第6章ー2
そうした次第で、1548年2月、アユタヤの街で太い大きな商いを派手にしている上里松一海軍大尉の下に、思わぬ来訪者があった。
「張松一に、傭兵を取り扱う気はないか、と聞いてくれ、という日本人の客が見えました」
「誰だ、そんなことを言うのは。上里屋は、決して人は取り扱わない、と言い返して追い返せ」
「ともかく、主に会わせろ、そうすれば気が変わる、の一点張りです」
「全く困ったものだ」
それなりに気が利く手代が困り切って、上里大尉の下に報告してきたのを受けて、上里大尉は店頭に出て、少なからず驚く羽目になった。
「辻政信大佐」
陸軍大佐の軍服を着た辻大佐が、店頭にいたのだ。
慌てて、上里屋の中に、上里大尉は辻大佐を招じ入れたが、辻大佐はそれなりに人目に立つ。
それに軍服で来るとは、ただならぬ用事だろう。
少し悩んだ末、上里大尉は、私邸で辻大佐と話し合うことにした。
プリチャは、辻大佐の衣装を見ただけで、すぐにただならぬことだと察した。
日本の風習に合わせて、粗茶を出した後、プリチャは子どもや使用人に、上里大尉の傍に絶対に行かないように命じ、更にそれとなく完全に二人きりになれるように、自分で目を配った。
辻大佐も、プリチャの振る舞いに気が付いた。
「中々、いい妾を迎えておるな。全く正妻にしたらどうだ」
「それは何とも、張敬修殿に悪いです」
いきなり、プリチャのことを褒められ、上里大尉は悪い気はしなかったが、本当に頭が痛くなった。
妻妾同居生活等、自分は望んだことが無いのに、事態がその方向に流れている。
「それはともかく」
辻大佐は悪い目をして、言葉を続けた。
「シャム王国と軍事同盟を締結したい。その代償として、日本の軍人200人を、日本から取りあえずは出せるだろう。勿論、前装式ライフル銃を全員が装備した部隊だ」
「遂に実戦投入可能になったのですか」
上里大尉は、ここに至る長い道のりを想い起こし、5年余りの歳月の流れを感じた。
上里大尉は、琉球(沖縄)を離れ、シャムへ、更にその中のアユタヤに腰を据えた後、今に至るまで、日本の情勢は、様々な激動の嵐に襲われたと言っても過言では無い。
上里大尉が琉球(沖縄)を離れた直後、皇軍は、日本本土上陸作戦に成功して、南九州に地歩を築いた。
更に、皇軍は上洛作戦を成功させ、室町幕府を滅ぼし、終に帝、今上(後奈良)天皇陛下の下で、王政復古の大号令が発せられたのだ。
いわゆる天文維新の開始である。
とはいえ、それは様々な苦難の始まりでもあった。
何しろ、まともな政府上層部をいきなり作り、更に様々な統治機構を整備しないといけなかったのだ。
皇軍上層部、幹部に、そのような能力者が揃っている筈もなく、また、室町幕府を滅ぼしたとはいえ、その代わりとなる筈の朝廷を構成する公家達は、そのような政府を構成する覚悟を持っていなかった者がほとんどだった、といっても過言では無かった。
しかし。
軍事力については、皇軍が圧倒しているという事実が、有利に働いた。
そのために、完全に武力による平和だったが、日本国内から戦禍が無くなる方向に流れたのだ。
少々、政治が混乱しようと、戦争が無く、平和になって、それなりに飯が食えるようになれば、これまで戦禍にさらされてきた庶民にしてみれば、明らかに政治が良くなったことに違いは無い。
そうしたことから、それこそ不満を持つ者にしても、武装蜂起してでも、という過激論までにはそう至らなかった。
敢えて言えば、大内義隆が一番、武装蜂起の可能性が高かったが、(ある意味、史実同様に)京に在京している内に文芸に流れてしまった。
そうしたことから、日本国内の戦禍は完全に途絶えることになったのだ。
ご感想等をお待ちしています。




