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第35章ー11

 実際、オレゴンに戻った武田(上里)和子の動きは急だった。

「何、日本本国では年季奉公人禁止法案を可決する動きがあるだと。更にそれを皮切りにして、年季奉公人の全面禁止を植民地にも拡大する予定のようだと」

「ええ。姉の織田(上里)美子からはそのように聞きました」

「そんなことが本当に起きたら、南北米大陸及びその周辺の植民地が崩壊するというと大袈裟だが、少なくとも大西洋での貿易が大幅に滞りかねないぞ。そうなると北米にいる日本人にとって死活問題になる」

 妻の和子の話を聞いた武田義信は血相を変えた。


「姉は年季奉公人禁止法案が適用されるのは日本本国内だけだ、南北米大陸を始めとする日本の植民地に適用するつもりはない、と言っては来ました」

 和子はわざとそこで言葉を切って、義信の目を覗き込んで言った。

「それが本当に信じられるでしょうか。更に言えば、日本本国は我々、北米植民地の住民に対して余りにも冷たい態度を取り続けています。表向きは日本国内の完全な和解を進めるためとの名分を掲げていますが、豪州の足利義輝殿は従三位、南米の伊達輝宗殿は従四位下等の官位が与えられたのに、北米では松平元康殿も貴方も官位を授与されず、当然に他の方々も官位を授与されない等、公然と冷遇されています」


「うーむ」

 妻の和子の言葉を聞いて、義信は考え込んだ。

 義信としては、和子の言葉は言い過ぎとの考えが拭えない。

 何故なら、足利義輝殿や伊達輝宗殿らは「皇軍来訪」以前の家格を考えれば、それだけの官位を授与されて当然の立場だからだ。


 足利義輝殿は言うまでもなく足利将軍家の当主だし、伊達輝宗殿も陸奥守護家当主の家格を誇り、それだけの官位を「皇軍来訪」以前は授与されていた家格を持つ。

 それに対し、松平家は幾ら有力だったとはいえ、それこそ三河の国人に過ぎないし、武田家は内輪もめが甚だしかったのもあるが、自らの祖父武田信虎は甲斐守護とはいえ従五位下に過ぎなかった。

 自らの実父の武田晴信は従四位下に叙位されて亡くなってはいるが、これは陸軍の将軍として授与されたものであり、武田家の家格から叙位されたとは到底言い難い代物だ。


 今回の足利義輝殿や伊達輝宗殿らへの官位授与は、「皇軍来訪」によって生じた日本人間の内戦(?)の傷を完全に癒して、過去のものとするということから行われたものである。

(名目上は植民地開発への功労を賞するということから官位授与が行われた)

 そのために古河公方家の足利藤氏や、今では足利義輝の家臣といえる存在になっている細川藤孝にも細川京兆家の当主であるという事情から従四位下の官位が与えられており、他にもそれなりの人物に「皇軍来訪」以前の家格に合わせた官位が与えられている。


 そうした事情を無視して、豪州等にいる面々に官位が与えられすぎだ、優遇され過ぎだ、それに対して北米では、と不平をこぼす者が義信の近くにも多い。

 しかし、そもそも論になりかねないが、豪州等にいるのは内戦(?)によって日本本国から追放された高位の家格の者がいるのに対して、北米にはそういった家格の者がいないという事情がある以上は当然の話であるともいえる。


 それに義信は妻の和子の顔を見ながら、内心で考えた。

 この和子の憤りの裏には、自分達夫婦だけが姉妹の中で官位を全く持っていない、という私憤も大きいような気がしてならない。

 官位というのはそう濫発されるものではないのだが、和子は姉の美子が従三位に叙せられたことから、官位が気軽に与えられるものと思っているのではないか。

 従三位以上に叙せられている者等、日本全土でも30名もいない高位の官位なのだが、和子はそうは考えていないようだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 武田義信さん、妻の性格を良く理解していますね。慎重なのは結構な事です。 [気になる点] 武田家、史実世界の一族内紛酷過ぎ。 皇軍来訪世界の武田晴信将軍は確かに幸せ。 [一言] 史実世界の…
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