等の支援や交易等を行うことまで日本に敵対する行動だとは、流石に日本も言えますまい」
半兵衛が口を開いた。
半兵衛としては、エジプトの経済発展のためには交易が必要不可欠と考えている。
北米植民地はエジプトの重要顧客の一つだ、エジプトの利益を考えるならば、北米植民地への人道的支援や交易を行うことは当然の話だ。
「分かった分かった」
半兵衛の言葉を受け、長政は終にお市の言葉に同意した。
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