第36章ー1 北米植民地蜂起の足音と周囲の反応
新章の始まりになります。
ともかく1574年8月以降、急速に北米植民地内では日本本国からの本格的な独立の動きが起きるようになっていった。
それに呼応するかのように、日本本国等からも北米植民地の独立阻止の動きが起きるようになった。
そして、それに絡んで様々な人物がうごめきだすことになった。
「ふむ。きな臭すぎる動きだな」
水野信元は、目の前にある書状2つを読み終えた後、自分の考えをまとめるためにも独り言を呟いた。
まず一つ目の書状は、義弟の久松俊勝からの書状だった。
義理の息子になる松平元康からフロリダで新たな農地を開墾して田畑を作ったと知らせてきた。
久松家にその田畑を引き渡したい、そこで裕福に暮らされてはどうか、それこそその田では日本本国に売れる程の米が取れます、勿論、家族どころか小作人までが米を飽食できる見込みです、とまで元康の書状に書いているので、家族揃って行こうと考えているという半ば挨拶を兼ねた書状だった。
もう一つの書状は、自分にしてみれば義理の姪であり、又、言うまでもなく松平元康の正妻でもある瀬名からの書状だった。
最近、夫の元康の所業が余りにも怪しすぎる、私や信康をないがしろにするだけならまだしも、日本本国に弓を引くような態度を取るのではないか、と危惧している。
そうなった場合、私としては夫に同心出来ないし、息子夫妻にも私に同心するように説いている。
信元殿も私に同心されたい、とその書状には書かれていた。
信元は暫く考え込んだ後、弟の忠重を呼び寄せた。
「何用でしょうか」
「うむ。ちと相談に乗って欲しい」
信元は忠重に二通の書状を示した。
更にその二通の書状を忠重が読み終え次第、二人は密談を始めた。
「儂からして妹、お前からすれば姉の於大の家族がフロリダに行くのを止めるようなことをしては、甥の松平元康の疑念を招くだろう。それ故に於大の家族がフロリダに行くのを止めるようなことを儂はせぬつもりだ。もっとも、更なる理由があるがな」
「今更の話になりますが、甥が羨ましくなりましたか」
信元の言葉に忠重は茶々を入れるようなことを言い、信元は何とも言えない表情を浮かべた。
水野信元は、元康の実父の松平広忠と共に北米植民地の最初期の開拓を行った身である。
そして、それは大成功を収めて、今でもこのカリフォルニアでは有数の大地主と言え、松平信康と共にカリフォルニアの二大勢家と言ってよい。
だが、それはカリフォルニアでの話だ。
結果論になってしまうが、水野家と松平家がカリフォルニアを開拓した、その後に北米植民地の開拓に赴いてきた面々、武田家を始めとする東海や甲信、南関東の国人勢力に加え、法華宗不受不施派や浄土真宗本願寺派といった宗教勢力が、カリフォルニア以外の北米やカリブ諸島への侵出、開拓を積極的に進めた結果、今では北米(及びカリブ諸島)の植民地の二大巨頭といえば松平元康と武田義信、更にそれに続く勢力が法華宗不受不施派と浄土真宗本願寺派と多くの北米在住者が述べるだろう有様を呈している。
いつの間にか、信元は甥の元康らの下風に立つ有様になっていたのだ。
勿論、元康は信元を伯父として、それなりどころではなく立ててくれてはいるが、信元にしてみれば余りいい気になれない状況なのは間違いない。
そうしたところに、元康らが謀叛、日本本国からの独立を企んでいるらしい、という情報が瀬名から飛び込んできたのだ。
信元にしてみれば、胸中の面白くない想いを晴らす絶好の機会と言えた。
「うむ。於大がフロリダに行くのは黙認するが、儂は瀬名らに加担しようと思う。いかぬか」
「いえ、帝に弓を引くわけにはいきませぬ。それが当然かと」
忠重の言葉に信元は深く頷いた。
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