第34章ー10
「天城型航空母艦ですが、どんな空母になるのです。それこそ1万トン級の小型空母ですか」
「いえ、船体だけからいえば、金剛型戦艦より大きい3万トン級の大型空母になります」
「それは凄い」
「結局のところ、天城型航空母艦にしても航続距離を確保しないといけませんからね。極端なことを言えば、地球の裏側まで赴けるような空母でないと困るのですよ。更にそうなると、兵員の設備もそれなりどころではすまなくなります。結果的に大型化しないとどうにもなりませんでした。それに」
小早川隆景大佐は、そこで言葉を切った後で遠くを見ながら言った。
「何れは、その空母に載せる航空機は全金属製の単葉機になるでしょう。更にそれより進んだ航空機を載せるようになるかもしれない。それを見越して考えると、最初から大きい空母を建造しておいた方が良いと考えたようですよ」
「卓見ですな」
小早川大佐の言葉に上里松一も肯かざるを得なかった。
この世界の1574年現在、量産されている日本の航空機は布張りの複葉機に過ぎない。
だが、皇軍はジュラルミン等を使った全金属製の単葉機をこの世界に持参してきており、又、それこそ書籍の中の代物だが、ジェット機やロケット機の知識さえももたらしたのだ。
後、何年掛かるか、正確には分からないが、56歳の自分が10年程も生きられれば、天城型航空母艦にジェット機は無理にしても全金属製の単葉機を搭載するのを眺められるのではないか。
そういったことを考えれば、この世界に来た空母龍驤が小型故に使い勝手が悪かったのを教えられたこの世界の海軍軍人が、いきなり3万トン級の大型空母建造に乗り出すのも当然か。
松一は、そこまで考えを進めた。
「もっとも、そうはいっても日本の通商保護のために大量の軽巡洋艦も作らないといけない。何しろ最初期に作られた機帆船は軒並み退役時期が迫っていますからね。酷使しつづけたために、船体等がかなり傷んでいるのです」
「そうでしょうな。艦齢が20年を超える機帆船も、そろそろ出つつあります。その後を補充するためにも軽巡洋艦は必須でしょうな」
小早川大佐の言葉に、松一も肯かざるを得なかった。
何しろその頃の軍艦用の機帆船は、下手をすると全木造艦だった。
良くて鉄骨木皮だった。
こういった軍艦が、インド洋や太平洋の荒波を何度も経験してきたのだ。
ドック入りして補修を繰り返すこと等で延命を図ったが、そうはいっても木造船では限界がある。
こうして傷んだ機帆船を退役させないといけない以上、それを置き換えるための軽巡洋艦を日本は大量に作らざるを得ない。
「ですから、天城型航空母艦は2隻しか建造されない予定です。金剛型戦艦が4隻完成した暁には、出雲型戦艦や三笠型大型巡洋艦は全て予備艦になる予定でもあります。そうしないと、軽巡洋艦の整備等が追い付かないのですよ」
「それは何とも悲しい現実ですが、そうはいっても、そんな大型艦が多数いるのか、それよりも軽巡洋艦が必要ではないか、と反論されると否定できない現実でもありますな」
小早川大佐と松一は、更に突っ込んだ会話をし、他にもよもやま話をした。
「天城型航空母艦が完成した暁には、又、見学に招待されると思います。元皇軍士官として、その際のご感想を楽しみにしたいと思います」
「ええ、今から楽しみに待ちたいと思います」
それこそ何時間も語り合った末、小早川大佐と松一は最後にそう言い交わし、二人は別れた。
松一は地上から改めて「金剛」を眺めながら考えた。
この軍艦が実戦を経験することは、多分、無いだろう。
税金の無駄遣い、と言えば無駄遣いなのかもしれない。
だが、この世界がここまで来た証といえば証だな。
第34章の終わりになります。
次話から新章になる第35章になり、上里松一や美子らは北米に家族旅行という形で向かい、和子らと会って裏を含めて様々な話をすることになります。
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